曖昧トルマリン

graytourmaline

■ 時間軸:vs. ダンブルドア戦という名の揚げ足取り合戦直後

■ 23話『牛すね肉と牛蒡のシチュー』でパブ内に残った2人の話

■ ジョン・スミスはお爺ちゃんの想像以上に正直で真っ当

■ 申し訳程度の過去話が出て来る

■ ジョン・スミス視点でダンブルドアに延々と喋ってるだけ

鏡の中のお喋りスミレ

 あら、なあに。何の用かしら。
 ええ、久し振りね。無視するのかって、当然じゃない。なんで私がお相手しなきゃいけないのかしら。構って欲しいのならその辺に座っている取り巻きと心ゆくまでお話しすればいいでしょう。だって貴方が欲しがれば何でも差し出すものね、世紀の魔法使い、アルバス・ダンブルドアの為なら。
 何故ここにって、ねえ、言葉も態度も高圧的で嫌になっちゃう、本当に質問の仕方がなっていないわね、せめてプリーズくらいは付けて言えないのかしら。
 いいえ、別に隠す程の事でもないわ。
 でも、貴方達はただの一組織で公的に認められた行政機関でも何でもないじゃない、豚箱ブチ込まれるような権力も持っていない相手にそこまで……なんでここでアーサー・ウィーズリーの名前が出るのかしら。
 知っているのかって? 当然、知っているわよ、マグル製品不正使用取締局の局長さんでしょう。本当に嫌な男ね。ブッキーは信用と情報が命なのに、痛くもない腹でも大っぴらに探られると不快な行為なの、特に貴方は探りを入れようとする箇所が箇所だから、ねえ。
 下品なお話はお嫌い? ええ、私も大嫌いよ、でも貴方の嫌がる顔を見れるのならちょっとくらいは我慢するわ。本当に、とっても不愉快そうなお顔ね。全く可愛らしくもなければ美しくもないけれど。それに比べてさっきの子、レギュラス・ブラックは不機嫌なのに綺麗なお顔をしていたわね、新聞の粗い写真で見るお澄ましした顔よりもずっと。あれで女の子なら放っておかないんだけど、世の中そんなに甘くないって事かしら。
 それで、何時まで私に付き纏えば気が済むの。取り巻き共は皆いないわよ。
 要らないわ。何で貴方みたいなのに奢られなきゃいけないの。
 バーテン、今の注文は無視してサイダーを頂戴。私はストレートなの、色目を使ってくるゲイセクシャルの年寄りに奢られる酒程、生産者に失礼な飲み物はないでしょう。
 あの時の事を怒っているのかって? どの時の事かしら。今この瞬間、マグルの格好をしないまま人払いをして盗聴防止の呪文を唱えた事を含めて、私は貴方の起こす全ての行動に大小の差はあれ憤りを覚えているのだけれど。
 ふうん、そう、私の嗜好を勘違いして関係を迫った事を謝りたいの。でもそれって大分昔にも謝罪をされて、こっちも受け入れたのよねえ。だから貴方の口利きでこんな若造が理事なんて一銭にもならない名誉職やれている訳だし。
 あのね、私は今も昔も貴方の事爪の先程も尊敬していないし、この世から消滅して欲しいと思うくらいには嫌っているの。
 でも、例のあの人が力を付け始めていた当時、碌な対抗策のない魔法界には何としてもアルバス・ダンブルドアという男が必要だった事くらいは人生経験の浅い若造でも理解していたのよ。何せ、実力がある上に腹黒くて性格が最悪だからね、貴方きっと官僚に向いてるわよ。そうなる事で、魔法界の生活が豊かになるかどうかは、兎も角ね。
 ええ、本当に、心底嫌で嫌で仕方がなかったけど、でも私は私個人と私が所属する社会全体の利益とを天秤に掛けて後者を取ったの。あんな浮ついた組織が政を左右する国家が成立したら私も生きていけなくなるから。
 それに私は賭博屋よ?
 暇を持てあます平和で自由の利く世界で、安全な刺激を得る為にお金を出してくれるお客様が沢山いなければ成り立たない商売だもの。偶にのめり込み過ぎて破産するアホもいるけど、それは病気ね。心か、頭の病気。マグルの医者に診て貰うべき人間であって、私の管轄じゃないわ。
 何よ、雑誌って。ああ、昔出版された下品な週刊誌。私と貴方の両方を嫌っていた子が書いた記事ね。あの子も病院にお世話になるべき物件ね、窃視症と妄想癖の気があるから。
 ああ腹が立って来た。空きっ腹にアルコールなんて入れるものじゃないわね、何の慰めにもならないんだから、もう。あの雑誌の所為で隠していた女装趣味は世間に暴露されるわ、後継者闘争からは満場一致で外されるわ、胸糞悪い相手に迫られたのかって好奇心だけは強い下衆に興味持たれるわ、散々な目に遭った過去が沸々と蘇ってきたわ。例のあの人さえ台頭していなかったら逃げる為に使った力をそっちに注げたのに。
 言っておくけど、貴方の信者にも相当叩かれた恨みも十分にあるのよ。アルバス・ダンブルドアをゲイセクシャルにするには何事かって。それは真実なのに、よりにもよって言い寄られた被害者の私によ?
 いい加減カミングアウトしてくれないかしら、私は男根愛好者ですって。
 何なら貴方が最後に本気の恋をした野郎の名前を大衆に流して上げましょうか。昔の私に言い寄って、未だにこうして接触を図っているのは、美人で大柄で巻き毛の男が忘れられないからですって、ね。だって、貴方、私が女装している時は絡んでこないものねえ?
 ははっ、凄い目。そうよね、貴方ってそういう人よ。
 ねえ、何度も言うように、私はブッキー、ブックメーカーよ。オッズを提示する為の情報は命と同じくらいに大事なの。現在を見る目も、過去を聞く耳も、手段は沢山持っているわ。今、こうして心を抉じ開けようとしている貴方のような、口にするのも忌々しい品性の欠如したような手を使わなくたっていいの。
 それで? 私に何の用かしら。
 最初に告げた言葉をもう一度、言ってあげたわよ? 生憎、私は他人の心を覗き見る趣味はないから口で丁寧に言って貰わないと判らないわ。
 どうか、この店に来た理由を教えて欲しい? 言わなくたって判っている癖に。ええ、そうよ。って男の子。貴方、いいえ、貴方達、ここ数年あの子に掛り切りみたいじゃない。
 面白い経歴の子だとは思うけど、何で執着するのかしらって気になってね。あら、勿論素直に教えて貰えるとは思っていないし、取引する気も毛頭ないわ。ブラック家のお若い当主様が怒髪天を突いてたからデートには誘えなかったけど、次の機会を待ちましょうか。きっと楽しいお話が出来るわ、だって私もあの子も貴方の事、大嫌いだもの。
 もう一つ? 例のあの人が復活しているから気を付けろ?
 ああ、根も葉もない噂で聞いた事があるから新鮮味はないわね、それで、それを私に知らせて何をどうしたいのかしら。
 ……は。まさかと思ったけど、そういう魂胆なの。
 ねえ、貴方、あの時何をしたか、何をさせたか忘れたとは言わせないわよ。穏やかで優しい彼女を傀儡に仕立て上げて、犯罪者に転落させた過去を。ええ、世間の誰も彼女を犯罪者とは思わないでしょうね、そんな事があったなんて知らないでしょうね。彼女の行為は未遂で、私も訴え出なかったから、今となっては私と貴方しか知らない事よ。
 でもね、それを黙っているのは彼女の一族の為でも、魔法界の為でもないわ。勿論、彼女に対する情からでもない。屑に洗脳されるような女に惚れ込んで、暇を見つけては茶会を開いていた坊っちゃん思考の青くて若い頃の自分自身が恥ずかしいからよ。
 命を粗末にするべきじゃない? 例のあの人が私を狙って来るから、貴方や部下達が守ってくれる? 目を開けたまま寝ているのかしら、馬鹿を言わないで。貴方の部下が私を守る訳ないでしょう? 貴方の陣営にいた人間がどの程度死んだか把握しているのよ。守る気なんて微塵も感じさせない、所属したら最後、本来姿を隠すべき情報屋や密偵だろうと最前線送りにされて、裏切り者共が跋扈する血で血を洗うような地獄じゃない。
 噂が正しくて、例のあの人が復活したのなら、貴方の能力はまた必要になるわ。貴方以上の指導者が現れない限りは、だけど。
 ねえ、アルバス・ダンブルドア、私はジョン・スミス、スミス家の血を継ぐ男よ。
 ホグワーツ魔法魔術学校の理事の1人にして、創設者ヘルガ・ハッフルパフの末裔が、この10年、例のあの人の復活を予感しつつ真っ当な教育を怠って来た外道と手を組むなんて事態は、たとえ命を危険に晒されてもありえない。
 教育者の皮を被った人でなしの軍門に下って使い捨ての駒となるくらいなら自死した方がマシだと、そう言いたいのが何故判らないの。