■ 21話『レンズ豆のテリーヌ』(裁判話)のIF
■ ダンブルドアが遅刻してフラグが立ってしまった話
■ 恋愛路線に突入したので没になった筋を改変
■ 登場しないメルヴィッドが地の文で変態変態言われている
■ レギュラスは普通、同性愛のペド野郎を普通と呼ぶのなら普通
■ でも正直本編のレギュラスより大分まとも
■ 判決が下ってクリーチャーと別れた所から開始
■ お爺ちゃん視点
恋するリビングデッド
だからだろう、自然とこんな事が口に出てしまったのは。
「レギュラスの恋人になる方は幸せですね」
「どうしてかな?」
「隣を歩くだけで、どれだけ大切にされているか実感出来ます」
「ありがとう。でも、どうだろう。学生時代に付き合った女性は皆、面白くない男だと言って他の男に走ったよ。ああ、でも」
彼が複数の恋人に捨てられたとは意外な過去であったが、続く言葉を聞いて今はそんな呑気な事を考えている事態ではないと気が付いた。
「君だからこそ、なのかもしれない」
「私だから、ですか?」
「好きなんだ、の事」
さらりと告げられた言葉に対する模範解答は、勿論私も、と言いたい所であるが、怪我をしていた右手を取られ手の甲に口吻を落とされながら返す言葉とするならば寧ろマイナス点が加点される事くらいは私も理解出来る。理解出来た所でどうしようもないが、しかしどうすればいいのか全く判らない。
レギュラス・ブラックに恋愛対象というか、このくらいの年頃の子なら延長で性的対象として見られていた事を今更気付き、さてどうしようかと考え込む。
我が家には既に、手に負えない変態が約1名存在しているのだ。責任を取れと言われたのでそれに渋々ながらも乗っかり3年以上も関係が続いている辺り私もどうしようもない変態なので実質2名なのだが、話が脱線どころか離脱するのでそれは横に置いておこう。
幸いと呼ぶべきか爛れていると表現すべきか、恋だ愛だと戯言を紡ぎながら付き合っている訳ではなく単に性欲の捌け口ではあるのだが、そこそこ独占欲が強く割と面倒臭い性癖のメルヴィッドと、どうやら純粋な恋愛感情を持っているらしいレギュラス・ブラックが折り合いを付けられる可能性が皆無に等しい。
しかし、ここで断るのも後が拗れそうで面倒臭い。最悪、以降ブラック家の力が使用出来なくなる可能性が出て来る。恐らくレギュラス・ブラックはある程度自信があってこの告白をしたのだろうから。余程良い返事を貰える自信がなければ同性のペドフィリアと言う二重苦である事を告白しない、実際、彼の読み通り私の性的倫理観は非常に緩いのだし。
しかしブラック家の末裔の1人が男色に走るのは些か問題がある。彼には是非純血の女性と結婚して子供を作って欲しかったので。別に私は熱狂的且つ偏執的純血崇拝者ではないのだが、ここまで保ってきたなら出来れば純粋な血統を維持して欲しい程度の思想ならば持っているのだ。メルヴィッドの手駒の彼が現在の路線から大幅に外れると軌道修正が大変、というのが本音だが。
「ごめんね、困らせて。でも、君の事が好きなんだ、気が狂いそうになるくらいに」
そのまま狂って貰った方が寧ろ簡単に手綱を握れそうではあるが、脳味噌の代わりに藁が詰まっていそうな周囲の人間から色仕掛けで云々噂されるのも嫌なので矢張りここは元の路線に戻る説得を行うのが得策だろう。
「……ごめんなさい、レギュラス」
「どうしても、駄目かな」
右手を取っていたレギュラス・ブラックの手が頬に滑り込み、灰色の瞳が捨てられた子犬のように揺らいでいた。彼といい、メルヴィッドといい、スリザリン系はこういった情に訴える演技が得意なのだろうか。
「怖いんです」
「何が怖いの?」
「私に好意を寄せてくれる人は、あの人達に目を付けられる。それが、怖いんです」
「ああ、そうか。さっき、そう言っていたね」
自分で言っておいて何だが、改めて検証してみるとこの条件、メルヴィッドを始め、レギュラス・ブラックやクリーチャーも当て嵌まる事に気付き慌てて修正をかける。
「本当は、メルヴィッドに引き取られた今も、ずっと怖いんです。今でも、怖くて仕方がない。それでも、あの人は全てを受け入れるから家族になろうと言ってくれた」
「僕はその中に、入れないの?」
「ごめんなさい。レギュラス、本当にごめんなさい。私にはあの人だけで一杯なんです、貴方と友人になれた事すら怖い。どうしようもなく怖くて、でも寂しかった、普通の人達みたいに家族や友人が欲しかった。恋をしてみたかった、でも、私に関わったら不幸になる」
「……そうだね。君は、そうされてしまったんだね。君の所為ではないのに」
熱の篭った視線でそう告げると、額にキスを落とされ大丈夫だと言われた。その、大丈夫の意味が恐ろしく感じたのは気の所為ではない。
何をやらかす気だ、レギュラス・ブラック。
「レギュラス?」
「大丈夫。誰にも、何もしない、今はね」
何もしないのではなく、何も出来ない。ブラック家の力も然程回復していない、と隠された言葉を読み取れたような気がするので、その辺りの判断を下せる程度には冷静であったかと胸を撫で下ろす。
しかし私の元々の目的はダンブルドアへの復讐であったが、輪をかけて面倒な事態になって来た。既に私は変態性が開花してしまった、曰く私が開花させてしまったメルヴィッド1人で手一杯なのに一体どうしろと。少々擁護をして勇気付けただけなのに、まさかレギュラス・ブラックがここまで私に傾ぐとは思っていなかった。
何処で歯車の噛み合わせが狂ったのか。方向性としては確かにこちらで間違いはないのだが、とてつもなく面倒な感情と状況が付随している。
「」
名前を呼ばれ顔を上げると、恋をしている人間の盲いた目がゆるりと細められた。自然な仕草で腰が屈められ、唇同士が接触する。
「必ず、君を幸せにしてみせる」
だから待っていてと言いながら、どさくさに紛れて再度キスをしようとしたレギュラス・ブラックがふと顔を上げた。エレベーターホールが設置されている方向から足音が聞こえたからだろう。
意思を持ってこちらに近付いて来る足音が角の直前で一度止まり、やや躊躇うようにして更に一歩を踏み出した。
「僕等に何か用でも?」
薄汚く老いた白から私を守るように、小さな王の名を持つ黒の少年が一歩前に出る。
取り敢えず、今迄に起きた出来事とこれから起こるであろう出来事を、最近開き直りを覚えて気儘に変態プレイを強要するメルヴィッドに報告しなければならない厄介な未来予想が確定された。逃避したい所であるが、レギュラス・ブラックからもダンブルドアからもメルヴィッドからも其々全く違う理由で逃げられそうにない、しかも全く嬉しくない事に全員が男色家である。
改めて言語として現状を確認した所為で重度の目眩に襲われた気分になり、私はその場に倒れたくなった。我が家唯一の良心であるユーリアン辺りは同情してくれるだろうと思ったが、よく考えると私も男色家であったので無理であろう。
多分、傍目から見ると最も不幸で可哀想なのはユーリアンなのだろうなと思い至り、彼の魂の安息の為に心の中でだけ十字を切っておいた。