曖昧トルマリン

graytourmaline

ビオラのシフォンケーキ

 ありのまま、今起こった事を話そう。扉を開けたその先には、赤毛のテキーラ娘がいた。何を言っているのか判らないと思うが私も以下省略。
 虐待されていたハリーを見て逆上したメルヴィッドを制止した時以上に思考が乱れ、私の固く筋張った脳が出来る限り回転率を上げ現在置かれている状況の整理を行っているが、ご覧の通り進行状態は決して芳しくない。念の為、テキーラ娘で脳内の画像を検索して比較を試みたが、目の前の存在の方がカールした赤毛である事以外は特にこれといった差異が見当たらなかった。
 高身長で端正な顔立ちのボディビルダーが、南国の魚ような色彩の女装と奇抜な厚化粧をしている。ほぼ同じだ。胸に詰め物がない事とテキーラの入った籠を所持していない程度の差異も認められたが、正直全部どうでもいい。
 ひとまず、麻痺と恐慌を併発しそうな思考を正常値に戻す為、この状況に至るまでに何が起こったかを順を追って話そう。でなければ、流石の私も次の行動に移せない。私よりも常識のあるメルヴィッドやエイゼル、レギュラス・ブラックの面々ならば尚更である。
 今回の衝撃的な出会いの、そもそもの発端はレギュラス・ブラック、彼からであった。
 その誘いが来たのはギャリック・オリバンダーから杖の売り渡しを拒否された翌日、3月始めの土曜日、今朝の事である。
 ホラス・スラグホーンからの紹介で、彼宛てにジョン・スミスと名乗る人物から手紙が届き、本日の午後、時間の都合が付くのなら私達に杖を売りたいとの申し出があったらしい。勿論、非常に偽名くさい名前からして物凄く怪しいので裏を取ったらしいが、ベット・ヴィオラと呼ばれる魔法界大手のブックメーカーを筆頭に、アンティーク品や絵画の売買や融資業務も兼ねたリース会社等を手広く経営する旧家の人間で、曰く付きの杖を蒐集する実在の人物という事である。
 急な事ではあったが、こちらは未だ開店していない個人事業主と従業員、気軽な学生の身である上、幸いな事に本日は土曜日であった。数分に満たない簡易会議の末、クリスマス・パーティの時にホラス・スラグホーンの言っていたスミス家のジョンが彼ならば会って損にはならないだろうと結論に達し、若干警戒しながらも指定の場所、ホグズミード村の一画に存在するマダム・パディフットのティーショップ2階にやって来て、大して広くもない一番奥の部屋の扉を開ければご覧の通り、若干違う部も混ざっているがラスボスを前にした電信柱頭のフランス人状態である。
 確かに、この店の前に辿り着いた瞬間から嫌な予感はしていたのだ。
 ピンクを中心にパステルカラーを配色した外装だとか、窓から確認出来たフリルやらリボンやらで飾られた甘ったるい店内とか、そこに溢れるホグワーツ生のカップル集団を見た時から、ずっと。
 外出許可日に当たるなんて最悪だと呟いたレギュラス・ブラックの言葉には、普段揚げ足取りばかりしているエイゼルも全力で同意していた。
 心配性が抑え切れなくなって私達に付いて来たアークタルス・ブラックが、あの男必要な情報を態と渡さなかったなと、無表情のまま呪詛を吐いていたので、今回の情報元であったらしいお調子者のホラス・スラグホーンが後できっちり締められるのは間違いないだろう。何時もならば、まあまあそこはちょっと彼の事だから悪気はないのだろうと適当に宥めるのだが、今回ばかりは全く同情出来ない。
 しかし店の外観を目に入れた途端、お祖父様は三本の箒で待機して下さいと全力で説得した孫は素晴らしい先見性を持っていた。仲介者として自分は残ると宣言した事も含めて、流石ブラック家の当主様、大英断である。
 この手の系統が得意でないメルヴィッドとエイゼルや、そもそも耐性が全くないらしいレギュラス・ブラックもポーカーフェイスに失敗して全力で血の気を引かせているのだから、ちょっと孫の結婚相手を男にしたいと嘆いている以外は割と良識派のアークタルス・ブラックがこの赤毛のテキーラ娘を見たら最悪心臓が止まってしまうかもしれない。それくらい、この印象は激烈であった。
 かなりぎりぎりではあるが、見せかけでもこの中で平静を保てているのは変人部類に属している私だけではないだろうか。
 さて、過去を振り返る思考の海から時と場所を戻して、今は正に、赤毛のテキーラ娘の眼前。行くも地獄、戻るも地獄、とは言わないが、しかしここで踵を返すのも問題である。
 こうして少々過去を振り返りながら考えてみると何故か私の本能が訴えるのだ。何処かでこの人物と会った事があると、第六感以外の部分が強烈に主張している、ような気がする。
 私の脳はようやく冷静になったのか、今度はその引っ掛かりを全力で検索し始める。
 まあ、テキーラ娘と言っても要は女装と厚化粧をした2メートル近い身長の筋骨隆々な男性であるので、こうして見慣れればどうという事はない。第一印象こそ奇抜であるが、よくよく考えてみると殺して燃やせば炭化するようなただの炭素生物である。
 さて、ではその人間の何に私の脳は引っ掛かりを覚えたのだろうか。
 間違いなくこのテキーラ娘の姿で会った事はない、老化が大分進んでいるがこの衝撃を忘れられる程、私の脳細胞は死滅していない。視覚が当てにならない、声は未だ聞いていないので聴覚でもない、握手すらしていないので触覚でもない、ならば頼りになるのは嗅覚だろうかと思い至ると、懐かしい菫の香りがしている事にやっと気付く事が出来た。
「ああ、あの時の。申し訳ありませんでした、ジョン・スミス様。前をよく見ていなかったので、ぶつかってしまって」
「あら、覚えてくれていたの? そんなの気にしなくていいのに、だってとっても些細な事だもの。それよりもスラグホーン先生かしら。もう、困った人なんだから、この格好の時はジョン・スミスなんて厳つくて平凡な名前で呼んじゃ嫌よ。今の私はエリザベス・バイオーラって名乗ってるの、だから気軽にエリザベスって呼んで頂戴、可愛い坊や」
「では、私の事もと呼んで下さい」
 平凡な名のジョンは嫌でクラシックな名のエリザベスは大丈夫な理由が判らないが、尋ねるときりがなくなりそうなのでひとまず横へ置いておこう。
 しかし、男性がエリザベスという名を使用するのは例の白い生物で慣れているのだが、果たしてアレと同じ群れとして処理していいものなのか、矢張りテキーラ娘属なのか、そこの所はいずれはっきりさせて欲しい。まあ、5年後のアレとも体格が似ているが、流石にそこまで深く考えたくない。そんな下らない、この場では私しか判らない考えを巡らせながら無難な受け答えを行う。
「ペンハリガンのバイオレッタを愛用されているんですね。私も好きなんです、その甘い菫の香り」
 ちょっと何を言っているのか判らないと目だけで語り、呆然としている周囲の男の子達はこの際無視しなければなるまい。私の技能ではそこまでフォローを回せない。
「あら、凄いのね、正解よ。だけどそうね、坊やは可愛いからオネエさんが特別に忠告をしてあげちゃうわ。香水に詳しい男の子はね、大抵女の子から警戒されちゃうから気を付けた方がいいの」
「知っている香りの数だけ火遊びが上手、と思われるんでしょうか」
 英国王室御用達の香水メーカーであるペンハリガンは着物に合う香りが豊富なので知っていただけなのだが、成程、確かに言われてみれば男性が女性ものの香水名を一発で嗅ぎ分けるにはそれなりの経験が必要である。今の私の場合だと、幾つか前の里親が頻繁に香水を使用していた、とでも言えば大抵誤魔化されてくれるだろうか。
「賢い子ね。坊やみたいな子、大好きよ」
「忠告されてやっと気付く程度の頭なので賢くはありませんよ」
「もう、自分に手厳しいんだから。でも、そこが素敵」
 体格に見合った野太い声と共にうっとりと細められた青い目を見た両隣のメルヴィッドとエイゼルが全力でこの場からの逃亡を図ろうと重心を後ろに向けたのが判ったので、取り敢えず敵前逃亡禁止の意味合いで袖を引き、それを阻止した。
 大体、何時までも若い男4人で廊下に突っ立っている訳にも行かないだろう。
 赤毛で女装の大男に招かれるまま室内に踏み込み、促されるまま隣に座ると、未だ目の前の相手が誰なのか判っていないレギュラス・ブラックが声を掛けて来た。
、の……知り合い、なのかい」
「レギュラスもお会いしていますよ。ほら、去年のバンスの裁判後、ダンブルドアに捕まったでしょう。そのお店で、帰り際に擦れ違った方です」
「それだけの接触なのに?」
「凛とした顔立ちの、とても綺麗な方でしたので」
 実際、あの店で接触した当時は精悍な顔立ちをしている男性だと、青壮年の顔立ちに関しては相当肥えている私の脳が認識したのである。現在はどう見ても赤毛のテキーラ娘なのだが、それでも私の言葉に嘘はない。
 目の前の人物が周囲の男の子達に引かれる要素を考えてみるが、多分、中途半端な化粧の濃さからだろう。元々の素材はかなりの上物なのだ、いっそ素顔で勝負するか、逆にドラァグクイーン並の突き抜けたものにすれば美しく映える。
「坊やは私の事、綺麗って言ってくれるのね。お世辞でも嬉しいわ」
「本心ですよ。周囲で侍らせている方を見て判る通り、私は面食いですから」
「見事に野郎ばかりだけどね」
「エイゼル、生物の美醜は性別で決まるものではありませんよ?」
「人間じゃなくて生物で括る辺りが君らしいよ。それにしてもはどんな状況でも本当にブレないというか、逞しいね」
「メルヴィッドのそれは一応、褒め言葉として受け取っておきます。でも、そうですね、そろそろ本題に入りましょうか」
「助かるよ」
 会話の行く先を見誤る私が主導権を握るのは如何なものかと考えたが、今回レギュラス・ブラックはただの中継役であるし、メルヴィッドとエイゼルは出来るだけ遠くで見守りたい気分のようなので、このまま進めてしまおう。
 彼等の能力を活用すればあの青い目に魅力な男性として映るよう振る舞う事は可能だろうが、素の私が対応出来ているのでそのまま進行した方が無難であった。
「とっても残念、折角だから坊やともっと楽しいお喋りをしたかったのに。でも私の予定に合わせて、無理を言って今日来て貰ったから我侭言うのは駄目よね、昨日の今日なんて驚いたでしょう?」
「驚きよりも、唐突過ぎて戸惑いました。杖が買えなかっただけなのに、そんなに早く情報が回るなんて思っていなくて」
「職業柄、人の噂にはとっても敏感なの。それに杖業界って狭くて、イギリスでは特にオリバンダーが注目されてるから、あの男に杖を売って貰えなかった人間がいたらあっと言う間に広まるのよ。私の時も、その日の晩には海の向こうまで広がったから。もう、本当に嫌になっちゃうわ」
「エリザベスもあの店に拒否されたんですか?」
「そうよ。だからね、あの店に置いてあるような澄まし顔のいい子ちゃん達を鼻で笑い飛ばす杖を集めるようになったの。それがこの子達、皆、素敵でしょう?」
 そう言いながら革製のトランクをテーブルの上に広げ留め金を外すと、柔らかいクッションに包まれた杖が姿を現す。これは本当に杖ですかと尋ねたくなるような、外見からして曰く付きと断言出来そうな杖から、一見するとごく普通の杖にしか見えないような物まで、全部合わせて12本。
 蒐集家と聞いたので何百本も所持しているかと思ったが、そもそもの発端が発端であるようだし、数ではなく質を優先する人間で、しかも売却に関して躊躇いがない。相応しい相手を傍らに置いてこそ道具は輝く、というタイプなのだろうか。名刀を相応の人物に譲り渡したいと考える蒐集家は、極少数だが確かに居た。
 目的の品がようやくお目見えした事で、距離を置いていたメルヴィッドとエイゼルも近くに寄って来る。とはいっても警戒心は緩められず、ドアと窓が背後に来るよう位置取りしているので、何かあったら持てる力を全て使用し逃げる腹積もりは変わっていないらしい。レギュラス・ブラックは2人に場所を与えるように見せかけて、ここぞとばかりに距離を取っていた。
 かなりあからさまな行動なのだが、それでも赤毛のテキーラ娘は何も言わない。外見が外見であるので、このような対応をされるのに慣れているのだろう。
「気になる杖があったら手に取ってみて。癖の強い子ばかりだから、波長の合う合わないがはっきり別れるわ」
 頬を撫でられながらそう言われたものの、杖を手に入れなければならない優先順位は私が一番低い上、見た瞬間一目惚れした杖があるので、先にメルヴィッドとエイゼルが選べるようトランクの近くに手招きした。勿論それだけでは相手の機嫌を損ねかねないので、過去の杖選びの際に何があったのかと話の筋を誘導する。
 私の行動を見ていたレギュラス・ブラックが小さな声で勇者がいると呟いたが、別にダンブルドアのような性根の腐った蛆虫野郎と話を弾ませなければならない訳でもないので勇者でも何でもないと視線だけで制しておいた。しかし多分、伝わっていないだろう。
「そうねえ、私だけ坊やの事知ってるのはフェアじゃないわよね。でも、腹が立つだけの話よ。もう20年以上前になるのかしら、11歳の夏だったわ。ホグワーツの入学許可証が届いてね、学校に必要だからって買いに行ったら、私に合う杖は置いてませんって追い払われたの。両親も兄も祖父母も、私の一族は皆オリバンダーで買えたのに」
「エリザベス、1人だけ?」
「そうよ、酷いでしょう? それで、どうしてだってオリバンダーを問い詰めたら、心と体が合っていないからだろうって言うのよ、失礼しちゃう」
 自分の事は自分が一番判っているのに、と私には未だ分類出来ない人物が更に続けた。
「確かに私はオネエ言葉使って、可愛い物が好きで、女の子のお洋服を着たり、派手なお化粧するのも大好きよ。でも心は男性で、この体は野郎のものだって断言出来るわ。心と体の性別が乖離している訳でもなければ女性に成りたい男性でもなくて、女性の格好とその格好をしている時は女性の立ち振る舞いをするのが好きな男性なの。同性愛者でもないから性的対象や恋愛対象だって女性なのよ」
 成程、この格好の時のみエリザベスと呼ぶよう指示されたので恐らくこの区分だとは思っていたが、これでやっとはっきり彼は男性だと断言出来る。
 しかしソフトウェアとハードウェアの説明時にも感じられたが、性同一性障害やらトランスジェンダーやら、そういった用語を持たない魔法界はこういった時に回りくどくなって不便だ。
「端的に言えばエリザベスは異性愛異性装者、女装が好きな男性なんですね」
「あら、信じてくれるの?」
「疑う理由もありませんので」
「坊や。貴方もしかして、賭け事苦手じゃないかしら」
「そうですね、賭博自体に興味がありませんし、人の心や物事の流れを見るのも得意ではありません。しなければならない時にはしますけれど、テストの時とか」
 鉛筆を転がすのだと賭けという名の運任せな解答方法を例に上げると、そういえばマグルは羽ペンを使わないのかと予想とは少し違う返しを受ける。
 普段は普通紙に鉛筆かシャープペン、或いはボールペンやマジックを使用し、羊皮紙には専ら万年筆で書き込んでいたが、確かに魔法使いならば羽ペン一択であるので彼のような反応になるだろう。否、しかし鉛筆よりも歴史が新しいはずの黒板やチョークはホグワーツで使用されているので、時系列的な要素を考慮すると知っていなければ可怪しいのだろうか。魔法界は歴史の進行と共にその時代の物を非魔法界から取り入れて来たのだろうが、採用基準が判らない時がままある。
 中でも、私にとって一番理解出来ないのはレシピの少なさと料理の不味さが両世界共通という事なのだが。
 アークタルス・ブラック曰く、魔法界は産業革命以前に畜産を非魔法界側に沿わせるのを止めたらしいが、何故料理に関してもそうしなかったのかとブラック家歴代当主達をユーリアンの本体を使用して呼び出し、力の限り問い詰めたい。私が知る限り、それまでも土地や天候の問題、食文化の違いや農業革命やらで割と散々だったイギリス料理にトドメを刺したのがあの革命である。
「あら、難しい表情。折角の可愛らしいお顔に眉間に皺が寄っちゃうわ」
 太くて角張った親指で眉間を伸ばされ、賭け事に苦手意識を感じているのなら誘う事は出来そうにないと青の瞳が笑った。
「オネエさんの本職はブックメーカー、要は賭博業者なの」
「スラグホーン様からお噂を耳にした事が。確か、ベット・ヴィオラ……ああ、成程、だからエリザベス・バイオーラなんですね」
「社名兼、芸名って所かしらね」
 彼が纏う淡く甘い香りを象徴するビオラも、社名であるヴィオラも、芸名として使用されているバイオーラも、読み方が異なるだけで綴りはどれらもviolaであり、賭博行為への参加を意味するbetはElizabethの短縮形としても使われる事が稀にある。
 彼の呼称がイライザでもリジーでもベスでもなくエリザベスなのは、ベットこそが本来の芸名であり、エリザベスはその愛称という通常とは逆の現象が起きているからなのだ。
「拘り過ぎって思っちゃうかしら」
「名前に関しては私も人の事を兎や角言えませんから」
「そういえば坊やも、坊やのお兄さんも不思議な名前ね」
「不思議な名前はお嫌いですか?」
「あら、まさか」
 そう言いつつもジョン・スミスはメルヴィッドやエイゼルを青い目で射抜いた。此処にいる全員のフルネームを知っていると仕草で示され、その情報収集力に内心で警戒を強める。
 彼の外見年齢を考慮する限り、若かりし頃のトム・リドルとの面識はないと思うが、メルヴィッドの母となった女性の姓であるガードナーを排除したMelvid Rood LatromのアナグラムがI am Lord Voldemortになる事は割と簡単に気付くだろう。
 更に調べ上げればヴォルデモートの過去であるTom Marvolo Riddleにまで辿り着き、エイゼルとサラザール・スリザリンも結び付けられ、ホラス・スラグホーン辺りから学生時代のトム・リドルが収められた写真を入手するかもしれない。
 尤も、そうして推理される事に関しては、どうでもいいのだが。
 だってそうだろう。トム・リドルの写真を見せられてもハリーとジェームズ・ポッターの例がここに存在している以上は、どれだけ顔が似ていても血縁者かもしれない程度の言葉で十分躱せるし、確かに血は繋がっているので嘘はない。名前もそうだ、たかがアナグラムになっているだけで何の証拠にもならない、それがどうしたのだと嘯けば全てに片が付く。
 警戒すべきは彼の情報収集能力がどの程度までなのか、という事なのだが、セカンドコンタクトでそこまで探る行為は危険過ぎた。
「人の名前を兎や角言うなんて悪趣味よ」
 それは、歩く広告塔としている彼自身の経験から導き出された真っすぐな意見なのか、名と体が一致しない人間の人生に興味を持った事を隠す為の嘘なのか。
 道化師にも似た化粧と笑顔の下にある読めない心に向けて、私は子供の笑みを形作り、首を縦に振った。