青豌豆と茸の芙蓉蟹
イギリスに降る雪は、日本のそれに比べて水分量が多い。私も本来は山奥の田舎で暮らしている身なので、冬ともなれば辺り一面にそれなりの量が積もったものだが、大抵誰も踏んでいない新雪はさっくりとしていたものだ。
空気中にも湿気が大分含まれているようで、肌に纏わり付くような冷気に少々うんざりしながら大人用の長いマフラーに埋もれた口元から溜息に近い白い息を吐き出す。
普段ならば、ここは雪と樹の幹とのモノクロームからなる、小さく静かな森だ。小動物も虫も冬眠に入り、雪が音を吸い込んでしまう静寂の極まった場所だったのに。
雪の降り積もった墓所の入り口に並ぶのは、何台ものパトカーと場違いな移動式クレーン車、そして目障りなマスメディアの車両。
「君、かな。色々と面倒をかけてしまっているが、協力に感謝する。ここに居る皆を代表して、私からお礼を言わせてくれ」
「捜査の為ですから、喜んでお力添えさせていただきます」
一般車を装っている警察車両から降りた私に向かって、森の静けさを壊している輩の1人が小走りでやって来る。
真っ先に私の元へやって来て握手を求めたのは先日家を尋ねた2人組の片方、ではなく、初対面の刑事であった。肌のハリ艶から恐らく実年齢は40代半ばから後半だろうが、動作に活力があり隙がないので30代と偽っても信じてしまえるような白人の男性である。
叩き上げかは判らないが、少なくともデスクワークを主としているようではない。現場を指揮する主任刑事だろうか、部下だと思われる人間達からは信頼されているようで、遠くで何やら打ち合わせをしている例の2人組も彼の部下のようだった。
「そう言ってくれるとこちらも嬉しいよ。何をするかは、聞いているかな」
「はい。一応は、車の中で」
「これも車内で説明されていると思うが、もしも気分が優れなくなったり、その場から離れたくなったら遠慮せず言って欲しい。私でも、あそこで話している彼等でも、誰でもいい。皆、君に辛い事をさせようとは」
思っていない、と続けたかったのだろうが、主任刑事は私から顔を背けた後で凄まじい顰め面をする。彼の言葉を肯定させぬよう、私に辛い目に遭わせようとする輩が平然と群れている事に我慢ならなかったのだろうか。
「少しだけ、待っていてくれ」
そう告げてから、彼は部下の1人を呼び、現場の見張りのみで暇をしている地元の警察に言って、カメラや集音マイクを構えている連中を退去させるようにとの指示を出す。子供の姿である私から離れないよう気を遣っている辺り、常識のある刑事らしい。
口元までぐるぐるに巻かれた大人用のマフラーの下から息を吐き出し、主任刑事に促されるまま森の奥へ足を踏み入れる。
背後から追って来る警察関係者やマスコミの濡れて軋んだ足音を聞きながらマフラーを整え、耳当て付きのニット帽の位置を調節してそちらから確認出来たかと問いかける。
『一応はね。7時の方向、場違いに古臭いカメラ持ったカメラマン気取りの男はいるけど、人の姿をした記者は見当たらない』
『こっちで季節外れの糞虫は見付けた、10時の方向に生えてる木に止まってる。あと墓場に騎士団がいる形跡はないね。まあ、バンスを殺しに行った時に爺が張った罠、あれが既に発動してるみたいだから墓荒らしはとっくの昔に済ませたんだろう』
「了解」
『ああ、それと、が心配していた盗聴。今の所はされている形跡ないかな』
『普通そんな事思い付かないのに爺って変な所で心配性だよね。その心配性が過ぎてその内ストレスで禿げればいいのに』
「遺伝的に見ると両親祖父母共に脱毛の家系ではないので多分白髪になると思いますよ。では引き続き監視の方、よろしくお願いします」
耳当てから聞こえて来たエイゼルとユーリアンの声に応え、下ろしたてのダッフルコートに付着した雪垂りをお気に入りの手袋で軽く払い落とした。
今回は支援役に回った2人とリアルタイムに連絡を取り合う為、マフラーをマイク、ニット帽の耳当てをイヤホン代わりにする魔法を開発して使用してみたが、会話を一定範囲外に漏れ聞こえないようにする魔法と共に使用感は上々である。
人目を全く気にする必要がないので今後も使って行きたい手であるがしかし、何分真冬の屋外でしか自然に使用出来ないのが問題であった。
受信はヘッドホンやイヤホン、眼鏡の弦やピアス等で幾らでも代用出来るが、発信の方はそうもいかない。有効手段は風邪のふりをしてマスクをする事だが、口元が動いているのは判るし、イギリスにはマスク文化が根付いていない、TPOを間違えると怪しんで下さいと宣伝しているような事態になってしまうので、他に何か良い手はないものだろうかと数秒考え込んだ。
いっそ開き直ってヘッドセットを着用した方が逆に怪しまれないのではと本末転倒な考えに至った所で足を止め、隣を歩いていた主任刑事を黙って見上げる。
「此処、なのか」
「はい」
「……ありがとう」
始めてくれ、と彼が後方に声を掛け、私をその場から下がらせた。何人かの警官が立入禁止と黒文字で書かれた黄色のテープを手慣れた様子で張って結界を作り、そのすぐ外側では同じような目の色をした連中が様々な方向から時折フラッシュを焚いている。
ブルーシートを張って、まずは除雪から始めた警察関係者達を眺めていると、ふと隣に影が差す。白髪のチャップリン髭、件の老刑事だった。体力的、年齢的に見て、あの作業に参加するのは無理だと理解し私の隣に来たのだろう。
「今日はありがとう」
「先程の刑事さんから既に皆様を代表してお礼は頂戴しました。それに本当は、お礼を言われる事なんて、私は何もしていません」
「いや、君のお陰で手詰まりだった捜査が進展するんだ。救世主みたいなものだよ」
「……刑事さんは、私と似ていますね」
「そうかな」
「ええ」
嘘は言わないが真実も言わない所が特に、とも言えず、ブルーシートの向こうで作業している警察関係者達を黙って見つめた。本当に埋まっているのか、墓を作る気が知れない、殺人鬼の癖に、そんな会話が雪に吸い込まれる事なくこちらまで流れて聞こえてくる。
正義と分類される場所に所属していると自負する彼等の大半は、私の存在を快く思っていない。個人的な視線で見れば命の恩人を供養した子供であるが、世間的には殺人鬼の青年を未だに慕う危険思想の子供なのだ、私は。
だから老刑事は誰にとっての救世主かは言わなかった。我々の、警察の、そんな言葉は使う事が出来ない。私と同じ様に、嘘が苦手なのだ。
「私的な質問があるのだが、いいかな」
「私が答えられる範囲でしたら。どうぞ」
「君は、どうして私にペンダントを渡そうと思ったのかな。あの時の会話の流れなら、普通は拒否するかと思えるのだが」
ペンダントを渡そうとした時というのは、押収した証拠品が元の姿で返って来るか判らないと、それはもう馬鹿正直に答えてくれた時だろう。彼と私は似ているので言わなくても理解してくれているだろうと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
「貴方にならば任せられると思ったんです。気休めに平然と嘘を吐く方は、大人も子供も一切信用しない事にしているので」
辛い現実なんてものは元の世界でもこちらの世界でも飽きる程叩き付けられ、経験している。あからさまな嘘や、いずれ時間差で露見する嘘は逆に億劫だ。
騙されてあげる方も、そちらはそちらで色々と面倒なのである。
「厳しい意見だ」
「嘘を吐くなと言っている訳ではありません。生きていく為の優しい嘘や、人を笑わせる為の下らない嘘は必要です」
単に、すぐバレるような嘘は誰の得にもならないから止めろと言っているだけだ。それこそ、彼の相方が先日吐こうとした嘘のように。
「あの場を繕う為の嘘を私が信用したとして、もしもスノーウィ君が元に戻せないくらいに分解されて戻って来たら、嘘を吐いた貴方の相方も、止めなかった貴方も、それを管轄する警察組織全体も、何も彼もを恨んでしまいます」
「時と、場合と、相手をよく見なければならないようだ」
「既知の貴方に言っても無駄なお話になってしまいましたね」
ブルーシートの周囲に雪の堀が出来始め、色も少しずつ黒く染まっていった。彼の棺はそう大した深さには埋める事が出来なかったので、もうしばらく待てば探し物も顔を出すだろう。
『爺、虫がそっちに飛んで行ったよ。今マグルの背中側に止まったけど、ちょっと手を滑らせてマグルごと2つに裂いてみてよ』
『その後の展開が面白そうだね、それを皮切りに警察+報道陣 vs. の乱闘が始まるなら私も見てみたい』
「多分私が殺されて終わりますから面白くないと思いますよ」
暇潰しに脳内シミュレートしてみたが、立入禁止の向こうには警察車両が並んでいる上、ブルーシートの向こうにはスコップを携えた屈強な人間がうようよしているのだ。脳内では内部に向かい4人目を殺そうとした所で撲殺、外部に向かい6人目を殺した所で射殺される展開がまず浮かび、以降も皆殺しを可能とする方法が浮かんでこない。
1人目が隣の老刑事というのがまず駄目だ。ほぼ中央に位置するここから始めてしまっては獲物が八方にいる以上、どう動いてもいずれ詰む。どうしてもやるのならば、気分が優れないと言って立入禁止外に駐車してある車両に戻り、付近への警戒心が緩い警察官を絞め殺して車両を含む武器一式を奪う事から始めなければいけない。
と、このように説明をしている途中で、話を振って来たユーリアンが平坦な声で黙れ脳筋と言って来た。
『何処の時代の覇王だ。もう少し魔法使いらしい戦い方しなよ』
「魔法を使ったら乱闘ではなく虐殺になるから駄目です」
『ああ、もう本当この爺は……皺が見当たらないお前の脳味噌に僕の有難い言葉を刻み込んでおけ。魔法使わなくても、お前のそれは乱闘じゃない』
「そうですかね」
『そうだよ。で、エイゼルは何やってる訳?』
『何って、カメラマンの方に動きないからが借りてきてくれたVHS見てる』
確かにエイゼルの言う通り、2人の会話の向こうで椅子の上で三角座りをする薬物依存探偵のテレビドラマシリーズのBGMが流れていた事に気付く。気に入って貰えて何よりだ、今度はソ連産のテレビドラマシリーズでも借りて来ようと心に中に書き留めていると、文句を垂れつつも一番真面目に物事に対して当たっているユーリアンの怒りに火が灯った。
『だったら代わってくれないかな!? あの虫さっきから目障りなんだけど! ちょろちょろと飛び回って、あれ絶対に中身は女だ、そうに決まってる』
『確かに学生時代よくいた噂好きの女共は大体あんな感じだね、思い出すだけで苛々して来た。この手の人間は一切合切滅びればいいのに』
「まあ、虫の操縦者である推定彼女はいずれ社会的に滅ぼすとして、魔法界を掌握したら将来的にマスメディアに対して活動制限を設けては如何ですか? 言論と報道の自由は、個人の私生活暴露とイコールではありません。今現在の魔法界に報道活動に関する法はかなり緩い所か、ほぼ存在しない状態ですから」
『確かに緩いのは認める、でも何でも法で縛ればいいってものじゃない』
『そうそう。きつく締めると、いざ利用しようって時にこっちの首も締まるからね』
『折角遠回しに言ったのに本音を言わないでくれるかな!?』
『には特に遠慮する必要はないと思うけど。あれ、デッキのリモコン何処行ったんだろう。ユーリアン知らない?』
『知るかよ死ねよこの自由人!』
「まあ、貴方達が放置していいと言うのなら、好き好んで関わりませんが。それとリモコンは今朝ソファの上に転がっていましたよ、クッションの裏にでも隠れていませんか?」
目障りだから死ねだとか、リモコンが見付からないだとか、アクシオ使えだとか、そんな微笑ましい会話を聞きながらずり落ちて来たマフラーを元の位置に戻し、移動式クレーンがブルーシートの傍に寄るのを黙って見守る。
軽く塞がった耳の向こうで虫の羽音がしたので視線を変えると、画面で見たものと相違ない虫がシートの方へ向かって一直線に飛んで行った。あれではコガネムシと呼ぶより寧ろ、汚物に集る蝿である。
真面目に監視を続けてくれているユーリアンからも連絡を受け、例の虫が間違いなく移動した事を確認して息で曇った眼鏡を外し、白くなってしまったレンズをハンカチで拭った。
「そういえば、その服は全部新品かな?」
「ええ、よくお判りで」
「里……いや、お父さん? お兄さんが?」
唐突に尋ねて来た質問の理由に心当たりがあり、その考えで正解だと告げると老刑事は目を丸くする。それに関して私が気付いていた事が意外なのだろうか。
帽子、マフラー、ダッフルコート、ボトム、靴。これ等は全てメルヴィッドが用意した物であった。普段愛用しているミリタリージャケット等の防寒具を着たまま写真に撮られてしまっては、幾ら顔を隠そうが同級生や近所の連中にすぐに気付かれるという理由である。
はっきり言って無駄な悪足掻きだと思ったが、私には思いも付かないメルヴィッドなりの考えがあるのだろうと素直に受け取り着用しておいた。その際、エイゼルが何故か薄笑いを浮かべていたが、理由は未だ不明である。私が施した魔法以外は、何か特別な呪いが掛かっている形跡はなかったのだが。エイゼルが知っているとは思えないが、帽子とマフラーに使われているアラン模様のパターンでも気にしているのだろうか。
「そう、か」
老刑事はそれ以上何も言わず、私から視線を逸して埋葬場の真上まで移動して行くフックを黙って見つめた。煩いエンジンの音に混じり、安物の棺が軋みながら地面から離れる音を聞き、愈々だとマフラーの下で笑みを深める。
棺はブルーシートのすぐ傍に設置された枕木に着地し、ワイヤロープが手早く外された。現場を指揮していた主任刑事が私の方を向き、棺の確認の為に手招きする。無遠慮に焚かれるフラッシュ、クレーンの先に付着している虫、周囲の剣呑な視線も全て気に食わないが、起こすべきアクションが思い当たらず黙って棺の隣に立った。
「間違いなく、彼の棺かな」
「……間違いありません」
随分汚れてしまったが、これはリチャードの棺である。蓋の周囲に最近開閉された形跡があるが、私以外は誰もそれに気付いた様子はなかった。
この棺に触れたのはダンブルドア本人か騎士団の連中か、誰だとしても中で眠るリチャードに危害が加えられていない事を祈りながらその場に立ち尽くしていると、主任刑事が棺の蓋を開けるからここから離れるよう言ってくる。
この場に留まっても面白いのだが、要らぬ疑いは掛けられたくない。彼の言葉に従い、老刑事に連れられて棺の傍を離れると、俄に背後の空気が騒がしくなる。蓋を開けようとした鑑識が、既に一度、しかもつい最近に蓋を開けた形跡が残っている事に気付いたらしい。成程、事件が事件なだけに鑑識も少しは使える人間を採用したようだ。
報道用のカメラとは違う、大きな鑑識用のカメラが蓋が開かれる前の棺に向けられシャッターが切られる。あらゆる角度から何十枚も撮った後で、そこそこ肝が座っているらしい男性が2名、慎重に手を掛けて蓋を外した。
瞬間、棺を中心にして男達が恐慌状態に陥る。
その場で固まる者、慌てて遠くへ離れる者、頭を抱えて絶句する者、神に祈り始める者、叫び声を上げる者。統一感はまるでなかったが、それでも彼等は皆、非個性的で似通った反応をしていた。
一体何が起きたのかという表情を演じながら、それでも私は遠くから彼等を眺め続ける。やがてクレーンの先に止まっていた虫がカメラのフラッシュを焚く報道陣の壁の向こうへ戻り、数秒後に派手な服を着た金髪の、見るからに品性とは縁遠そうな女性が古臭いカメラを構えた男を引っ張ってその場を離れて行った。虫を遠隔操作しているだけかと思ったが、アニメーガスか。恐らく、未登録の。
今この瞬間に現場から離れる記者は普通存在しない、離れるのは、離れるなりの理由があるからだろう。たとえば、既にあの棺の中で何があったか知った、だとか。
さて、あれの顔は覚えた。後は煮るなり焼くなりご自由に、である。幸い騎士団員ではないので殺す必要もないのは有難い。アリバイや証拠を気にしなくていい分、社会的に抹殺する方が私にとっては楽な作業である。
『面白い事になってるね、そっち』
『いや、面白いというか……爺、あれ一体何。あの棺、絶対爺が何かしたよね? それ以外に考えられないんだけど』
今回は随分レスポンスが遅かったが、彼等もあの棺の中に驚いたのだろうか。以前、ピーター君がバグった時もメルヴィッドは驚いたりしたので、何となく納得は出来た。
余裕のあるエイゼルは兎も角ユーリアンは確実に怯えているので、こういう時は早々に種明かしをするに限る。私が関わる不思議な事には、種も仕掛けもちゃんと存在するのだ。
「彼の遺体を埋葬する前に腐敗菌が繁殖しないようにして、死体に発生した脂肪酸を金属イオンと結合させて脂肪酸塩になる魔法を掛けただけですよ」
『何その脂肪酸とか金属イオンとか訳の分からない単語』
『……ああ、ハンド・オブ・グローリーを作る魔法か。それのマグル版』
「おや、意外ですね。エイゼルはお判りになりましたか」
ちょっとしたお遊びで2人は判り辛い説明をしたのだが、エイゼルが正解を言い当てるのは予想外である。本当に、彼の思考も変化している事を実感していると、今度は少し自慢気な声色のエイゼルから種明かしをされた。
『暇潰しに君の部屋にある本も読んでるからね。あ、リモコン発見したよ。何故か冷蔵庫の中にあったけど、もしかして今日のメルヴィッドの夕食のつもりだった?』
『エイゼル、僕はもうこの件に関しては何も言わないからな。ハンド・オブ・グローリーだけど、そんな単語を使うような魔法じゃなかった気がするんだけど』
『マグル版って言ったじゃないか、結果は同じだけど過程が違う。君が私ならロザリア・ロンバルドのミイラは知ってるよね、要はあれと同じだよ』
魔法と化学を使用して人為的に作った死蝋なのだとエイゼルが言い、悪趣味だとユーリアンが返す。確かに、私の行為はどれを取ってもエゴの塊に過ぎず悪趣味極まりないものだろう。それは否定しようがない。
以前言ったように、彼への身勝手な手向けであり、未来への呪詛なのだ、これは。
今現在目の前で起こっている恐慌も、エメリーン・バンスを殺す事それ自体も、全ては線の集合体である網を駆け巡らせる為の単なる通過点に過ぎない。
定めた目的はもっと先、長い長い時間を掛け、一連の事件が人間の持つ低俗で下劣な好奇心に彩られた先に存在していた。
このような事が起これば、平凡に過ぎるリチャード・ロウの名はこの国に長く残る。
そして世界には既に情報化の波が押し寄せて来ている、あと数年もすればこの不可解で摩訶不思議な現象は誰かの手で情報となり、世界中を一瞬で駆け回り始めるのだ。
その中でたった1人、何処の国の誰でも構わない。
この現象に興味を持ち、数年前の事件から今日に至るまでを調べ上げ、声に、或いは文章にして疑問を呈して欲しい。
リチャード・ロウという男は、救いようのない悪では無く、歪んではいたが確かに正義の人間だったのではないかと。
殺人鬼である彼はしかし、己の理想の為に行動し、私を救った英雄でもあるのだと。