曖昧トルマリン

graytourmaline

イワシとトマトとキュウリのマリネ

 扉を開いた直後、背面から両脇を抱えられ胸板に後頭部を預けながら宙吊りにされた私と目が合ったメルヴィッドとアークタルス・ブラックは弟を抱っこしてご満悦な兄の顔をしているブラック家の当主様に視線を一度移してから再度私を見て、どちらともなく視線を逸らした。
 無抵抗な弟を演じている爺としてはクリケット観戦時よりも更に堅固な防護魔法が部屋全体を覆っているので精神的内臓が幻痛に苛まれる前にどちらかから一言説明が欲しかったのだが、直前まで合っていた赤と灰色の瞳が生暖かくも微笑ましげな表情を浮かべていたので不問にせざるを得なくなった。犬と飼い主か、幼子とぬいぐるみか、一体どちらを連想したのだろうと締め上げられている物質的内臓達への圧迫感と共に意識を逸らしていると、年寄りの所為で理不尽な目に遭っている年若い肉体を慮ってかメルヴィッドが早々に答え合わせを行った。
「状況が分からないまま予防接種かバスルームに連行される大型犬の物真似を続けたいのなら止めないけど、そろそろ嫌なら嫌と主張した方がいいよ?」
「嫌ではありません。お姫様抱っこではないだけマシとは考えていますが」
「嫌悪が基準になっている時点で既に相当なストレスが掛かっている事を自覚しようか」
 ネガティブなプラス思考で軽口を叩いた直後、背後からその手があったかと藪蛇且つ物騒な呟きが漏れて聞こえた音を鼓膜か脳の不具合で濁す寸前で思い留まる。ここで口を開かなければ近日中に公開処刑される気がしてならない。
 メルヴィッドやエイゼルが私に向かって冗談が通じないと諦めながら項垂れる気分を味わいたくないが為に身動ぎしつつレギュラス・ブラックを頑張って見上げると微笑ましいものを眺める表情で頷かれた。当然ながら私の気持ちを汲んでの首肯ではない。
 小さく可愛い珍獣扱いされるのは今更だが、この子は満面の笑みを湛えながら体は少年で実年齢が100歳近い爺をお姫様扱いする予定を立てている。三本の箒の時のような緊急事態下ならば願い出るけれども、と表明したらきっと輪をかけて面倒な事態になるのは目に見えている、ここは捻りを加えず拒絶の意思を示そう。
「レジー、お姫様抱っこは嫌です」
 是非ウエディングドレスを着たグリーングラス姉妹のどちらかに、と続けようとして、そもそも魔法界の結婚式にはウエディングドレスを着るのかという疑問がまず浮かび、その間を縫うようにして家の取り決めによる結婚相手に対して押し付ける行為ひどちらに対しても迷惑だと思考の糸が出現したので軌道修正を行った。
「する側ならば今からでも申し込みたいのですが」
が僕よりも逞しくなったら受け付けるよ」
「では数年後に窓口の設置をお願いします」
「君が覚えていたらね。取り敢えずは、僕の方が体が大きいから前払いしたいな」
「レジー、お姫様抱っこは嫌です」
 何故私の台詞がループしたのだろうか。
 現実世界のプログラムに時折出現するバグを無視して先程と全く同じ台詞を吐きながらサングラスを外すと万歳の格好で重力に任せて滑り落ちるように脱出を成功させる。若干呆然としているレギュラス・ブラックを無視してサングラスを掛け直しメルヴィッドの隣へ駆け込む寸前、立ち上がったアークタルス・ブラックが軽く両腕を広げていたので進行方向を変えた。
 罠であるとは十分に理解している。しかし、次に何が起こるか馬鹿搭載型の頭ですら正確に未来を予測出来ていたとしても、立場的にも本能的にも抗い難い魅力というものは確実に存在するのだ。
 細い腕と薄い胸板に抱かれ、寄せた頬から乾いた肌と低い体温を感じていると、弱い力で肩を押さえられごく自然な動作で2人掛けのソファに座らされる。
 灰色の目が細められ、お利口だと頭を撫でられている間にレギュラス・ブラックが隣の空間を占領し腰に手を回すまでは予想出来ていた。しかし、回された腕が微かに震えているのは全くの予想外で思わず振り返ると、何故かメルヴィッドがレギュラス・ブラックの左手を取り丹念な観察を始めていた。
 疑問は数秒に満たず、それが意味するものを理解した反応を誤魔化す為に脱出したばかりの胸板に顔を埋め腕を背に回す。左腕の前腕、ヴォルデモートが死喰い人デス・イーターに入れた印、蛇と髑髏から成る死喰い人デス・イーターの証。それをヴォルデモートと同一人物であるメルヴィッドが触れた場合に何が起こるのか検証しているのだ。
 一分の隙もなく部屋を覆う外界との隔離魔法はこのためだったのか。確かに、こんなものをうっかり漏らした日には間違いなく既に警戒レベルを上げている魔法界が水面下で大混乱に陥る。それだけならまだいいが、セブルス・スネイプを所有しているダンブルドアが消去法と勘でメルヴィッドとエイゼルを殺しに来かねない。騎士団の面々が摩耗するのはどうでもいいが、衝突相手は私達やブラック家ではなく闇の陣営でないと困るのだ。
「心配してくれているの? は本当に、優しい子だね」
 私欲に塗れた思考のまま腕に刻まれているものを知らない設定を押し通すべく、黙秘を貫き強く服を掴んで態度を誤魔化す。方向は違えど動揺しているとレギュラス・ブラックに伝わればそれで十分だ、後は勝手に都合良く解釈してくれるに違いない。
 傷付いた人間に寄り添う犬のように抱き付いたままゆっくりと上目遣いで見上げると、微かに怯えを含んだ美しい灰色が柔らかく笑い視線を自らの左腕へ移した。ややしてから、春に咲く花弁のように瑞々しい唇が堰き止めていた声が溢れ出る。
「この腕には闇の帝王の手によって闇の印が刻まれていたんだ。いや、過去形か現在進行形なのかは、まだはっきりしないかな。僕は一度、死んでいるから。世間では知られていないけれど死喰い人デス・イーターには例外なく焼き付けられていて、闇の帝王が誰かの印に触れると全員の印が黒く焼け焦げ鮮明に浮かび上がる。それが召集の合図だった」
 だからこそ印が今後アズカバンで説得力を持つと不安と緊張からか舌の回転率が上がっているレギュラス・ブラックは続けた。
死喰い人デス・イーターは闇の帝王が刻んだ印の模倣は絶対に不可能だと信じている。メルヴィッドと闇の帝王が同一人物であるのなら、彼等を騙せる可能性が高くなる。本来ならこういう事にこそスティング・ワンを使うべきなんだ、だけど、あれはブラック家のハウスエルフから成っているから」
「主人のレジーを傷付ける魔法は扱えない」
「そう」
「自我や意思を持つ生物で創り上げられた有機コンピュータ特有の弱点で、別の角度から見れば強みでもあるね」
 申し訳無さそうな表情を浮かべるレギュラス・ブラックを遮るように全体の確認が終わったメルヴィッドが口を挟み、徐に杖を取ると軽く杖先を宙に向ける。その仕草に引っ張られるように一見何もない白い腕から粘度を持った赤黒い霧のような魔法が立ち昇り、視線の先で蛇と髑髏の印を形作った。
「防壁も反対呪文も設定されていない、発動の意志を持って触れれば効果が現れるごく単純な変幻自在術だ。例のあの人は自分が施した呪文の管理者権限をハッキングされるなんて想像もしていなかったんだろうね、完全に私のものにしたけれど発動の確認してから部屋の警戒は解いて貰おうかな」
「レジー。メルヴィッドが想像を絶する高度な事を簡単に言ってのけている気がするんですが、これは私が世間知らずだからでしょうか」
「いや、今回おかしいのはメルヴィッドだ。普通はスティング・ワンのような大規模な装置がないと闇の帝王の呪いに介入して支配下に置くなんて考えもしない。出来たとしてもこんな一瞬で、しかも僕を無傷のまま成功させるなんて」
「もう燃やしてしまったけれどスティング・ワンからの解析結果があるから目を通せばにだって十分可能だ。レギュラスを起点にウイルスのように感染させて複数人の自動同時制圧となると火力不足が否めないけどね、まあ、元からある例のあの人の魔法力を上手く同化なり転化すれば少し魔法の内容を書き換えるだけで済む話だけど」
「……レジー」
「うん、そんな可愛い顔をしなくても大丈夫。おかしな事を言っているのはメルヴィッドだから、彼を学力の基準にする必要はないんだよ」
 杖先を仰ぐように振り宙に漂っていた不気味な模様を掻き消したメルヴィッドは、おかしいのは私ではないと同じ内容を口にしながら慰めるレギュラス・ブラックにべったり張り付く私を見てから、じゃあレギュラスにだけに発現するよう設定して確認するよと普段と何ら変わりのない兄の表情で話し掛ける。シリアスな雰囲気で沈まないよう、敢えてそうしたのだろう。許可を求められたレギュラス・ブラックは一度だけ祖父を見てから肩の力を抜くようにして頷いた。
 しかし、メルヴィッドの指先が彼の左腕に押し当てられた瞬間、年若い少年の表情が焼きごてを当てられたかのように苦痛で歪む。熱も匂いもないまま白い腕に水膨れ寸前のミミズ腫れが浮かんだかと思うと、先程宙に現れた髑髏と蛇で構成された闇の印が皮膚の表皮を抉るようにしてドス黒く焼き付いた。腕の中に収まりきらないレギュラス・ブラックの身体には脂汗が浮かび、食いしばった奥歯から苦痛の声が漏れる。
 左腕から脳に届く痛みを分散させようとしているのか乗せていた右手が肩に食い込み、抱き寄せられた胸の中で強く圧迫される。しかし召集に使う魔法だからか程なくして痛みが引いたようで、息を整えながら謝罪の言葉が紡がれた。
「凄いな、メルヴィッドの力ならとは思ってたけど、本当に発動から制御から全部奪えるなんて……ごめんね、。痛かったよね」
「いいえ、痛みはありませんでした。しがみつかれるだけで折れてしまうような軟弱な鍛え方はしていませんから。レジーこそ無理をしては」
「長く続く痛みじゃないから。それよりも、アズカバンで必要になるだろうから同じものを君の腕にも入れないと……闇の帝王は未成年には入れなかった、けれど」
「入れるべきだ。メルヴィッドの制御が完璧である以上、なおさら」
 痛みを振り払うように額の汗を拭い、言葉に詰まる孫の言葉を受けてか、それまで静かに経過を観察していたアークタルス・ブラックが感情よりも合理性を宿した目で正面から私を見据える。
「アズカバンにいる狂信者達の前で特別扱いが過ぎると嫉妬されるが、何もしないと壊してもいい道具と認知される危険性がある。メルヴィッドの制御が完璧ならば、万が一を考えて入れるべきだ」
「私もアークタルス様と同じ意見だな。印を入れた上で、ネガティブな特別扱いが妥当だと思う。本音を言えばここにいる全員が、必要な演技だろうとを酷い目に遭わせたくないんだけど」
「元々犬扱いされる覚悟は決まっていますし、私は平気ですよ」
 昨夜の食事会で流れるように決まった内容を思い出し、二つ返事で了承しながらついでに必要になりそうな事項にも言及しておこう。
「短時間で分かりやすい道具扱いとなると暴力ですよね。許されざる呪文は演技でも問題が山積しますから物理的な虐待を、いえ、そちらも心許ないでしょうか。メルヴィッドは人間を殴り慣れていませんから拳を痛める可能性がありますよね、そうだ、靴にキスしろと命令して顎でも蹴り砕きますか?」
 アピール目的の体罰ならばこの辺りが落とし所だろうと提案した直後、防護魔法が解除されたにも関わらず部屋の空気が重苦しくなり体感で5度程下がった気がする。
 肉体を使う身体的虐待は高貴でお淑やかなブラック家には少しばかり刺激が強く、野蛮な提案だっただろうか。
「ええと、では魔法で熱湯を出すか、電気ショック辺りで妥協を」
「妥協なんだ……あのね、。君、私に向かってそれ出来る?」
「出来るはずないじゃないですか」
 出来る訳がないし、そもそも私がメルヴィッドにする必要もない。前々から言っているように私には嗜虐性が薄いのだ、勿論、被虐性もないので蹴られたり踏まれたりしてもご褒美にはならない。

「はい」
「こちらにおいで」
「はい」
 物凄く言いたい文句があるけれど言えないものを辛うじて耐えるような表情でメルヴィッドとレギュラス・ブラックが視線を交わしている様子を観察していると、背後からアークタルス・ブラックに呼ばれたのでそちらへ駆け寄る。
「常識は持っているんだけどなあ、共感能力の欠如が想像以上に酷い」
「メルヴィッド、本当に環境変えるだけでいいのかな」
「環境を変えずにこの子の価値観だけを普通に寄せる方が拷問に等しい所業になるよ」
「……両方、同時に変えないと」
 ぼそぼそと会話する若い男の子達の決意を背中で聞いていると、アークタルス・ブラックが不憫な子だと何度も呟きながら皺の刻まれた固い手で頭を撫でる。まるで同情に値する失言したかのような反応だが、当日いきなりさあ殴れと迫るよりも余程健全で計画的なタイミングではないだろうか。今回に関しては私は悪くない、はずだ。
 ただ、そう主張したところで誰も賛同してくれない事が分かるくらいには賢明なので大人しく慰められていると、疲労を滲ませたメルヴィッドが溜息混じりに私に左腕を取った。暴力行為の詳細は後回しにして腕に闇の印を焼き入れるらしい。
 服を捲くると何年も前から積み重ねられた虐待の跡が顕になり、敢えて見る必要はないとアークタルス・ブラックに頭を抱えられ、空いた右手をレギュラス・ブラックに握られた。全員男性で半分が老爺だがなんとなくハーレムじみた構図だと頭の片隅で気を逸していると左腕に煙草を押し付けられたような痛みが走る。成程、痛みに慣れないレギュラス・ブラックはよく耐えた方だ、人間の肉は灰皿に向いていない事をハリーの体で経験し心底納得したのは何年前であったか。
 しかし、寝ても覚めても苦痛が長引く煙草の跡とは異なり、闇の印と焼け付くように疼く痛みはものの数秒で消え去る。まるで猛暑の中で干上がる水溜りのように跡形もなくなった刺激とは裏腹に左腕に絡み付く髑髏と蛇は黒く光り、はっきりと存在を主張していた。ゲーミング・シャレコウベことカラベラのように7色に輝いたら現在主張する畏怖が9割減になるなと下らない感想を抱いている内心を見透かされたのか、メルヴィッドは杖を一振りすると左腕を陣取っていた黒も皮膚の中へ沈むように消えてしまう。
「痛かったよね」
 メルヴィッドの制御に連動したのか綺麗な左腕を晒すレギュラス・ブラックに頬を撫でられ、灰皿ごっこをしている時程ではなかったと声を出そうとしていた舌を止めて曖昧に頷いた。多分、それを言ったら主にブラック家の2名に殺意を植え付ける事になる。
 痛くないと強がる必要もないので素直に頷き慰められようとする寸前、寂しげに笑うメルヴィッドが目に入り身体に絡んでいた4本の腕を振り払う。保護者を案じる子供の演技しろと、黙秘したまま彼が催促したのだ。
 ヴォルデモートと同一人物であり、その上で同じ行動をしなければならない薄暗い未来に小さな絶望を抱いた里親に全力のハグを決め、全身全霊を捧げて慰める。完全にやり方が飼い犬のそれだが、11歳児ならば下手に言葉よりもこちらの方が効果的に映るだろう。
「……、ありがとう。もう大丈夫だから」
「本当ですか?」
「私が君に嘘を吐く事なんてある?」
「割と頻繁に」
「ははっ、確かにそうだね。でも、今のは嘘じゃない」
 腕の中の少年が愛しくて仕方がないと表情を作り、余裕のある大人の顔で軽く額を合わせて来たメルヴィッドを見て、私も満足した笑みを形作った。いつもはこの辺りでエイゼルが口を出して雰囲気を変えてくれるのだが残念ながら今回は外でお留守番だ、部屋の空気が人工甘味料じみてベタつくので少し塩気を足しておこう。
「それはそれとして、アズカバンでは躊躇せず手か足を上げてくださいね。必要ならお家で練習しますか?」
「エイゼル相手なら本気を出せる気がするけどね。いっそのポリジュース薬を作って盛ろうかな」
「騙し討ちをすると屋敷が全壊後に大炎上しそうなのでルールに則った決闘か素手の殴り合いで決めてください。ただ、エイゼルに私の演技の強要は不可能だと思いますよ。私が了承しているのだから変に手間を掛ける必要はないでしょう」
「そんなに暴力を振るわれたいの?」
「いえ、全く。急拵えの稚拙な演技でメルヴィッドが疑われるのが嫌なだけです」
はもっと自分の身を案じようね」
「……メルヴィッドと、レジーと、アークタルス様と、クリーチャーと、エイゼルの次に私自身が心配です」
 いつもの自己犠牲コントを披露すると、もう喋るなとばかりに両頬を思い切り横に引っ張られ口を塞がれる。私の冗談は面白くないようで、レギュラス・ブラックもアークタルス・ブラックもメルヴィッドに同情の視線を送っていた。
「ポリジュース薬は冗談として、感情が一時的に麻痺する薬でも作ろうかな。飲みたくないなんて言ってられなくなりそうだから」
「体に悪い成分が配合されていそうだね」
「心にだって悪いよ、きっと」
 言いながら両頬から指を離したメルヴィッドは右手に杖を持ち、何を思ったのか無言呪文を私に向けて放った。
 ブラキアビンド、インカーセラス、ロコモーター・モルティスという系統が異なる捕縛呪文の3重展開に対し、こちらの対抗策は脚による間合いの確保と咄嗟に唱えたプロテゴ・マキシマのみ。因みに結果はというと火力という格の違いから私の防御呪文は紙のように吹き飛び、インカーセラスの縄に自動追尾が付加されていたのか間合いの外から足を取られ、姿くらましで再度距離を取る直前に声付きで唱えられたブラキアビンドの追撃により、ものの数秒で捕らえられる。
 このメルヴィッドによる突然の暴挙はブラック家の2名にとっても全くの予想外であったらしく、バランスを崩して無様に転がった私を4つの瞳が呆気に取られた様子で見下ろしていた。浜辺に打ち上げられた魚類の如く横たわる私を拾い上げたのは当然メルヴィッドで、子供の体を難なく両腕で抱え上げると何を思ったのかそのままレギュラス・ブラックの両腕へ譲渡される。
 ああ、成程。これは嫌がらせだ。
「メルヴィッド、お姫様抱っこは嫌です」
「知らないよ。今、君を抱えているレギュラスだろう」
「レジー、お姫様抱っこは嫌です」
「パーティが終わるまでこのまま連れ回していいよね」
「よくありません。アークタルス様、助けてください」
「さて、積もる話も終わった事だ。そろそろ戻ろうか」
 当然のように訴えは無視され、透明な縄で簀巻きにされた挙げ句お姫様抱っこの公開処刑状態で部屋を出る羽目になった私を、1人は若干煩わしげに、1人は微笑ましげに、そして1人は心から愛しそうに眺めながら見下ろした。
 どの視線が誰のものかなど、態々説明する必要すらないだろう。