曖昧トルマリン

graytourmaline

スモークサーモンのベイクドエッグ

 様々な貝殻が目の前のブリキのバケツに積み上げられ、時折アカザエビの赤い尻尾が汚れた花弁のように混ざり始める。
 乾杯直後、アークタルス・ブラックに対して一連の出来事に関係する答え合わせをしたいと切り出したものの、大衆向けのパブにまで折り目正しい話を持ち込むのならば、せめて全員の脳味噌にアルコールが回り何を言い合っても愉快な気分になってからにしろ、第一料理が冷めるとマリウス・ブラックから正論を言われ諦めた。
 そうしてサーブされたコッドとハドックの巨大なフィッシュ・アンド・チップスとフライド・カラマリのスイートチリソースは皆でシェアして早々に食べ尽くした。衣にはこの辺りの地ビールには珍しい強炭酸のラガーが使われているらしく、歯触りのいいサックリとした揚げ物をビール片手に熱い内に頬張るという贅沢にありつけた。
 ムール貝とハドックとサーモンとポテトが入った豪勢なシーフード・チャウダーも、みじん切りされた玉ねぎとバルサミコソースが効いたツブ貝も、ガーリックソテーにされたマテ貝も、ムール貝の白ワイン蒸しも、アカザエビの塩茹でも、ロブスターのオーブン焼きも、ボイルされたイチョウガニも、温かいものは温かい内にという合言葉の元に完食されつつある。因みに、主に食べ尽くしたのは当然の如くメルヴィッドとエイゼルであった。
 それらに合わせた私の飲み物は乾杯時のスコティッシュエールから始まり、チェイサーとしてミネラルウォーターが続き、現在はエイゼルが選んでくれたマミー・テイラーを飲んでいるが、自家製のドライジンジャーエールを使ったこれもまた辛口で料理によく合う。
 念の為アルコール度数もサングラス越しに調べたが、数字は日本酒と同程度であり、量で換算しても1合半なのでまだ余裕はあった。炭酸を飲んでいるという点が若干不安ではあるが、これも許容範囲内だろう。子供でありながら、この体が元の世界の私のそれよりも高アルコール耐性である事は既に何度も実感していた。
 なにはともあれ、温かい内が最も美味しい料理達はテーブルの上から胃袋の中へ送られ、アークタルス・ブラックの次にペースが遅い私がグラス3杯を空けたのだ、そろそろ再挑戦を試みても咎められないだろう。2杯目のミネラルウォーターは無効だと反論される可能性も少なからず存在するが、その場合は1杯目のエールを再び頼もう。アルコールが入っていない辛口のカクテルがメニュー上にあるのなら、そちらの方がより好ましいが。
 オーブンで焼いた半身のロブスターを爪の根本まで綺麗に食べ終え、パブにそぐわない仕草でカトラリーを丁寧に置く。それだけで私が何を伝えたいのか悟った灰色の目が穏やかに緩められて、皺だらけの手が先を促した。
 頸の辺りが鈍い感覚に襲われ部屋を覆う魔法が強化された事を知覚し、老人と子供の内緒話にしては大袈裟な仕掛けだと心拍数を上げながら、表面上は物柔らかな微笑を取り繕う。
 ロブスターの皿がひとりでに下げられ、空いた場所で両手を組み、姿勢を正した。視界の端ではメルヴィッドとエイゼルが人好きする兄の顔で苦笑しているが、無視しておこう。
「今回起きた一連の出来事は、例のあの人復活への対応措置絡みです。最優先目標は賢者の石の保護とフラメル夫妻の安全確保であり、ホテルでの一件はダンブルドアや魔法省から注意を逸らす為の囮でした」
「今にもホワイトボードと指示棒が出てきそうな雰囲気だな。余興にしては肩に力が入り過ぎているぞ、パーティ・ヘッド。もっと酒に呑まれて段取り悪く行こう、今夜はスマート&クールを要求されるビジネスの時間じゃない」
 アークタルス・ブラック相手の報告なので結論や重要部分を冒頭に置く形式を重んじたのだが、横で聞いていたマリウス・ブラックは第一声からしてお気に召さなかったらしい。
 しかし、報告対象は彼ではないので軽口は右から左へ流し、正面のアークタルス・ブラックだけを見据える。ファブスター校長から失笑が漏れると、笑うなリンピオと不満げな声が上がった。これも無視しよう。普段の私ならばここで、ルチャ・リブレがどうしたのかと話を逸しに行くが、今日はそのような精神的余裕もない。
 にこやかな笑顔を張り付けている私を不憫に思ったのか、アークタルス・ブラックが軽く首を傾げると右隣から声が消える。彼が、というよりも、彼の指示を受けた監視側の誰かがマリウス・ブラックの舌を口蓋に貼り付けたようだ。
「宜しい。満点には程遠いが間違いは1つもない、よく気が付いたね」
「ただの推測を重ねた結果です。それに、今更になってこんな事をと、蔑まれる事を覚悟していましたが」
「多少の失望は禁じ得ない。但し、それは君が行動を起こさなかった事に対してだ」
「仰る通りです。騒動が萌芽する前に殲滅すると、サプライズを用意すると、面と向かって2度もヒントをいただいていたのに」
「そうだね」
 後者はクリケットの観戦場で、前者は3ヶ月以上前の、未だ私が聖マンゴに入院していた頃に交わした会話である。
 これから魔法界のドブさらいと修復をを行うと非常に判り易く種を蒔いたアークタルス・ブラックに対し、私は道具となると宣言しただけで、将来起こり得る可能性を自身で導き出し、行動を起こす事は終ぞなかった。
 ブラック家が、ダンブルドアとヴォルデモートの2大巨悪の台頭など絶対に許すはずがないと理解していたにも関わらず、である。
 不正解でも構わない、実を結ぶ事も期待していない。しかし、情報を収集し、未来予測を立てる程度はするべきだったとアークタルス・ブラックは言っているのだ。
 そうでないのならば、道具であると申告した以上は調査に乗り出さず徹頭徹尾道具らしく振る舞うべきであったのだろう。人間は、ただそこに居るだけでいい愛玩動物に対して可愛げ以外の期待などしない、期待が存在しなければ失望もまた存在出来ない。
 何もかもが中途半端だからこその、失望なのだ。
 いつものように、失望された所で何の不利益にもならないと気軽に言えない相手だけに、自然と口の中が乾き始める。メルヴィッドがアークタルス・ブラックを完全に掌握していない以上、私は未だ彼と繋がっていなければならない、彼の言う多少の失望とは、具体的にはどの程度で、回復は可能なのだろうか。
 これではどちらが駒なのか判ったものではないが、それは今更であろう。虎の威を借る狐の真似をしようとして、虎の顎の下で震える狐に成り下がっている自覚はあった。
「顔を上げなさい、
 思い悩み過ぎて、意識しない内に顔も視線も下がっていたらしい。アークタルス・ブラックからの注意に慌てて顔を上げると、多少のだ、と繰り返された。
「これはブラック家が処理すべき案件で君の仕事ではないのだから、本来ならば反省の必要すらない」
「けれど、仮に私が3月の時点から各方面へ情報収集を始めていた場合は、全く違う役割を担っていたのではありませんか」
「仮定の話は、今現在必要かな?」
「いいえ、アークタルス様」
「そういう事だ……そんな顔をしないでくれ、君を悲しませるつもりはなかった」
 アークタルス・ブラックが狼狽する程に悲嘆に暮れる顔を、現在の私はしているらしい。
 きっと眉尻は思い切り下がっているだろうが、それでもどのような表情をしているのかよく判らない。ホテルの時のように、この部屋にも鏡があればと考えていた矢先、右隣のジェスチャーが激しくなった。
 涙を浮かべ、声が出ないままひとしきり大笑いした後、いいから俺に喋らせろと身振り手振りで猛アピールする騒がしい老人に監視側が屈したのか、呆れた従兄が無言の許可を出したのか、彼は言葉を取り戻したようだ。白ワインベースのカクテルを態とらしく一気に飲み干してから腕を伸ばし、私の髪を盛大に乱しながらニヒルな笑みを浮かべる。
「アークタルス、お前、柄にもなくそんな顔しやがるとか面白過ぎるだろ。も空を飛べと命令された子犬みたいな面しやがって」
 妙に具体的な比喩なのだが、フィリッパさんに対して同じ命令を下した経験でもあるのだろうか。会話への介入を訴えた割には意味のない言葉なので、湧き上がった疑問と共に貝殻の入ったバケツに捨て、乱れた髪のまま話を続けようと態度に出す。
 昼間はあんなに慕ってくれたのにと大袈裟に嘆くマリウス・ブラックの正面でメルヴィッドが貴方には反省が足りないようだと静かに呟き、エイゼルは肩を竦めた。
「話が進まないから、大尉はしばらく無視しても構わないよ。それよりも、今の君の役割が何であるのかを聞かせて欲しい」
「ヘーイ、クリーンファイター。元上司になんて言い草だ」
「貴方は上司であり上官ではないと記憶しておりますが。最終階級は私が上ですので、判り易く言い換えて差し上げましょうか? 黙れ、大尉」
「ああ、そのまま口は噤んでいてください。今から昼の続きを行います」
 元上司ではあるが上官ではないという事は、彼等は海兵隊時代ではなく国防省時代の同僚なのだろう。階級と役職との間に捻じれが起きた場合の一例を見せ付けられたような気がするが、マリウス・ブラックを見ると特に怯んだ様子が見受けられない。
 上官命令を受けても軽口を叩こうとする困った老人から人魚姫よろしく声を取り上げ、メルヴィッドが威圧感を含んだ笑顔で引き取る。
 彼は元軍人だけあり怒鳴られ慣れてはいるが、逆に柔らかいながらも理路整然とした説教は得意ではないらしい。メルヴィッドの魔法はすぐに解かれようたが、喋りたい態度を醸し出しつつも黙ったまま口を開こうとはしなかった。
 代わりに向けられた親の制止は子の役目だと助けを求めるような視線は気付かないふりをして左側に目を向ければ、精悍な青い瞳が質問の答えを待ち受けていた。
「ホグワーツ内部から空いた風穴、それが計画当初から構想されていた今の私の役目です。ダンブルドアに認められ、政府の後ろ盾を得た私であれば、大量の人員を速やかに手引き出来る。例え怪しまれる事があったとしても、件の3名が未処分である以上、警備機能の調査や防衛策の実施と銘打てば、探るも仕掛けるも自由自在です。実際に、分霊箱ホークラックスの調査の際は私の身の安全確保を理由にしたと考えています」
「計画当初から、と断言出来る理由を尋ねようか」
「ドール卿との会談場所が、治外法権が効かない場所でしたので」
 本気でダンブルドアからの介入を拒むつもりであれば、非魔法界のホテルなどではなく、イギリスの力が及ばないドイツや第三国の大使館なり領事館なりで会談を行えばいいだけの話であり、事実、ブラック家にはそれだけの権力と人脈が備わっていたはずである。
 ブラック家にとって、私達は対ヴォルデモートの貴重な生贄だ。こんな都合のいいものを最初からどこの国にもくれてやるつもりなどなかった。あの日の夜に辿り着いた結論もついでに述べ、更に先を促される。
「ダンブルドアが突入したタイミングから考えても、ブラック家が複数の魔法省職員を抱き込んでいたのは確実でしょう。具体的には大臣を動かす為に魔法大臣室の補佐官、それに、国際魔法法務局局長本人と、国際魔法協力部部長の代理、ドイツ魔法省の外交部門にも内通者が存在しなければペルソナ・ノン・グラータは発動しません」
「いい線まで行っている。だが、残念ながら不正解だ」
 正面のアークタルス・ブラックが苦笑し視線がエイゼルに向き、仕方なさそうな仕草でエイゼルが引き継ぐ。
「局長と部長代理は正解で、大臣室とドイツ魔法省は不正解。大臣室は一枚岩じゃないけど基本的にダンブルドア側だから接触は危険だよ。ドイツ魔法省はイギリス魔法省を通じてダンブルドアに情報を流したけれど、ブラック家は彼等とも取引をしていたから内通者じゃなく、正しくは二重スパイ。は、プライベートルームの鏡がドイツ魔法省に通じる両面鏡になっている事には気付かなかったみたいだね」
 エイゼルの指摘通り、私はその仕掛けには気付かなかった。案内された部屋に入ってからずっと視線を感じていたが、迂闊だ。
 恐慌状態に陥り何時死ぬのが最も適当かとだけ考えていた事もあるが、私の事だから例え冷静であったとしても、部屋の雰囲気に呑まれ気付かなかったかもしれない。しかし、それよりも優先的に処理すべき点が出て来た。
 アークタルス・ブラックの反応を見る限り、エイゼルの言葉が真のようだ。
「では、ドール卿はドイツ魔法省にとっても最初から捨て駒だった?」
「彼本人もだが、一族ぐるみで目溢し出来ないおイタをしてね。国が庇うにしても限度があるという事だろう」
「チリの、銅鉱山のグーテリに端を発した一連の騒動ですか?」
「真実は君の想像と違うが、事実としてならば、そうだと言える」
「あれ、はチリで全滅したグーテリが、伯爵の所有する資源開発企業の労働者だって知ってたの?」
 随分含みを持たせた言い方をするアークタルス・ブラックが気になったが、エイゼルが割り込み、言外にその辺りは自分から提供した情報じゃないと説明しろと注意され、内心申し訳なくなりながらも表面上は自身なさげに苦笑する。
「その顔は、カマ掛けたんだ」
「この場でカマを掛けられる程、私の心臓は強くありませんよ。確証は得ています。エリザベスのご厚意により、魔法界各国の新聞の写しを手に入れる事が出来たので」
「ああ、ホグワーツの司書か」
 ユーリアンにも話したが、私はジョン・スミス個人が所有する物は一切求めていない。
 条件を絞るとこちらが何を調査しているのか知られる危険があり、また、賭け事を生業とする彼としても自身が購読するメディアの詳細は語りたくないだろう。何よりも、複製と郵送に膨大な手間が掛かる。
 その手間を彼に推されたホグワーツの司書に押し付けるのはいいのかとなってしまうが、感謝の言葉と共に入学後に埋め合わせをする旨を書き記し、相手も了承の返信を送って来たので大丈夫だと思いたい。
 仲介者であるジョン・スミスとは既に取引が成立し、ホグワーツのとある肖像画を私の権限で入手して欲しいと頼まれている。
 この目で見た訳ではないが、彼の説明が正しいのなら内在的価値もなければ外材的価値もなく、生徒にとっては寧ろ有害扱いした方が適切と思われる絵画だが、正式な備品なのでホグワーツが手放すかという点に於いては微妙な物だ。尤も、私が失敗した所で彼が理事の権限を使用すれば容易く手に入るのだろうが。
 詳細が知れ渡った場合、ホグワーツ出身者の反感を買う可能性も考えられるので信頼第一で仕事に取り組む彼は下手な事が出来ないのだろう。その点、私は明確に敵対の立場を表明しているようなものなので、失うものは特にない。ジョン・スミスにとって利益となり、私にとっては損失にならないのなら、その方が良いに決まっている。
 喉が乾いている訳ではないのだが、一息つく為に溶けた氷で薄くなったカクテルを飲み干しノンアルコールのスパークリングワインをボトルで注文すると、物はすぐにテーブルの上に現れた。アルコールは入っていないが正真正銘のワインなので、ワインの名刺ともいえるラベルがボトルの来歴を雄弁に語っている。
「まさか、ミスター・スミスを頼るとはね。君の事だから、ホテル内で得た情報から辿ると思っていたよ」
「このワインラベルのように、ですか? 最初はアークタルス様の思惑通りでした。ただ、自分の力だけでは解決出来ない点が幾つも浮かびあがって……浮かんだまま解決しませんでしたけれど」
 当初、私が行っていたのはドイツ国内のワインの生産地と主要金属鉱床が重複するドール卿の領地を抽出して、その土地に関わる情報を掻き集めて分類するという、普段通りのどうしようもなく地道な作業だ。
 しかし、今回調査対象となっていたのは国外の過去の記録である。収集量が少なく精度も低いという有様であったので手間をかけた割には分析に全く使える代物ではなく、謎が謎を呼び頭を抱えて泣きついた先がジョン・スミスであった。
 また、ジョン・スミス程ではないがアルマン・メルフワにも世話になり、国連が発行する機関紙の入手法や、情報精度と確度の高い書籍や著者等を教えて貰う事が出来た。
 とはいうものの、良質の情報をどれ程手に入れても処理する人間の能力が全てに於いて残念極まりないのでアークタルス・ブラックの言う満点には程遠い結果となってしまったが。今の私は、新鮮な旬の食材を鍋で長時間煮込んだ挙げ句、栄養が溶け出した茹で汁を全て捨て、煮崩れた残骸のような何かを皿に盛っている人間だ。加工した情報にしても自分で消費するのならば構いはしないが、他人様に対しては見せる事すら躊躇う。
「アークタルス様、これ以上の詳細は必要とは思えません」
 大事な材料の入手先と、なんとかマシな程度に見られる形を保った結論は既に述べた。それらを失い皿の上に残ったのは、元が何なのかも判らないような物ばかりで、見れたものではない。
 アークタルス・ブラックも渋い顔をしているので、これ以上は引き伸ばさない方が賢明だろう。私に甘い彼にこんな顔をさせている時点で、既にタイミングを見誤っているが。
「私は知りたいな」
「ファブスター大佐?」
「君が指摘した通り、最初からホグワーツが学校生活の中心となるのは決定事項だった。それでも、私は校長だ。この9月から君が所属するリバーサイド・スクールの」
 何を教えるべきかを知る為に、何を知らず、何に気付かなかったのか、それを知りたいとファブスター校長は言い、お願い出来ないかと真っすぐな瞳で丁寧に申し出る。雨上がりの空のように澄んだ瞳を向けられ息を呑み、次いで、感心した。彼が今も国の為に自身を捧げる軍人であり、ブラック家の勢力に所属するに相応しい矜持高い人間である事が、身体の一部にすら現れている。
「貴方が、そう仰るのなら」
 簡単に折れた私の言葉を聞いたアークタルス・ブラックの眉間の皺が深くなり部屋の気配が俄に殺気立つが、ファブスター校長の言い分は尤もであり、断る理由がない。傍から見れば外面に惚れたように映るのかもしれないが、惹かれたのは外にまで滲み出た内面であると心の中で言い訳をする。
 軍に所属していた人間からの意見は今後の役に立つ、従兄を指差し大笑いしているマリウス・ブラックという大尉の存在は今この瞬間だけ無かった事にしておこう。
 既に私への期待は失せ不出来な愛玩動物としてか認識していないにも関わらず、まともな教育も受けておらず知性の欠片もない稚拙な手筋を聞かなければならないアークタルス・ブラックには申し訳ないが、両隣の赤と黒の視線もこの期を逃すなと告げていた。
「それでは、よろしくお願いいたします」
 更なる失望を重ねてでも手に入れろ。彼等がそう指示を下したならば、私の進むべき道は決まっている。