モロッコ風ミントティー
霧も雲の影も見当たらない、この地では珍しい快晴である。
電気を消せば冴え冴えとした青白い光が鋭く差し込み、真夏の寒々しい夜が部屋の中に満ちた。あと2時間もすれば地平の向こうに沈む光を何とはなしに眺め、溜息を吐く。
今月は、事件の密度が濃い。10日程前にスコットランド、今日はロンドンで、月末には再びスコットランドにて誕生日パーティが控えているが、この流れだと何も起こらないと思う方がおかしい。
2週間もしていないのに、これである。十分な睡眠と食事にさえありつければ気力も体力も回復する若者達ならば兎も角、齢90を超えて尚健在なアークタルス・ブラックは正直、私以上の化物としか思えない。
10年以上、妻の親族から虐待を受けて、保護されたのが約半年前。十二分なリハビリや精神的なケアを受けたとは到底思えないような期間で復帰し、今は世界の猛者相手に平然と活躍というか暗躍中。彼に比べたら私など、その辺で雑草を囓っている虫である。
「おや、ルドルフ。どうかしましたか」
アークタルス・ブラックの超人振りを考えながらぼんやり窓の外を眺めている私を心配してくれたのかと思ったが、そうではないらしい。私が思考を中断した事を確かめたルドルフ君は月明かりの下で小さく吠え、白黒の顔をテーブルの方へ向けて激しく尻尾を振った。
ルドルフ君は可愛らしくてお茶目な子犬だが、飼い主に似ず馬鹿な子でも悪戯好きでもない。何か気になる事でも起こったのだろうと明かりをつけテーブルに近付くと、彼が何を伝えたかったのかすぐに理解出来た。
「ありがとうございます。エイゼルに伝えるのは、明日でいいですかね」
紙の上をペンが走る力強い音だけが、閉じられた深紅の日記帳から聞こえる。今正に、対の日記を持つ誰かが文字を書き込んでいるのだ。
日記を手にして以降、この1ヶ月の間全く音沙汰がなかったが、此処に来てようやく相手がペンを取る気になったらしい。幾ら書いても返信がないとの疑問に、長期休暇が終われば返事も来るとエイゼルは言っていたが、彼の予言よりもかなり早い。相手が筆を執る気になった理由は、一体何だろうか。
ルドルフ君と共にベッドに腰掛け、ゆっくりと表紙に手を掛けている間に音は止む。ルドルフ君が気付いてからの時間を考えると、そう長い文章ではない。
ページを幾つか捲り、先程書いたばかりの今日の日記を見てみると、美しいが小さな文字で短い文章が追加されていた。
”もしかして、君はぼくと、同じくらいの子なのかな。
だってさ、ホグワーツに入学するんだろ?
きっと子供だよね。
子供なら、君と友達になりたいな、
ぼくは、もうずっと1人だ。ずっとね。
でも、一体何を書けばいいんだろう。
ぼくは、G.G.です。君の名前を教えて。
これでいいのかな”
「物凄い泥沼になる予感しかしませんね、これ」だってさ、ホグワーツに入学するんだろ?
きっと子供だよね。
子供なら、君と友達になりたいな、
ぼくは、もうずっと1人だ。ずっとね。
でも、一体何を書けばいいんだろう。
ぼくは、G.G.です。君の名前を教えて。
これでいいのかな”
改行の多さから一見すると詩にも見えるが、相手に向けて書かれた文章である。そこは別に、どうでもいい。
語彙こそ就学中の子供のようだが、内容に激しい違和感を覚える辺りが、どうでもよくないのだ。大人が考えた子供のように理性的で、私が書いた日記の内容も把握している。書き損じを一切していない筆跡は間違いなく長年教育を受けた人間の物だ。
その大人が、筆跡も内容も明らかにいい年した大人が書いたと判断出来る私の日記を、今年ホグワーツに入学する子供のものだと素直に受け取る事が考えられない。
元々この日記はエイゼルが持って来た案件なので、子供に成り切って交換日記に勤しむような遊び心溢れる相手とも思えない。そんな面白い相手ならば、エイゼルが手ずからシチュエーションをお膳立てするはずである。
G.G.と名乗ったイニシャルは偽名と考えるには余りにも手抜きだ、別に珍しい頭文字でもないので本名と考えるのが妥当だろうか。
連想出来る魔法使いはゴドリック・グリフィンドールとゲラート・グリンデルバルドなのだが、片方は1000年程前に死んでいるし、もう片方は獄中の囚人である。
そのゲラート・グリンデルバルドにしてもイニシャルをペンネームにするような安直な思考の魔法使いではないだろう。第一、エイゼルが危険を犯してまで彼と接触し、私と接点を持たせる理由もない上に、メルヴィッドが許可するとも思えない。
後は、ゴブリンの可能性もあるだろうか、理由は全く判らないが。最初のページにラテン語で友はもう1人の自分であると印字されているので、脳筋の思考回路をどうにかする為にエイゼルが作り上げた人工知能の可能性は、流石にない。彼の実力なら作成出来るかもしれないが、そんな貴重な物をよりにもよってこの私に渡す事がありえない。
エイゼルが発案し、喜々としてやろうとしている事なので採算度外視で面白いからという理由がある、だろうか。しかしこの状況、子供のふりをした成人同士の会話の何が面白いのか全く見当も付かない。
「利益でも面白さでもないとしたら、一体何でしょうね」
これ以上は考えても仕方がない事だろう、判らないものは判らない。折角ルドルフ君が気付き、相手から話題を振ってくれたのだ。どうせ思案してもこの脳味噌では碌な案など浮かばないのだから、流されるまま交流してしまおう。
時候の挨拶も何もなく、メアリーと偽名を一言だけ書きペンを置く。ルドルフ君の茶色の瞳がそれだけでいいのかと問い掛けているような気がしたが、他に何も思い付かない残念な飼い主なのだと言い訳をしながら顎の下をくすぐっておいた。
これで反応しなければもう一言か二言付け加えようと欠伸をこぼしていると、音に気付いたのか元々ページが閉じられていなかったのか、すぐに返信が書き込まれた。
”メアリーは、神の信徒かい?
ぼくは、神ってやつが大きらいだ。
神を利用して説教するやつらも、きらいだね。
もしも、君がそれなら、短い間だったけど、
大変な事になる前に、関係を終わらせよう。”
ぼくは、神ってやつが大きらいだ。
神を利用して説教するやつらも、きらいだね。
もしも、君がそれなら、短い間だったけど、
大変な事になる前に、関係を終わらせよう。”
”いいえ”
どの宗教の神を指しているのか判らない上に唐突過ぎる質問だが、日本人にありがちな特定の宗教信者ではないのでそこは即座に否定する。そして、少し考えてから今日の日付を思い出し、呼び出したデータベースでカトリック教徒のカレンダーを再確認しながら彼の意図を理解してペンを走らせた。
”私は壺を所持しているが、その壺に香油を入れる事はない。
出身はイスラエルのマグダラではなく、メアリーは偽名である。
魚も、月と星も、六芒星も、私は信仰していない。”
彼は、単に頭の回転が速い人間なのか、それとも捻くれているだけなのか、そのどちらでもなく熱心な無神教者なのか、一体どれだろう。出身はイスラエルのマグダラではなく、メアリーは偽名である。
魚も、月と星も、六芒星も、私は信仰していない。”
7月22日、今日という日がマグダラのマリアの記念日だからメアリーと名乗った訳ではないと弁明し、ついでに一神教であるキリスト教、イスラム教、ユダヤ教はどれも信仰対象ではないと告白しておく。では何を信仰しているのかと訊ねられると思い身構えるが、その辺りは興味の範囲外なのかG.G.はあっさりと手を引いてくれた。
”なら、いいんだ。
ぼく達はきっと、友達になれるだろうね。
顔は見えない、本名も知らないけど、友達さ。
言っただろ? ぼくは1人なんだ。
病気で、学校に行けない。
昔は、友達がいたんだ、年上の男の子。仲が良かった。
その子も、ホグワーツ生だった。
でも、もういない。
そうだよ、ぼくは、1人だ。もうずっと、だれとも話をしてない。
話したくなかったのかもしれないね、
話したい人間がいないんだよ。
ここに子供は、ぼくだけだ。あとは全部、大人だ。
きたない大人。大人は全部、きたない。
その大人から生まれた子供が、きれいだとは、思わないけどね。
ぼくもきたない、君もきたない。
まさか、自分はきれいだと思った? まさか、そんなはずないよね。
でも、ぼくらは大人よりマシさ。
ぼくの言いたい事、わかるだろ?
今、この部屋からは、森が見える。空気がきれいで、ふくろうが鳴いている。
月が明るいから、星は見えない。街の明かりは、山のずっと向こう。
メアリー、君の部屋からは、今、何が見える?
月も星もない、真夜中の色? それとも、マグルが生んだ品のない光?
君が見たままの景色を、君の感じたままの言葉で、知りたい。”
森の中で病を癒す少年、と表現するとサナトリウムに入れられた薄幸の美少年をイメージしたい所だが、彼は随分饒舌で元気そうである。そもそも、G.G.は成人済みの魔法使いと脳味噌が決めたので、線の細い少年も何もないのだが。ぼく達はきっと、友達になれるだろうね。
顔は見えない、本名も知らないけど、友達さ。
言っただろ? ぼくは1人なんだ。
病気で、学校に行けない。
昔は、友達がいたんだ、年上の男の子。仲が良かった。
その子も、ホグワーツ生だった。
でも、もういない。
そうだよ、ぼくは、1人だ。もうずっと、だれとも話をしてない。
話したくなかったのかもしれないね、
話したい人間がいないんだよ。
ここに子供は、ぼくだけだ。あとは全部、大人だ。
きたない大人。大人は全部、きたない。
その大人から生まれた子供が、きれいだとは、思わないけどね。
ぼくもきたない、君もきたない。
まさか、自分はきれいだと思った? まさか、そんなはずないよね。
でも、ぼくらは大人よりマシさ。
ぼくの言いたい事、わかるだろ?
今、この部屋からは、森が見える。空気がきれいで、ふくろうが鳴いている。
月が明るいから、星は見えない。街の明かりは、山のずっと向こう。
メアリー、君の部屋からは、今、何が見える?
月も星もない、真夜中の色? それとも、マグルが生んだ品のない光?
君が見たままの景色を、君の感じたままの言葉で、知りたい。”
しかし、これ程文字を書き続けても、彼の字は歪みなく整い、美しい。筆跡心理学の本など読んだ事もないので素人の意見になるが、彼は自分に自信があり、更に魅せ方も知っている人間のように思える。少し気取っているが嫌味のない文字を生み出すメルヴィッド達に似ていて、どことなくアークタルス・ブラックも彷彿させた。
「療養しているのが事実なら、老人ですかねえ」
紙の上に綴られた彼の言葉をどこまで真実とするかでイメージがかなり変化するが、取り敢えず養護施設で余生を送る老人としておこう。また、老人と一口に言っても、還暦超えの老人1年生からアークタルス・ブラックのような年季の入った老紳士、私のような精神と肉体不一致な頭の悪い老爺まで様々だが、取り敢えず100歳位と勝手に設定しよう。
”なだらかな黒い丘、青白い月と、静かな湖。それに虫の鳴き声と風の音が聞こえます。
こちらでも、星は少ししか見えません。空気は冷たくて少し重い。木と、牧草と、固い土の匂いが広がる、いつもの田舎の匂いがします。”
こちらでも、星は少ししか見えません。空気は冷たくて少し重い。木と、牧草と、固い土の匂いが広がる、いつもの田舎の匂いがします。”
”おどろいた。それが、本物のメアリー?
なんであんな書き方をしていたのか、理解に苦しむね。
今の方がいい。ずっとね。”
なんであんな書き方をしていたのか、理解に苦しむね。
今の方がいい。ずっとね。”
”男らしく見られたくて。”
”花を植えて、料理をして、アイスクリームを食べる事を、
男らしいと考えているんだ。
おかしいね。
でも、本当にそう思ってる?
すごく、変な考え方じゃないかな。
言葉だけ変えても、見た目だけ変えても、
君は何も変わらない。そうだろ?”
「正常な感覚の意見なんでしょうね」男らしいと考えているんだ。
おかしいね。
でも、本当にそう思ってる?
すごく、変な考え方じゃないかな。
言葉だけ変えても、見た目だけ変えても、
君は何も変わらない。そうだろ?”
本当は、対となる日記を持つ相手がどのような人物か全く判らなかったので興味を持って貰えるようにする苦肉の策だったのだが、全く意味を成さなかったようだ。
ホグワーツの話題に釣られて来たようなので、彼は元OBだろうか。今は全く暇ではないので無理だが、時間が出来たら図書室にでも行って貸出帳簿から筆跡鑑定をしてみよう。今よりも多少崩れた字だろうが、癖は一致するはずである。
尤も、彼がゴブリンだった場合、全く意味を成さなくなるので、本当に手持ちの仕事がなくなり暇になったらだが。
”男らしく見られたいのに、メアリーって名前を選んだ理由はなに?
目を閉じて、自分の内側をもう一度、見てごらんよ。
ねえ、メアリー、
君は自分が、一体どこのだれなのか、知っているかい?
目を背けるなら、それでいいさ。
君ががらんどうでも、ぼくは、困らないから。
だって、ほら、ぼくの中だって、がらんどうだ。”
メアリーと名乗る理由はメルヴィッドの養母であるメアリー・ガードナーが由来であり、自分自身が何処の誰なのか知るというのは、大前提として知るべき自分という正答が何処かに用意されていなければ成り立たないので問い掛けとして間違っている、と普通に返答したらこの友人関係は崩壊するだろう。彼は、その手の返答を望んでいるようには思えない。目を閉じて、自分の内側をもう一度、見てごらんよ。
ねえ、メアリー、
君は自分が、一体どこのだれなのか、知っているかい?
目を背けるなら、それでいいさ。
君ががらんどうでも、ぼくは、困らないから。
だって、ほら、ぼくの中だって、がらんどうだ。”
ちゃんとした哲学を学んでいれば興味深い言葉が湧き出てくるのだろうが、生憎私はそちらの方面が全く駄目で、子供向けの入門書を数冊読んだだけで投げた。私には、哲学を自力で勉強するのは無理である。
すっとぼけて現住所を晒すのは、私が全く面白くないので却下だ。折角エイゼルが匿名の状態で交流出来るよう取り計らってくれたのだから、活用してあげたいというのもある。
どのような反応が最適解なのかも判らず、結局は無難に沈黙を選択して反応を待つが予想していたような詰りは返って来ない。私が阿呆丸出しの返事を書き込むまで長々と講釈を書いてくれると思っていたのだが。
”ごめん、メアリー。
ちがうんだ。この、日記はおかしい。
ぼくは、こんな事、書くつもりはなかったんだ。
君を傷つけるような、こんな、
最初から、変だった。
メアリー、君の日記はふくろうがとどけた。
ぼくの日記は、ふくろうじゃない、
あれは、なんだったんだ、青白いホタルみたいな、小さな火が。
だれが、なんのために、こんなことを?”
ちがうんだ。この、日記はおかしい。
ぼくは、こんな事、書くつもりはなかったんだ。
君を傷つけるような、こんな、
最初から、変だった。
メアリー、君の日記はふくろうがとどけた。
ぼくの日記は、ふくろうじゃない、
あれは、なんだったんだ、青白いホタルみたいな、小さな火が。
だれが、なんのために、こんなことを?”
”G.G. 大丈夫ですか?”
”メアリー、まだ、見ていてくれたんだ。
だいじょうぶだ、ただ、ぼくの日記は、なにかがおかしい。
ずっと、返事をしなかったのは、そのせいだ。
強い力で作られた、まほうの道具だったから。
でも、ぼくと同じくらいの子がいて。友達になりたいって、思って。
ホグワーツに? ホグワーツだから、彼が?
だってかれはぼくを――ぼくが?
それで、それでなんだっていうんだろうね?
君の日記は、きっと平気なんだろうね。
いや、もしかしてもう、平気じゃないのかな?
君の友達は、なにか気づいてるかい。
君は、だいじょうぶ? だいじょうぶだとしても、なぜ、そう言えるのかな?
だいじょうぶって、なんだろうね?
ああ今日は、もう、やめよう。
しばらく、ぼくは、なにも、書けないかもしれない。”
だいじょうぶだ、ただ、ぼくの日記は、なにかがおかしい。
ずっと、返事をしなかったのは、そのせいだ。
強い力で作られた、まほうの道具だったから。
でも、ぼくと同じくらいの子がいて。友達になりたいって、思って。
ホグワーツに? ホグワーツだから、彼が?
だってかれはぼくを――ぼくが?
それで、それでなんだっていうんだろうね?
君の日記は、きっと平気なんだろうね。
いや、もしかしてもう、平気じゃないのかな?
君の友達は、なにか気づいてるかい。
君は、だいじょうぶ? だいじょうぶだとしても、なぜ、そう言えるのかな?
だいじょうぶって、なんだろうね?
ああ今日は、もう、やめよう。
しばらく、ぼくは、なにも、書けないかもしれない。”
”無理をなさらないで下さい。
それよりも、もしもG.G.の日記だけが異常な力で作られた道具だとしたら、助けを呼ばなければいけません。”
それよりも、もしもG.G.の日記だけが異常な力で作られた道具だとしたら、助けを呼ばなければいけません。”
”助けは、いらないよ。
だいじょうぶ。
ここには、大人のまほう使いなら、いるんだ。
きたない大人と、きたない子供。
きたならしいものを集めて、閉じこめて、その先は?”
だいじょうぶ。
ここには、大人のまほう使いなら、いるんだ。
きたない大人と、きたない子供。
きたならしいものを集めて、閉じこめて、その先は?”
”お願いです、もうペンを置いて下さい。貴方の仰る通り、その日記はおかしい。”
”大人に見せたら、もう二度と、返事はできないかもしれない、でも、
メアリー、君の事を、
君が見た外の世界の事を、これからも書いてほしい。
ぼくは、1人なんだ。”
私の同情か興味を引く為の演技なのか、本当に彼の日記にエイゼルが何かしでかしているのか。まあ、エイゼルの事だから、何かしたとしても表に出て騒がれるような被害は出さないから大丈夫だろう。メアリー、君の事を、
君が見た外の世界の事を、これからも書いてほしい。
ぼくは、1人なんだ。”
”判りました、G.G.”
”お願いだ、メアリー”
”はい、また明日。必ず、書きます。
貴方は私の友人です。だから、絶対に見捨てません。”
そこまで書き切り、これ以上の返信がない事を確認してから日記を閉じると、ずっと隣に居てくれたルドルフ君が笑顔を浮かべてからベッドの足元に移動し、大きな体を丸め眠る体勢に入った。どうやら、態々私が眠るのを待ってくれていたらしい。貴方は私の友人です。だから、絶対に見捨てません。”
「おやすみなさい」
日記を定位置に戻し、ルドルフ君とギモーヴさん、ぬいぐるみや人形達、そして物言わぬリチャードに声を掛け、表面上は・という子供の1日を終わらせる。
電気を消した部屋の中には既に影がなく、改めて窓の外を眺めると湖面には濃い霧がかかり、青白い炎を纏ったバスカヴィル君が真夜中の散歩を楽しんでいた。いつもの、静かで穏やかな夜だ。いつも通り、ラジオから流れる音楽とあの子の動きを楽しみながら、小さな書斎で仕事に取り掛かろう。
『さて、気持ちを切り替えてお手紙を認めましょうか』
アルマン・メルフワに、ジョン・スミス。折角作った人脈は活用するに越した事はない。
G.G.はどうなるのだろうか。否、そんな事は今考えても仕方のない事だ。