曖昧トルマリン

graytourmaline

無花果のサラダ

 意味もなく開いた口元が背後から伸びた白い手に覆われ、口蓋と舌の間から漏れた細い吐息が襟首にかかる。黙っているようジェスチャーで求められたので、素直に唇の上下を合わせると普段よりも低く優しい声色で良い子だと告げられ、咽喉で笑われた。
 少しばかり強引ながら、それでも十分に甘い保護者の態度でアークタルス・ブラックから幾らか距離を置けるよう取り計らってくれたエイゼルは、温度を感じさせない瞳と柔和な笑みを同時に保ったまま眼前を見据えている。符牒は受け取っていないが、どう考えても爺は邪魔だから喋るなと態度と雰囲気が告げていた。
 肘掛けを背凭れの代わりに使い私を横抱きしたエイゼルの隣では、半分折れた耳を出来る限りぴんと立て普段は緩み切っている口元を引き締めたルドルフ君がアークタルス・ブラックを直視している。誰に命令されるでもなく取ったあからさまな警戒姿勢に、フィリッパさんも一時的な身元預かり人の身を案じたのか、何時若造が飛び出そうとも取り押さえられる位置に付き迎撃態勢を取った。
 是非この2頭の大型犬には、最後まで冷静であって欲しい。でないと、紛れもない老人であるアークタルス・ブラックと、紛い物の老人である私が巻き込まれて真っ先に死ぬ。
 アークタルス・ブラックの一言でテント内の空気が一変したが、変化に戸惑っているのはこの爺くらいなもので、年若い2人と2頭は早々に布陣を完成させている。その中で、口火を切ったのはエイゼルだった。
「脅迫か交渉か、どちらの意味でしょうか」
「年寄りの世間話だと言ったら、きっと何も答えてくれないのだろうね」
「情報源を詮索せず、との関わりを否定しないだけで十分な会話が成り立つかと思いますが」
「成程? では、交渉と行こう」
 恐ろしくスマートに事が運び過ぎて一瞬2人が示し合わせているのではないかと疑念を感じてしまったが、私が相手している時には到底見せない表情をしているエイゼルを見て今正に言葉での小戦争が始まった事を理解し、早くもこの場から逃げ出したくなった。
 去年私が相手をしたダンブルドアのように、揚げ足を取れば済む人間ではない。尤も、そんな事はエイゼルだって百も承知だろう。
「とは言っても、私も老境に入って久しい。年若い君達と体力勝負となる腹の探り合いは避けたいのだが、宜しいかな」
 簡略化出来るのならこちらとしても是非、と即答したいが、エイゼルから黙秘の解除を許されていないので勝手に口を開く事は出来ない。保護者に縋る子供の顔でサングラス越しにエイゼルを見上げると、美しい顔がゆっくりと縦に振られる様子を見る事が出来た。
「例のあの人が力を取り戻しつつある中で、は対テロ作戦として君達に一体何を託したのか。それを知り、対策を立てたい」
「出来ません」
「にべもないね」
 条件も提示されない、交渉開始からの即答である。
 明確に拒絶の意を示したエイゼルを見てアークタルス・ブラックは困ったように笑い、そこまで嫌なのかと問いかけて来た。孫のように私を前線に据えるつもりは毛頭ないと続けたので、取り敢えず口止めしたはずの情報がレギュラス・ブラックを通じてダダ漏れている事だけは確定としておこう。
 情に絆されて口を割ったか、記憶を見られたか、或いは両方。私、というか、メルヴィッドに何も言って来ないのを見ると、2番目だろうか。元々情に厚い反面、精神的な攻撃に対しては弱いな子なので、祖父の要求に負けて口を割ったが後ろめたくて隠している可能性も高いが。そんな今考える必要もない思考で脳味噌を埋めながら、ストレートな殴り合いをしている2人の会話に耳を傾ける。
「君の腕の中にいるその子を、戦場へ引き摺り出そうとしている輩を庇うのかな」
「いいえ、そんな気持ちは微塵もありません。けれど、貴方も彼等と同類でしょう?」
「いずれ君達を戦場へ売り飛ばす、と? そうなる前段階で事を止め、力が及ぶ限り君達を守ろうとしているからこその交渉なのだが」
「美しい言葉ですね、この子にもそう言ったんですか」
 口を塞いでいた手が咽喉に下り、五指が緩く首を絞めた。単なる牽制の、更に演技なので苦しくはないが、目の前で動揺を隠し切れなかったアークタルス・ブラックは勿論そんな事を知らない。この方向性でイメージを植え付けるのはエイゼル的に大丈夫なのか少し心配になって来る。
「駄目だよ、、悪い大人の言葉を額面通りに受け取ったら。君は一度警戒心を解くと相手の言葉を鵜呑みにするから心配で堪らない」
 首に掛けられた手の親指から順に少しずつ力が入るが、まあ、呼吸が少し苦しいかな程度で特に問題はない。取り敢えず、私は何割か人間を辞めている部分はあるものの鵜ではないので鮎は吐き出せないと脳内でのみ訴えておこう。
 吐き癖の付いている幼い体なので、余り咽喉に刺激を与えられると川魚の代わりに食べたばかりのクッキーが液状になって逆噴出するかもしれないが、エイゼルの事だからその辺りはちゃんと考えてくれているに違いない。多少炭酸は飲んだが胃も膨れていないし、まだ大丈夫だろう。
 入り口の形に切り取られた空から赤いボールが落ちているが、歓声は聞こえない。時間の経過と共にテントを取り巻く魔法が強化されている。それを理解していて尚、エイゼルは私に語りかけた。
「今の私達の立場は単なる個々の集まりで、言ってしまえば何処にも所属していない新勢力未満の寄り合いだ。彼はそれを傘下に収めようとしている。言っただろう、情報を手渡せば力が及ぶ限り守る、と。その言葉を翻訳してみようか」
 気が変わらない内は身の安全程度なら保証してやるから知っている情報を洗い浚い吐け。獰猛な笑顔に乗せて続けられたエイゼルの言葉にそこまで言うかと戦慄する。
 アークタルス・ブラックの交渉を即蹴りしたので判っていたのだが、最早オブラートも何もない。ブラック家の後ろ盾を欲しているメルヴィッドでは口に出来ない本音が包み隠さず全部纏めて漏れ出すどころか全力投球されている。
「いいかい、一切の権力を持たない私達が王族とまで言われるブラック家の元当主と対等な立場で交渉出来る筈がない。それを頭に叩き込まないと、使い捨てにされるよ。まあ、君は献身が過ぎて愛する相手なら使い捨てにされても構わないと思っているのだろうけどね」
「私に庇護されるのは不満かな?」
「不満はありませんが、不安ですね。貴方は、年を重ね過ぎている。何時この世を去るとも知れない個人に身の安全を託す程、私は馬鹿にはなれない。貴方は公的な組織の代表者としてこの場にいる訳ではありませんし」
 一見納得出来るような内容だが、昔の記憶を遡ると公的機関である魔法省よりもブラック家が抱える組織の方が何倍も安全だと思えてしまうのは致し方ないのだろう。
 私の世界の魔法省は、たった1人の天才に率いられた極僅かな構成員しかいないテロ組織に短期間で乗っ取られてしまう程度には脆弱な組織だった。魔法省は、公的に認められた戦闘力と立法権を握っているのに防衛意識が著しく低い。正直、暴力で従わせるよりもリドルが猫を被り続けて魔法省へ就職し、大臣付きの補佐官にでもなって内側から傀儡政権を誕生させた方が手っ取り早いし平和的に解決したのではないかと、スイス政府が発行した民間防衛を片手に腐った脳味噌でシュミレーションしてしまう程、お粗末なものだった。現に、メルヴィッドはそちらの道を歩もうとしている。
 アークタルス・ブラックへの情報提供を拒むための方便に過ぎないのだが、しかし、何も言い返して来ない事を考えると私達はその程度の価値という事なのだろう。彼の持つ力ならば公的な組織への口利きや、私設部隊への受け入れなど容易いだろうに。
 否、私設部隊は、どうだろうか。勝手に存在していると定義するのは早計かもしれない。仮に存在していたとしても、彼は老齢で既に後進に指揮権を譲渡している可能性が高い。監禁されていた最中に解体されていたり、組織から一方的に関係を断たれている事も十分に考えられる。
 まあしかし、どちらにしても、仕方がない。何せ私達は何処からどう見ても組織の一員として引き入れるのは危険なタイプである。被害が拡大しないよう、個人の枠で限定的に囲おうとするアークタルス・ブラックの判断は正しい。
「と言う建前は以上です、お互いに」
 完全に交渉を任せ、どうでもいい事を紡いでいた私の思考を、エイゼルが一蹴した。
 驚いて反応する私の首を軽く絞め、だから額面通りに受け取るのは駄目だと言っているだろうと溜息を吐かれる。
「貴方はが欲しい。と言うより、精神面が脆いレギュラスの為にを必要としている、それだけでしょう。ブラック家ならば私達の情報がなくても、例のあの人なんて簡単に抑え込める」
「買い被り過ぎたよ」
「そうですか? レギュラスのように何処に居るのか判らないが存在している、ではなく、力を取り戻しつつある、とまで把握しているのなら既に対策を講じているに決まっている。が目を輝かせて語った貴方の経歴を信じるのであれば」
 言われてみて、確かにと納得した。
 隣接する世界の国家間で行われたWW2を乗り越えたアークタルス・ブラックが、たかだか自らが君臨する世界で一個人が巻き起こす国内騒動に手を焼く筈がない。例えその魔法使いが、どれ程の天才であってもだ。アークタルスという個人の能力ではヴォルデモートに全てが劣るが、ブラックという家の持つ地力が破格に過ぎる。
「それを敢えて放置している理由は、残念ながら判りません。どうせ、どす黒くて面倒臭くて碌でもない理由なんでしょうけれどね」
「はは、別に訊いてくれても構わないよ。このテントは何重もの魔法で守られているから話題を選ぶ必要はない、君は勿論、も入り口で気付いただろう?」
 ヴォルデモートを放置し、剰え利用しようと企んで事を無言で肯定しているのは正直どうでもいい。アークタルス・ブラックが出来ると確信しているのなら出来るのだろう。実際、居場所さえ掴んでしまえば現時点のヴォルデモートをどうこうするのは容易い。
 そんな事よりも、赤点どころか点数そのものを貰えそうにない絨毯云々の言い訳では誤魔化されてくれなかった方が余程問題である。今回はエイゼルが居てくれたから良かったものの、今後は表情や態度に気を付けなければならない。そう意気込むだけでどうにかなるのであれば世話はないのだが、現実は非情である。
 もう一度大きく吐かれたエイゼルの溜息から逃れるように身を捩ると、怒ってはいない呆れているだけだからと背後から片頬を引っ張られ、すぐに離された。
「何重の魔法を展開し、周囲からの干渉に気を配らなければ口にも出せない話題は上げたくありませんね。特に、貴方相手には」
「知っておいた方が便利な内容も含んでいるのだけれどね」
「それ以外の内容を知るデメリットが計り知れません」
「ハイリスク・ハイリターンは嫌いかな。メリットを追加しよう、君が協力してくれるのであれば魔法省内部で管理しているデータベースへのアクセス権限を与えよう」
 上乗せされたメリットに思わず息が止まる。余りにも巨大で、上等に過ぎる餌だ。
 バレてはまずい魔法の痕跡を消す為に何度も魔法省へ赴いては細々とクラッキングを仕掛けているので知っているが、あれは英国領土内で何時、何処で、誰が、何の魔法を使ったのかを紙媒体で残している。
 だと言うのに背中に感じるエイゼルに動揺は一切見られない。考えているのか、否、そんな事する筈がない。なぜなら、私達は何があっても絶対に、の情報を全て与える選択肢だけは排除しているからだ。交渉が成立した直後に、彼等に関する記憶を見せて欲しいと言われればそれだけで詰む。
「成程。そうすれば貴方を介さずに情報を入手出来、あらゆる敵意に対して先手を打てる可能性が上がる、と」
 そこで初めて、エイゼルは私の首から手を離し、自分用に取り分けていたクッキーを摘んだ。自分で食べるのかと思ったが、私の口へ放り込み言葉を封じた後で口を開く。
 見えはしないが、多分彼は、笑った。
「気に入りませんね」
「そうか、駄目かね」
「条件は素晴らしいと思いますよ、上手く扱えれば私との身の安全は保証されるし、実際私は上手くやれる才能と自信がある。けれど、気に入らない。腹立たしい程にね」
 単純な、しかしどうしようもない快不快の問題なのだとエイゼルは続ける。
「狼が用意した巣穴に頭から尻まで嵌まり込むような間抜けな兎だと、何処の誰とも知れない馬鹿共に舐められるのは我慢ならない。ミスター・ブラック、これは損得の問題ではありません。私個人の、プライドの問題なんです」
 架空戦記の中で聞いた台詞だ。エイゼルは嫌われる事と軽蔑される事は平気そうだが、馬鹿にされる事も我慢出来なさそうだと判断しながら静かに身を寄せる。私は分霊箱ホークラックスの中でも取り分けエイゼルの、このような自己中心的な考え方を可愛らしく思っていた。無論、その我儘を叶えるかどうかは別の話であるが。
「……そうか、残念だよ」
 さらりと出したアクセス権は虎の子だったのだろう、これ以上は無理だと判断したアークタルス・ブラックは更なる提示をせずあっさりと手を引いた。それは別に構わない。
 ただ、エイゼルの傲慢さに交渉を諦め苦笑する瞳に何の感情も浮かんでいないのが非常に不気味である。
 私が相手をしている時は光を受けた宝石のように輝いている灰色の瞳が今は陰鬱な曇天のように変化し、冷たさも暖かさも感じ取れない色を湛えていた。詩的な要素を除外すると、次の可燃ごみの収集日は何時だったかなと考える人間の目に似ている。
 今後は、冗談でもエイゼルの事を否定するのを止めよう。ちょっとしたネガティブな一言が言質に取られて、その日の内に彼が殺処分される未来しか想像出来ない。
「ねえ、。覚えていてね」
「何をですか?」
「私が老衰以外の理由で死んだり、突然消えたら、彼に殺されたと思って。例えどれだけ関係なく見えようと、必ずアークタルス・ブラックが関与しているから」
「……は」
 それを今、本人の前で言ってしまうのか。私ですら脳内に留めておいたというのに、幾ら何でも牽制方法が危う過ぎる。正面のアークタルス・ブラックを見て欲しい、目を丸くして驚いているではないか。
「エイゼル。エイゼル、何でそんな事」
「君の大好きなアークタルス様は私を殺したりしないって? うん、それでも良い。次にこの言葉を思い出すのが私の死体や、空の棺、小さな骨壷の前だとしても構わない。、私は君を愛しているよ、だから命を懸けて呪おう。そう、これは呪いだよ、魔法なんて使えなくても私達は誰かを呪う事が出来るんだ」
 私が慌てている理由はそれではないのだが、エイゼルに乗せられた方がいいのだろうか。本当にこの方向で大丈夫なのだろうか。しかし、それ以外の方向だと確かにエイゼルは早期に殺される。逃げ場など存在しない、エイゼルが全て塞いでしまった。
 ああもう、さっさと腹を括ってしまおう。既に発言してしまった上に、監視もされているのだ。私は私で忘却術は何があっても絶対に使用しないルールを持っている。あんな魔法を使う位ならば拷問の末に餓死した方がまだマシだ。
 口を結び意思を固めた私の表情をどのように捉えさせようというのか、エイゼルは広い腕の中に私を掻き抱き、物騒だが甘ったるい声でアークタルス・ブラックの名を呼ぶ。
は抗う覚悟を決めました。どうぞ、ミスター・ブラック。貴方の番だ。何時でも目障りな私を殺しに来て下さい、そうすれば私は、リチャード・ロウと共にこの子の心に永遠に留まり続け、貴方はアルバス・ダンブルドアと同類に成り下がる」
「エイゼル、まさか君に宣戦布告される流れになるとは思わなかったな」
 良くて世間話、普通に行けば交渉、悪ければ脅迫。アークタルス・ブラックの予定はこんなものだったのだろう、私だってブレスレットに触れられた時はこの流れになるとは全く予想していなかった。
 そんな爺同士の思考が同調する中、何を言っているのだと唯一歳若い青年がとても綺麗な笑みを浮かべる。
「貴方はの気質を読み違えた。それが許せなかった」
 このテントに入って何度目なのか、エイゼルの右手が咽喉に触れた。クッキーの甘い香りが指先に移っていたのが微笑ましくて表情を緩めると、腕に包まれサングラス越しでも私が笑った事に気付いたアークタルス・ブラックが怪訝な顔をする。
、答えて。君が大人しく急所を晒している理由は、これがお遊びで、私が首を絞める筈がないと確信しているから?」
「え、今更そんな馬鹿な事を尋ねるんですか。エイゼルもアークタルス様も当然知っているでしょう? 首を絞められても、骨を折られても構わないから晒しているんですよ。と言うか、弱かったですけれどエイゼルさっき普通に絞めましたよね?」
 言った後で、はたと気付く。エイゼルには信頼についてを語った事があるが、アークタルス・ブラックに対しては精々私の立場を利用して欲しいと言っただけでその辺りを深く掘り下げなかった気がする。仕方がないだろう、彼は私の思考が少しばかり世間から外れた場所で紡がれている事をちゃんと理解していたのだから、当然その辺りにも考えが及んでいるに違いないと思っていたのだ。
 私のようなタイプは彼の周囲に存在しなかったのだろうか。ああ、考えるまでもなく存在しなかったのだろう。していたら、今迄の昔語りの中に私に似た魔法使いが居ただとかその類の惚気話もしたに違いないのだから。完全に盲点であった。
 私のようなタイプは珍しいんだよとエイゼルに耳元で囁かれたので適当に頷くが、その顔は判ってないねと再度呆れられる。
「ミスター・ブラック、この子は貴方が思っているよりもずっと死と狂気の側に居る。それが貴方の計画に支障が出るのかどうかは判らないし、興味もない。貴方は私の本心を知っている筈だ、魔法界がどうなろうと構わない、ただ、さえ居てくれればそれで良いという本心を」
「そうか、君は敵なのだな」
「将来、敵となる存在です。貴方がこのまま例のあの人を野放しにして戦況を危うくすれば危うくする程、私と貴方の思惑はかけ離れたものになる。私は全てを犠牲にしてでもを救いたい、貴方はを犠牲にしてでも別の何かを救いたい。そしては私達の板挟みに合い、きっと苦しむ」
 ならば、私は喜んで貴方に消されよう。この子が苦しみ、心が悲鳴を上げないように、私の命を以って全ての愛を憎悪に転じさせよう。大丈夫、何も問題はない。憎悪に身を焦がすこの子はきっと前だけを見据えるようになり、血に濡れた刃のような美しさを孕む。
 甘美でありながら狂いを帯びた声に、熱の篭った台詞。言葉の内容は相変わらず方向性が心配になるようなぶっ飛び方をしているが、それでも当たり前のようにエイゼルの演技はその場に居る者の心を揺さ振る程に艶やかだった。