曖昧トルマリン

graytourmaline

三つ葉と焼穴子の卵とじ

 胡瓜のラー油風味、ビーツのスープ、ツナとピーマンの炒め物、人参とコーンのコールスローサラダ、冷製トマトの茄子詰めトルコ風、ローストポークのルバーブソース、スイートチリソース炒飯と、飲み物にトルコのヨーグルト飲料ことアイラン。矢張り食卓が全体的に赤味を帯びているが、偶にはこんな日もあるだろう。
 夏だからといって冷菜ばかりでは消化不良を起こしてしまうので、適度に温かい食事も織り交ぜ作られた本日の夕飯を眺め満足気に頷いていると、何処からともなく現れたユーリアンがうんざりした表情でどいつもこいつも機嫌が良さそうで不愉快だと愚痴を溢した。
 確かに、書斎へ籠もる前に見た本日のメルヴィッドはそれはそれはご機嫌で、リビングのソファにゆったりと横たわり、だらしのない姿勢で魔法力に反応して形を変化させる銀色のスライムのような物体を宙で弄んでいたが、無論それなりの理由があるのだ。
 本日を以て、ラトロム=ガードナー調剤店は惚れ薬を始めとする精神作用系魔法薬の調合及び販売を一切取り止める事を発表し長年のストレスの原因の1つが消えたのだから、鼻歌の1つでも歌いたい気分になっているのを一体誰が責められようか。
 元々好き勝手出来る個人経営の店なので停止までの道のりに障害が少なかった事も、機嫌の良さに拍車をかけている。
 弟の出生に強い衝撃を受けた里子が、強姦を誘発するような薬を作らないで欲しいと願い訴えて来たと建前も用意したので、ブラック家からも表立っては不審がられなかった。一部上顧客からの反発が予想されるがメルヴィッドが折れるつもりは毛の先程も無く、文句にも飽きて別店舗に離れて行った所で大きなマイナスにはならない。寧ろ過密気味であった仕事に余裕も出来るのだから、良い事尽くめだ。
 ユーリアンだって良質な惚れ薬がこれ以上世間に出回るのは不愉快だろうと同意を求めると一瞬言葉に詰まったが、それでもメルヴィッドの機嫌が良いのは嫌なのだと歳相当にひねくれた解答を寄越した。
「では、誰かの不愉快に合わせるのではなく、皆で楽しくなる方向にしましょう。ユーリアンは何をしたら気が晴れますか?」
「目の前の皿全部にペッパーソースとハラペーニョソースをありったけぶち撒けたい」
「素直に吐いたご褒美にあの世へ送って上げようか。その辺の虫から生気奪って来なよ、逆さに吊るしたままタバスコで満たしたバケツに頭を突っ込んで溺死させてあげるから」
 去年の末に日頃の感謝を伝える為と称して似たような事をしていたエイゼルは自らの所業を棚に上げ、ご褒美らしき部分が欠片も見当たらない殺人方法を提案しつつ杖を抜く。
 自分の作った料理を無碍に扱われたくない気持ちの表現方法にしては過激だが、今回は全く残念料理ではないので食卓に上がったにも関わらず誰の口にも入らないまま台無しにする宣言をされれば多少苛立ちを覚えるのも仕方がない。
 杖を取り出したとはいえ、普段のじゃれ合いの枠からは出ていないし、エイゼルの実力ならば食卓が荒れる可能性は低いだろう。先にメルヴィッドを呼びに行こうかと踵を返すと、匂いに釣られて来たのか良い具合にダイニングのドアが開いた。
「メルヴィッド、丁度呼びに行こうと思っていたんですよ」
「そうか」
「今日はエイゼルが作ったんですよ。美味しく出来ました」
「ならいい」
 私宛に手紙が届いていたと差し出された封筒を受け取り、差出人がアークタルス・ブラックである事を確認してから、この時間に届いたのならば急ぎの用ではないだろうと判断を下す。既に封は切られていたのでメルヴィッドも内容を確認済みなのだろう、ならば後回しにして大丈夫だ。
 メルヴィッドの口数が妙に少ないのは相変わらずご機嫌な証拠で、席に着く足取りは軽く視線や纏う雰囲気は生き生きと輝いている。ユーリアンの悪い冗談に関わった事で不機嫌になってしまったエイゼルはスープをよそう姿を見て勝手に食べ始めるなと注意し、自分の分を確保する為に慌てた様子で皿を手に取った。
 そんなエイゼルの機嫌を損ねた事で多少満足したのか、ユーリアンは私の隣に陣取り今日のメニューは赤と緑ばかりなのだからソースを追加してもいいだろうと可愛らしい同意を求めて来た。勿論、首を縦に振る事はない。
「炒飯にチリソースを、胡瓜の浅漬けにラー油を使っているので、これ以上の辛味はどうか勘弁して下さい」
「その真っ赤なスープは辛くないんだ?」
「加熱したビーツは色に反してほんのり甘い味がしますよ。なので、こうしてサワークリームを添えて食べると味の変化が楽しめます」
 混ぜるとピンク色になるのだと深皿の端で実演してみせると、アメリカ的な色だと評され食欲が湧かないと切って捨てられた。
「トマトとタバスコのスープかと思ったのに」
「酸味と辛味と赤い色、食欲をそそる美味しそうな組み合わせですね。明日は今日より暑くなるようなので、冷菜はガスパチョにしましょうか」
「ワインビネガーは控え目にしろ、酸味が強過ぎるのは好きじゃない」
 そう言った後でサラダの人参をフォークで突き刺したメルヴィッドは僅かに首を傾げ、エイゼルを一度見て、その後でまたサラダに視線を戻して僅かに眉間に皺を寄せた。よく見るとエイゼルも同じような仕草をしている。
 もしかして不味かったのだろうかとサラダを口に運ぶが、特に違和感はない。おかしいと思えるのは、精々コールスローのコールの部分に当たるキャベツが全く入っていない事くらいだろうが、そんな細かい事を気にする私達ではない。
「何かありましたか?」
 自分で食べても原因が判らないので素直に尋ねてみると、2人は同時に口を開き、いつもの味じゃないと全く同じ台詞を、同じタイミングで発した。
「言われてみれば私のレシピと塩加減が若干異なりますが、単なる好みの問題で十分美味しいですよ。塩の代わりにマヨネーズの甘味と酸味が程よく効いていて、サラダもいいですがサンドイッチの具にしたい味です」
「ああ、それだ。マヨネーズだ」
「味見した時はこれでいいと思ったんだけどなあ。回数熟して慣れるしかないか」
「私の味を再現する必要は皆無なんですが。もう一度言いますが、自分好みの味に仕上げればそれでいいんですよ?」
 言っては何だが、以前メルヴィッドに注意されたように私の料理は塩気が強い。それが年齢の所為なのか、出身地の所為なのか、生活習慣の所為なのかはさて置き、あまりイギリスらしい味付けとは言えないそれを態々真似る必要はないだろう。飲み込めない程に不味いのならば兎も角、十分美味しいのだから好きに作ればいいのだ。
 正しい味などこの世の中に存在しない。あるのは個人の好みだけだ。そう告げれば、だからこのコールスローは好みではないのだと返された。
「前も言ったけど、の味付けが私達の好みなんだよ」
「だからエイゼル、貴方は何故そう爺を喜ばせようとするんですか。体温と心拍数を上げて褒め殺す気ですか死にませんけど。もういいですよ分かりましたよ、後でバタークッキー量産しますから気が済むまで食べて下さい」
「何でバタークッキー?」
 横からユーリアンの真っ当な突っ込みが入ったが、生憎羞恥でそれ所ではない私は説明が出来ない。代わりにエイゼルがクッキー缶に端切れを入れている事を説明し、次いで、何を思ったのか先程食べていたロリポップの包み紙を渡して来た。
 エイゼルは己の楽しさを優先する傾向こそあるものの、このような不明瞭な行動を取る事は稀である。思わず受け取ってしまったがどうする事も出来ず、青とオレンジ色をした2枚の薄く軽いフィルムを持てあましていると、エイゼルが首を傾げ、ようやく言葉での疑問が放たれる。
「てっきり集めてるものだと思ったんだけど」
「ロリポップのパッケージを? 私が?」
「キャンディの缶にチョコレートの包装紙が入ってたから」
 クランチチョコレートと、パイナップルと林檎とミントのフレーバーチョコレート。指折り数え口に出した後に、それともチョコレートのパッケージだけだったのかと尋ねる隣で、メルヴィッドが力一杯立ち上がりアクシオを全力で唱えていた。
 予想だにしない方向からの反応にエイゼルは目を丸くし、一体何事かと視線で疑問を投げ掛けてくる。そういえばこの子が来る随分前の事かと納得して、あの包み紙はメルヴィッドから貰ったプレゼントなのだと説明しようと口を開きかけた瞬間、視界の隅で臭気と共に銀色の缶が炎を上げて燃える姿を確認して絶句した。
 慌てて杖を取り出し消化するが、中で大切に保管していたカラフルなアルミ箔は缶ごと炭と化して修復など到底不可能な状態になっているのは想像に難くない。確かに、他人から見ればこんな物は何の価値もないゴミにしか見えないかもしれないが、それでも私にとっては思い出の品であったのに。
 突然の出来事だからなのか怒りは湧いて来ず、喪失感が胸の内を占める。同時に、申し訳無さで頭が一杯になった。
 きっと、メルヴィッドにとって嫌な事だったのだろう。渡した菓子の包み紙を後生大事にしまい込む行為は、よく考えてみればストーカーに似た気持ち悪さを連想させた。この子達の魅力を考えれば実害を被った過去がある可能性もあった、ほんの一言、捨てずに取っておいてもいいかと尋ねなかった私に非がある。
 出来る事ならば燃やす前に宣言して欲しかったが、それは我儘というものだ。仮にも協力者がこんな気持ち悪い事をしていたら、否応なしに燃やしたくなるだろう。
、ごめん。不用意な言葉だったみたいだ」
「いえ、大丈夫です。メルヴィッドに断りもなく保管していた私に非がありますから」
「そんな事にまで許可を求めていたら最早協力者なんて呼べないよ。第一、本当にその程度で済むような物なら灰になるまで黙って見物しているか、燃え滓になった時点で捨てているだろう。少なくとも、普段の君ならね」
 黒いだけの、元は何か判らない塊になってしまったキャンディの缶を見下ろし、意を決して部屋の隅へ行ってゴミ箱に捨てる。無くなってしまった物はどれだけ後悔しても戻って来ないのだ。破損なら大丈夫だが、燃えてしまった物をレパロで直す実力は秘めていない。何よりも、メルヴィッドを不快な気分にさせたのだ、失っても仕方がないではないか。
 杖で手の平の煤を落とし、居心地の悪い空気を払拭する為にメルヴィッドとユーリアンに魔改造されたそれを掲げてお披露目するが、反応が鈍い。
「メルヴィッド、こんな事を言いたくないけど、今すぐ謝れ。右目が潰れても平然としてた爺がここまで空元気を出すとか普通に気持ち悪い」
「ユーリアン。私が気持ち悪い事をしていただけで、別にメルヴィッドが何か悪い事をした訳ではないので」
「勝手に燃やす事は悪い事だよ。私も今回はユーリアンに1票」
「エイゼルまで」
 誰も杖の話題に食い付いて来てくれず溜息を吐くと、そうしたいのは私の方だからとエイゼルに言われた。
「燃やされた物についてはこれ以上追求しないからに謝りなよ。でないと、あの時のダンブルドアと同類になる」
 あの時は本当に燃やされた訳じゃないけど、と付け加えられた内容が気になったが、メルヴィッドもユーリアンもこれ以上ないくらい苦い顔をしたので、余程負の方面の心に残る思い出なのだろう。
 話に入っていけない今の私に出来るのは、彼等の言葉の詳細は探らず、来るべき日の為にどのような方法ならダンブルドアが死を懇願する程に苦しむかを考える事だろうか。
 手始めにケロイド状になる火傷を負わせてから、死なないように注意しながら唐辛子と一緒に紅葉おろしにすれば少しは気が晴れるかもしれない。想像上の物体が既に紅葉おろしと呼ぶよりもカルシウム入りのミンチ肉のような何かなのだが、細かい事を気にしていては拷問が滞るので気にしない事にする。
 そういえば、冷蔵庫の中に挽肉があった。本当は今週の何処かでピーマンの肉詰めを作るつもりだったのだが、そのピーマンは今、ツナと共にフライパンで炒められ食卓に上がっていた。では、明日はガスパチョとハンバーグにしようかと献立を考えていると、杖をテーブルに置いたメルヴィッドに呼ばれたので素直に従う。
 消化器系で物事を考え、頭の中に味蕾と胃袋が詰まっている図太い私とは違い、可哀想なくらい繊細なこの子の口から紡がれた謝罪の言葉は、普段軽口を応酬している時よりもずっとか細く、比べ物にならない程真摯だった。
「メルヴィッド、大丈夫ですよ。この程度の事で爺は怒ったりしませんから」
「しばらく呆然としてただろう」
「突然の事でショックは受けましたが、燃えてしまったものは仕方がないと諦め切れる物です。それに、メルヴィッドも勝手に保管されていて嫌だったのでしょう?」
「……不愉快だとは思った」
「ならばもう良いではありませんか。私は無神経な人間なので、貴方が思っている程傷付いていません。それに今日は朝からずっとご機嫌な日だったんですから、不愉快の種が消えて良かったと前向きに気持ちを切り替えて1日を終えましょう」
 あのチョコレートの包み紙は、記憶の呼び水以上の価値はない。アルバムに挟まれた写真達のように、そういえば昔こんな事があったと思い出す為の道具に過ぎないのだ。
 悪い事をしてしまったと反省している姿がいじらしく、抱き締めて頭を撫でたかったが流石にそれは自重して、代わりに口に出たのはご飯を食べようと何とも普段通りで面白みのない言葉だった。けれども、お前の脳味噌はどんな時でも胃に直結しているんだなと苦笑するメルヴィッドが見られたので良しとしよう。
「だって、折角エイゼルが作ってくれたんです。温かいものは温かい内に、冷たいものは冷たい内に食べたいじゃないですか」
「そうだな。所でエイゼル、炒め物にピーマンの種が入っているから気を付けろ。豚肉は火を通し過ぎて固いし、ルバーブのソースは酸味ばかり主張してバターの風味が足りない」
「小姑ごっこをしたいのなら受けて立つよ? 手始めに君の皿だけピーマンがハラペーニョになって、豚肉は全部寄生虫入りの生肉になる呪いをかけてあげようか?」
「どっちの肩も持ちたくないから突っ込むけど、エイゼル、お前さっき僕に向かって言った内容を今この場で3回復唱してから物理的に脳味噌に刻み込んで死ね」
 いびるのは感心しないが、空気はいつも通りの物に戻り食卓には会話が戻る。
 しかし、メルヴィッドの表情は相変わらず少し強張っているようなので、今日の夜食は軽く胃に優しい物を作るよう心掛けよう。飲み物もアルコールではなくハーブティーで、ミントは癖が強いのでリンデンフラワーにする事を決定し、作れそうな物を急いでリストアップする。
 夜食の内容を固めながらメルヴィッドがお気に召さなかったローストポークを口に運ぶと確かに感想の内容にも納得行く味がした。しかし、表面はかりっと仕上り肉汁も豊富で、脂身を含んだ部分は寧ろ酸味の強いこちらのソースがよく合う。
 口喧嘩の合間を見計らってそう褒めてみるが、そもそも自分で作ったのに自分好みに出来上がらなかったのが嫌で腹を立てているから彼等相手にストレスを解消しているのだと堂々とした告白をされた為、食卓は更に騒がしくなった。
「初挑戦する料理が好みの味と完全に合致するのは私でも稀なんですがねえ」
 寧ろ料理人でもない初心者エイゼルの腕が100年近く生きている爺のそれより上だった場合、私は一晩顔を上げられないくらい落ち込む。しばらくはエイゼルの顔をまともに見られなくなる可能性だってある。大抵の事をなあなあで済ませてしまう私も、料理に関してだけはそれなりに矜持があるのだ。
 そういえば、初めてこの屋敷に来た日も私が不機嫌にさせてしまい、料理に対して滅多に不満を漏らさなかったメルヴィッドがはっきりと不味いと言った事を思い出し、同じ不機嫌でも今とは全く違うなと1人静かに苦笑を零す。
 挑発的な表情と青筋を浮かべ子猫のように仲良くじゃれ合っている3人を眺めながら食事を進めていると、今正に窓ガラスを叩こうとしている見慣れた丸い影を発見し席を立った。ジョン・スミスが飼っているか、所有している梟だ。
「お疲れ様です。先客が居ますが、貴方もご飯とお水を摂って休んで下さいね」
 ユーリアンが認知されないよう魔法をかけているとはいえ、長居させるべきではないだろう。持っていた手紙と小包を受け取り、騒がしいダイニングから離れやって来たリビングではブラック家から手紙を運んで来た梟が羽を休め眠っている。手紙を遣り取りする度にロンドンとカンブリアを往復するのだから疲労も溜まっているのだろう、ジョン・スミスから遣わされた梟は肩に止まったまま先客を起こさないように一度鳴き、丸い体を頬に擦り寄せてからもう一度鳴いた。
 緊急の用件ではないだろうが、ダイニングへ戻る前に一応手紙の内容を軽く確認しておこうと封を切り手紙を取り出すと、あの日と同じペンハリガンのバイオレッタが微かに香る。移り香にしてははっきりとしているので、私が好きな匂いだと言った事を覚えて態々羊皮紙に香りを含ませてくれているのだろう。自分をアピールする為との理由も考えられるが、敵意がない以上はより良い方向に考えた方がお互い幸せになれる。
「デートのお誘い、ですか」
 そういえば入院中は結局外出許可が下りず、退院後はメルヴィッドとエイゼル、そしてブラック家が全力で囲い込んでいた為、プレゼント攻撃こそ受けたが口約束していたブティック巡りは果たされないまま4ヶ月が過ぎようとしていた。
 となると、この小包には義眼が入っているのだろうか。彼は賭けに出る前までは慎重な行動をする人物だと思われるので妙な魔法はかかっていないと思うが、それでも心配なのでメルヴィッドに確認して貰った方が安全だろう。
 もう少し詳しく手紙の内容を読むと、1ヶ月以上先のお誘いだと判明したが、彼は多忙な社会人の身で、私にしてもブラック家と深く関わっている以上は予定が早く決まるに越した事はないのでこちらは妥当な日数だ。心配なら家族同伴でも構わないと書いてあるが、多分メルヴィッドもエイゼルも全力で拒否するのが目に浮かぶ。裁判の際には一緒に仕事をしていたが、それは本当に仕方のない事態だったのだと返って来るに違いない。
「今年の夏は予定が目白押しですね」
 ついでに目を通したアークタルス・ブラックからの手紙にも同じようにデートのお誘いが書かれているので、もしかしたら魔法界のお貴族様達には好みの子供をデートに誘う習慣があるのかもしれない。
 そんな馬鹿な事を考えながら、今日中に返事を書くのでゆっくりしていて欲しいと梟達に告げダイニングへ戻る。相変わらず物騒な言葉をやりとしている綺麗で元気で可愛らしい青少年達の声を聞きつつ味の染みた冷たい茄子を取り分け、アイランで喉を潤してから静かに緩く笑う。
 平和で微笑ましい日常の食卓だが、きっとこれは、嵐の前の何とやらなのだろうと。