魔法使い、四海竜王を睡眠誘導する
「余か、おかえり」
「え、あ、ただいま」
続を起こさないようにそっと近づき、一体何があったのかと首を傾げる。
確か、この兄は余が今朝家を出て行くまではこの男性に対してかなりの不信感を持っていたはずなのだが、どういうわけか今はその彼の膝の上でぐっすりと眠っていた。
「魔法でも使ったの?」
「いや、よく判らないが余たちが出て行ったすぐ後くらいに懐かれた」
懐くって、続兄さん動物じゃないんだから……と口には出さずに強く思う。
「でも珍しいよ。続兄さんがここまで無防備になるなんて」
「余にとっては年上の兄かもしれないが。おれからしてみれば、彼も余と同じ年下の子供という認識だから、かな」
「子ども扱いされて、続兄さん怒らなかった?」
「最初の方は怒っていた様な気がするが。よく判らない」
「って、大物だね」
普通に膝の上の髪を撫でながら明らかに続を寝かしつけているを見つめ、余はとても素直な感想を述べた。
「ああ、そうだ。冷蔵庫の中にプリンがあるぞ」
「買ってきたの?」
「いや、作った。今日は外に出ていない」
「え、外出しなかったんだ。買い物しなくて大丈夫だった?」
うちの冷蔵庫何もなかったでしょ、と続ける余には苦笑する。
食事の材料のほうは、昼ごろ訊ねて来た茉理が買ってきていたので問題はなかったことを告げると、余は納得してキッチンへと駆けていってしまった。
そしてプリンを持って戻ってくる。
「そうだ、。今朝はきちんとお礼言えなかったけど、お弁当ありがとう。久し振りで嬉しかったし、美味しかったよ」
「あの量で足りたか?」
「……ええと、実は購買でパンを二つほど。あ、でも中身増やさなくてもいいよ? うちにあるあれ以上大きなお弁当箱って重箱になっちゃうから」
の隣に座り、冷えたお手製のプリンを美味しそうに食べながら今日の事を報告していると、眠っていた続が軽く身じろぎした。
二人は一瞬動きを止め、再び眠る続を確認すると視線を交感して笑いあう。
「何だか続兄さん見てたらぼくも眠くなってきちゃった」
ポスンと隣の男性に寄りかかり、軽く目を閉じると頭の上から夜寝れなくなるぞという忠告が降ってくる。が、それが耳に届く頃には余は夢の世界に旅立ってしまっていた。
テーブルの上には食べかけのプリン。しかし支えとなっているが今立ち上がれば、二人とも確実に起きてしまうだろう。
これで起きなかったらよほどの大物か、それ以上に鈍い人間だ。
……もしかしたら、余は起きないかもしれないが。
「仕方ない」
本を閉じて、右手には杖。
呪文を唱えてそれを振れば宙に浮くプリン。そのままプリンは独りでに開いたリビングの扉をくぐり、キッチンの冷蔵庫へと宙に浮かびながら移動していく。
「冷蔵庫の中に入った、か?」
結構不安げな言葉を言うも、確かめる術はないのではそれを放棄して再び視線を本へと戻すのだった。
ちなみにこの光景、寄り道して帰ってきた三男坊が竜堂家に到着するまで続いていた。