魔法使い、四海竜王に人類外宣告をされる
「ねえ、魔法使いってみんな箒で空飛ぶの?」
「いや、そうでもない」
「! もう一度魔法見せて!」
「後で、魔法を使う必要が生じたらな」
「どうやったら魔法使いになれるの?」
「個人の才能にもよるが、一応は学校があって多くの魔法使いはそこで魔法を学ぶ」
「げ、学校あるのかよ……」
「昔はなかったと聞いている。ただ魔法使いというのは優性遺伝みたいで、魔法を使える人間と使えない人間が子供を作ると、大概魔法を使える子供が生まれるみたいだな。そうすると魔法使いの人口が徐々に増えていくから学校も必要になったのだろう」
「じゃあ魔法を使えない人間からは魔法使いは生まれないの?」
「生まれるし、別に珍しくもないが、ハーフの方が多いのは確かだな。おれもその一人だ」
「「へえー」」
「じゃあさ、」
「二人とも、あまり質問ばかりしてくんを困らせるなよ」
再び年少者からの質問攻めに合いそうだったに助け舟を出したのは、彼が異世界から持ってきた魔法書を眺めていた長兄、始だった。
「すまないな、弟たちが騒がしくて」
「いや、構わない。うちにはもっとでかくて喧しいのが二人……いや、三人居る」
あいつらの煩わしさに比べれば二人からの質問など可愛いものだと、空になっていた始と続のコーヒーカップに茶色の液体を注いでいく。
ただ、その表情は何故かひどく複雑そうだった。
「……、やっぱり元の世界が懐かしい?」
「え?」
「いや、そんな顔をされると普通はそう思うって」
「は?」
余と終の言葉にそれぞれ疑問系で首を傾げ、ようやく言葉の意味が判ったのかは苦笑しながらコーヒーサーバーを元の位置に戻した。
「その事は関係ない。ただな……」
「ただ?」
「自分よりも一回りも年下の子に君付けされるのは複雑な気分だなと思っただけだ」
笑顔と共に吐かれたそんな台詞に、四兄弟の表情が固まった。
特に本を読んでいた始と、聞き耳を立てていた続はコーヒーを受け皿に戻す手が震え、動揺がありありと見て取れる。
「……って、35歳付近なわけ?」
「うん? まあ、大体その辺りだ」
現状確認のため念を押す三男の言葉をいとも簡単に肯定する。
終と余の声が綺麗にハモった。
「「その顔で!?」」
「一応、参考までに聞いておくけれど、おれは一体何歳位に見積もられていたんだ?」
せめて20代後半くらいはあって欲しいな、でも始くんは明らかに20代前半だからそれはないんだろうな。だからと言って10代は勘弁して欲しいな。と哀愁を感じさせる視線をかなり遠くに投げながら、彼は自分の外見年齢を改めて思い知らされていた。
「ぼく絶対二十歳くらいだと思ってた!」
「おれも続兄貴と同い年くらいかなって思ってた」
「てっきり終と続の間くらいかと」
「ぼくは終くんと同じ年だと思っていましたよ」
下降の一途を辿る外見年齢に、は目に見えて凹んでいた。童顔と女顔は彼の英国留学時代からのコンプレックスだったが、まさか異世界とは言え同じ日本人にここまで言われるとは思っていなかったのだろう。
そういえば、この間母校で普通に在学生と間違われたな、と嫌な回想をしてみる。
「今更だからな」
ふふ、と暗い笑みを浮かべるの脳裏には、嫌な記憶が蘇っていた。
平日の昼間に買い物をすれば補導員に捕まり、夜風に当たろうかと夜中出歩けば子供は家へ帰るよう通告される。酒や煙草を買おうとする度身分証の提示を求められ、免許証で信じて貰えずパスポートを提示した覚えもある。
「ちなみに、終は一体幾つなんだ?」
「え、おれは15だけど」
「そうか……おれの実年齢の半分以下か」
終の言葉に、一体自分はどれだけ童顔に見えるんだ、と内心激しく突っ込みを入れていたりした。
見つめられる八つの視線が、には痛く感じられる。
「あ、あの……大丈夫?」
「いや、久し振りに自分がどれだけ童顔なのか思い知らされただけだから大丈夫だ」
久し振りなんだ、と彼は四人の心の突っ込みを聞いた気がする。
この場合、単にの身分証提示が日常茶飯事になりつつあるので面と向かって童顔だと言われるのが久し振りなだけなのだが、それに気付く者は誰もいなかった。
「ええと、じゃあ……さん?」
「いや、別にで構わない。さん付けもしなくていい」
どう呼べばいいのか判らなくなっている長男にそう返し、はコーヒーを一口飲んだ。
「だから終、余。おれを人間外と認識することだけは止めてくれ。これが素なんだ」
背後で魔法使いだからとか、実は仙人かもという発言を繰り広げる二人組みに、彼は深い溜息をついたのだった。
こうして竜堂家の夜は更けていった。