曖昧トルマリン

graytourmaline

祈りにも似た姿

 厨房に忍び込もうとしているリーマスを見つけた。
 例の手袋は持っていない。どうやら、には渡したらしい。
 リーマスはおれたちに気付いて、あからさまに嫌そうな顔をして、それでもこっちに歩いてきた。だけど話しかけたのはおれではなく、ジェームズだった。
「……何?」
「楽しみを邪魔されたような口調だね」
「その通りだよ」
 駄目だ既にかなり恐い。
 目を合わせたら、という訳でないけど、出来れば目を合わせたくない。切実に。
「またよからぬことを企んでるみたいだね」
「恐いなあ。そんなに睨まなくてもいいじゃないか」
「別にに手出ししなければね」
「あんな無敵なお姫様に手出しなんてしないよ」
 ……お姫、様?
 ジェームズ、お前ついに眼鏡の度が合わなくなったか。
「シリウス、君は今すぐ角膜の移植手術を受けるべきだね」
「それは駄目だリーマス。そうなるとホグワーツのほぼ全員にそれが必要になる上にドナーが足りない。無論ぼくは例外だけどね」
 二人とも、頼むからおれの心を読むな!
 ついでに笑うな!
「で、まあちょっと本気な冗談はさておき。リーマス、単刀直入に聞くけど、ってさっきなに拾ったのさ?」
「本人に聞けば?」
「……シリウス。君の肋骨を4本ほど砕いて情報を入手するしかなさそうだ」
「おれかよ!?」
 冗談じゃない、アバラ骨折が代金なんてそんな情報嫌だ。
 というか、ジェームズ! 協力してくれるんじゃなかったのか!?
「ぼくはあくまで立案者で参謀、実行者は君に決まってるじゃないか」
「そっ、な……!」
「だってって基本的に実行者しか始末しないしね。余程悪質でない限り」
 お前は存在事態が邪悪だ、ジェームズ。
「シリウス、見殺すよ?」
「すいません、ごめんなさい、やっぱりお前親友じゃねーよ」
「というか二人とも、何ぼくの目の前でに手出そうとしてる訳……怒るよ?」
 いや、怒るっつーかもう殺す勢いなんだけど、リーマス。
「……でもさ」
「なに、シリウス?」
「なんでリーマスはそいつに、そんなにまでに肩入れするんだ?」
「愚問だよ。君には理解できないかもしれないけどね、彼は優しいんだ。ぼくが今まで出会ってきた人間の中で、誰よりも何よりも、優しくて哀しい」
 ああ、理解できない。できるはずない。
 あんな気色悪い暴力男が優しいなんて結び付かない。哀しさなんて持っていないだろう。そう思ってなにが悪い。
「あのさ、リーマス」
「ジェームズまで、何?」
「シリウスには話したんだけど、って優しいってよりも、優しさが欲しいって人間に見えるんだよ、ぼくには」
「……」
「でも、こうも思うんだよね。他人に優しくする努力もしないで、その他人から優しさだけ欲しいなんて、ちょっと都合が良すぎるんじゃない?」
 その瞬間、リーマスの表情が変わった。
 怒鳴るでもなく、視線だけを冷たくした。丁度、不機嫌ながおれたちを見るような、そんな目つき。
「ジェームズは、それなりに理解してると思ったんだけどね。ごめん、買い被り過ぎてた」
「ちょっと待てよリーマス! 幾ら何でも今のは」
「ねえ、君たちに彼の何が判るの? ぼくだって彼の事は何も知らないのに、何で君たちはそうやって好き勝手にを決め付けて……それを肯定しまうの?」
「決め付けてるんじゃない。がそう決め付けさせているんだ」
「ジェームズ……」
「君たちは偶々許されただけさ。ぼくはまだ許されていないから傍に寄れない、ならそう考えたって仕方ないだろう?」
 リーマスはその言葉だけ聞くと、おれたちを一瞥し厨房の方へ歩いて行ってしまった。
 何なんだ、一体。
 ああ、もう。最近リーマスも考えている事わかんねえよ。
 やっぱり原因はか……あいつ本当、目障りだ。さえいなければこんなイライラも無かっただろうし、リーマスとこんな事になるなんてなかったはずだ。スネイプにだってもっと大量の面白い悪戯仕掛けられるだろうし。
 いっそどこかに消えてくれないかな。いや、世の中からなんて贅沢言わないからいっそスリザリン辺りに。せめて同室外に。
「なんか詰まんねえ。面白くねえ」
「そうかい? ぼくは結構興味深かったけど、リーマスのあの反応」
「……?」
 あのが乗り移った様な顔か?
 あれは興味というより矯正させた方が無難だぞ。
「君の見切りの悪さにはいっそ感心していいかい? っていうか、本気でするよ。もう真剣勝負で真っ二つに切り裂かれてる君の死体を見て感嘆するくらいの勢い」
「絶望的って言いたいならはっきり言えよ」
 それぐらいおれにだって判るんだからな。
「じゃあ絶望的だね」
「ジェームズ、親友止めていいか?」
「あ、いや。ごめん、言い過ぎたかも」
「かもじゃねえよ……別にジェームズだからいいけど」
 ああ、おれってば優しい奴。親友止めるって一瞬本気だったけど。
「それで、おれが察せなかったのって何だよ?」
「んー、リーマスのビックリ顔?」
「は?」
がぼくらに自分は優しくないって決め付けさせてるって言ったら、リーマス驚いて肯定しちゃったからさ」
 ……あいつが、おれたちに優しくないって決め付けさせている?
「彼はぼくらにそう思い込ませたいんだよ」
 何でだよ?
「さーね。だから言ってるじゃん、は謎だって」
「ジェームズ……だから人の心読むな」
「仕方ないよ、君は読みやすいから」
 どんな理屈だ。
「でも、それは良い事なのかもね」
「……?」
「判んないならいいと思うけど。そういう所」
「なんだよ?」
 急に黙りやがって。
 なんか後にって言葉が続いた気がするけど。
「まあまあ、それよりリーマス尾けない?」
「は?」
「人質が何処にいるのか確認するんだよ」
「……お前やっぱりスリザリン向きじゃねえ?」
 おれが冗談でそう言うと、ジェームズが笑った。