曖昧トルマリン

graytourmaline

祈りにも似た姿

「ぼくが推測するに、あの中身は捨て猫か捨て蛙か捨て梟だね」
「何だよ、突然」
 チェスをやりながら突然言い出したジェームズ。
 そういえばおれは、ジェームズの考えていることもいまいち理解できない。いや馬が合うからいいんだけど。
「ハッフルパフの女の子が泣きながらあそこに何か置いてったの昼頃見たんだ」
「馬鹿じゃねえの?」
 自分で世話出来なくなったからって捨てたってのか。馬鹿以外何者でもないだろ。
 運が良ければ誰かが拾ってくれます? 悪かったら凍死が餓死か? じゃあ最初から殺してやれ。去勢しなかったなら責任を取れ。それが優しさってものだろ。
「殺すと夢見が悪いんだよ」
「人の心読むなジェームズ……って、いつの間にかチェックされてるし!?」
「結果を知らない方が気分的に楽になれるんじゃないかな。もう自分には関係ないってさ」
「しかも言葉の方は無視かよ」
「はい、チェックメイト」
「げっ」
 駄目だ、おれ完全にジェームズに遊ばれてる。
 ああ。おれ一生こいつにだけは勝てないんだろうな。
にだってテストも喧嘩も勝てた試しがないじゃないか。あと勿論リリーにも」
「だから! 人の心を読むな、ついでに嫌な事をも思い出させるな!」
 ああ、クソ! 腹が立つ!
 気味悪いくせに無駄に頭がキレて力が強いなんて最悪だ! あいつは!
「シリウスは一教科も勝てなかったもんね、ぼくは辛うじて飛行術と魔法史で勝てたけど。自信のあった変身術で完敗したのはちょっと落ち込むな」
 でも、あいつが首席だったの全教科で闇の魔術に対する防衛術と変身術の2つだけじゃなかったか? なんかつまんねえ点の稼ぎ方してやがる。
「でも彼さ、全部の教科で上位5位には入ってるから。しかもトップの教科は正しく他の追随を許さない点数だったから僻みに聞こえるよ、シリウス」
「おれだって全教科上位5位には入ってる」
「でも得意な天文学も大差でに負けたね、まさかがあそこまで飛行術が上手いとは思わなかったし。今年に入って一度、シーカーの話が行ったらしいよ」
 ちょっと待て、あいつがグリフィンドールの……いや、クィディッチのシーカーになるくらいだったらピーターにやらせた方が1.25倍はマシだ!
「でも断られたってさ。最後は、こっちが頼んでやってるのにその態度は何だって言ったらキャプテンぶっ飛ばしたって」
 ……だからキャプテン、包帯巻いてたのか。てっきり練習中に事故ったと思ってた。
 そして相変わらず暴力で解決する奴だ。
「でさ、話戻すけど。はそれを拾ったわけだよね」
「なんかイメージできないんだけど。奴がそういう事するの」
「でも拾ったんだよ」
「途中でどこかに捨て直したかもよ」
 あいつ冷酷だし、考えてることわけわかんないし。
「君、馬鹿だな。そんなだからに頭使って喧嘩しろっていつも忠告されるんだよ」
「おい」
「つまり。今には弱点が出来てるって事、わかんないかなあ?」
 あ、そっか。
 ……でもそれは奴があれと拾ったってこと前提じゃ?
「拾ったよ、あれ持ってスネイプと城に入ったし。それには冷酷で非情かも知れないけど馬鹿じゃない」
「……それはおれがまるで馬鹿なように聞こえるんだけど?」
「ぼくさっき言ったろ、君は馬鹿だって」
 おい、それが親友に対しての言葉か。
「シリウス。は強いよ、魔法も出来るし、体術もマグルの武器も扱い慣れてる。経験値は判らないけど、少なくとも並じゃない。強いことは認めるべきだと思うけどね、じゃないと君、一生彼に勝てないよ」
 なんか、ジェームズってが嫌いな割にそういう所をきちんと認めているのは凄いと思う。けど、それでもおれはあいつが嫌いだ!
 認めたくないし、認めない。
「あのさ、だからぼく別にのこと嫌いじゃないんだって。ただ、上手く言葉にできないけど苦手なの。ついでに君、ぼくの忠告を完全にシカトしたね」
「だってさあ」
「……まあいいけど。で、姑息な真似だけどを困らせるにはそれ狙うしかないと思うわけだ。ぼくとしては」
 困らせるって、いつも困らせてるじゃねえか。
 あ、ジェームズ。またおれを馬鹿にした目で見やがった。
 つーかもう心読むな。
「悪戯仕掛人としてキツイ事言うけどね、ぼくらの悪戯には一度も困った顔した事ないよ、無言で怒ったり迷惑そうな顔はしてるけど。それ判ってる?」
「……え?」
 それ、マジ?
「はー、馬鹿だ阿呆だとは思っていたけど、ここまで酷いとはね。テストの点数と現実とでは使う脳が違うんだよ、やっぱり金持ちの坊っちゃんは駄目駄目だね」
「うるせえよ! お前だって金持ちのボンボンじゃねえか!」
「や、君とは頭のデキが違うのさ」
「……ジェームズ、おれの事けなして楽しんでないか?」
「いやあ、君がいつにも増して分からず屋だったから」
 楽しんでたんだ。
 うわ、おれってばちょっと人間不信になりそう。
「勝手になってなよ。ぼくは止めないよ」
「……なあ、おれたちって親友だよな?」
「親友だよ。だからこうしてをどうやって困らせようか策を練ってあげてるんじゃないか。一緒に」
 練ってたか、策?
「だから犯行声明無しで3日くらい人質監禁してちょっとの間困らせようって事さ」
「お前スリザリン行った方がいいと思うぜ?」
「スリザリンの阿呆共だったら大々的に犯行声明出してを煽るさ。で、煽られたは見事人質を救出、犯人たちは医務室に運ばれることになるよ」
 あ、待てよ……?
「でもそいつらの事、が可愛がってなきゃ意味ないだろ」
「彼、ああ見えて責任感強いよ。まあ頑固とも言うけど。拾ったからには世話はする」
「……」
 いや、ジェームズの情報を信用しないわけじゃないんだけど。
 でも責任感が強い、ねえ、あのが。あいつ連帯責任って制度をそれがどうしたって軽く足蹴にする様な奴だからな。
「だって、自分の分しか責任取らないから。逆に言うと、自分で決断して失敗した事はどこまで重かろうと責任は取る奴だよ」
「勝手な奴」
「まあ、確かに究極の自己完結者だけどね、は。でも、シリウス」
 ジェームズの顔は、久し振りに真剣な、けれどどこか寂しそうな表情だった。
「彼にだって、心はあるんだよ?」
「知ってるよ。マグルの機械みたいに決められた通りにしか動けない心だろ」
「……君がそう思ってるならそれでいいけどね」
「なんだよそれ?」
 そう言ったその時のおれは、本当に、どうしようもない愚か者だったんだ。