祈りにも似た姿
相変わらず妙な頭の構造をしているみたいで、積もった雪を見て呆っとしたまま動く気配はない。本当にあいつの考えている事、している事は意味不明だ。
「シリウス。何してるんだ?」
「ジェームズか、ちょっと例のチビ見つけただけ」
「? この寒いのに防寒具なしとは恐れ入るよ、まあ君が焼却処分したんだけどさ。ああ、でも流石東洋の神秘、全然寒そうな素振り見せない」
「神秘? そんな綺麗な言葉で片付くかよ、あの気色悪い頭の中にはきっと蛆が湧いて蝿が集ってるんだぜ」
「君にとってはグール以下の存在なんだね」
「グールの方が可愛いくらいだ」
とにかく、は胸糞悪い。
烏みたいな色をした髪をズルズルと伸ばして、触られるのが嫌だって女かよあいつは。ピーターよりもチビだし、貧弱な体してるのに馬鹿みたいに暴力的。訳のわからない事でしょっちゅうキレるのはおれたち以上に教授共がお手上げな状態だ。
ダンブルドアの孫っていうからどんな人間だと思ったら、性格がありえない方向に湾曲した最悪の人間。もうあれは人間の形した悪魔みたいなもんだ。
「秋の始めに大怪我してから嫌いに磨きがかかったみたいだね。まあでも、が2ダース以上の魔法使い相手に無傷で完全勝利ってのは現役闇祓いも真っ青だ。ぼくと君を倒した事も含めて素直に称賛すべきだね」
「誰が称賛するか、大体あいつ見た事もないナイフまで使ったんだぜ?」
「あれは凄まじかったなあ。あれ、日本の武器でニホントーとかカタナとか言うらしいよ。確か短いのはワキザシっていう名前が」
「相変わらず暇人だな、ジェームズ」
「研究熱心と言って貰いたいね……あ」
「……ん?」
あれは、スネイプだ。
典型的なスリザリン気質の癖にグリフィンドールに話しかけるなんて、あいつも馬鹿の一人だ。もっとも、この学校内では誰もをグリフィンドール生……いや、ホグワーツ生だとすら思ってないけど。
「相変わらずあの二人は仲がいいねえ」
「なんだ、嫉妬してるのか? 我が盟友よ」
「勿論だとも我が戦友、奴等にクソ爆弾をここから投げ付けたいくらい嫉妬しているさ」
「じゃあ投げるか、ここに何故かソレがあったりするし」
この距離だと、追い払い呪文を使えば何とかなるかな。
「スネイプ一人ならそれもアリなんだけどねえ……は当たらなくても3倍返しが基本だから。ぼくこれからクィディッチの練習とか試合が控えてるから怪我したくないんだ」
「……根性無し」
ジェームズにそう悪態を付きつつ、おれも取り出したクソ爆弾をしまった。
こういうのは理解しあえる共犯者がいるから楽しいんだ。一人でやってもつまらない。
「二人とも、窓に張り付いて何してるの、というか知らない? 薬草学の帰り彼、教授に掴まってさ。どこ探しても居ないんだ」
「「リーマス」」
そう言えばリーマスもの味方だったよな。
スネイプは気味悪い者同士だから理解できるんだけど、なんでリーマスまで好んでの肩を持つんだ? 入学した時はおれ以上に毛嫌いしてたのに。
「リーマスはに何の用?」
「……ぼくは、ってどういう意味? ジェームズ」
「今、外でスネイプが怒鳴ってるよ……って、もういないし」
「本当、なんでリーマスもあいつに肩入れするんだろうな。あいつリーマスに対して冷たいのに。それに今持ってたのってドラゴンの皮で出来た手袋だし」
「さすがにぼくでも親友がプレゼントした手袋を燃やす勇気はないな」
「おれだってねえよ」
ああクソ、スネイプが渡した物だったら躊躇なく燃やせるのに。
「でも本当に何でだ?」
「何が」
「だから、リーマスがと仲がいい事。あんな奴と一緒に居てなにが良いんだか」
おれがそう言うと、ジェームズの野郎は「ああ」とか言ってすぐに返答をした。
「リーマスが言うには、優しいんだって。は」
「はあ!? 優しい!? どこが!」
「仕方ないよ、本人がそう言ってるんだし……それに、ぼくから見ればは優しいって言うより、優しくして欲しいように見える」
……優しくして欲しい? あいつが?
「いや、無理だろ。不可能だ。人類未到の地に無装備で挑むようなものだ。大体ジェームズだってあいつの性格知ってるだろ」
「んー、それはどうかな? って謎めいてるし。それにね、なんか最近引っ掛かるんだよね、ここら辺に」
「謎めいてはいるけど優しくして欲しいってタマじゃないだろ。むしろ人類が滅びても平気で生きていきそうだぞ。あいつ」
「ああ、それはあるかもね……って、あ。何か拾ったみたいだよ」
「……なんだ、あれ?」
大きさと色からして、バスケットか?
何でバスケットを拾ったんだ。というか、あの中身は何なんだ?
「ここからじゃ何も見えないね、見に行く?」
「冗談。後でリーマスにでも聞くさ」
「教えてくれなかったら?」
「……透明マント貸してくれ」
「いいけど、悪戯仕掛けるならできるだけ面白くしろよ」
「了解」
「あとリーマスにバレないように、彼が本気で怒ると並に恐いから」
「……肝に命じる」
でもまあ、おれはそんなヘマはしないけどな。