祈りにも似た姿
何故なのだろうか……理由が全く思い当たらない。
は事情らしい何かを知っているようだったけれど、あえてハリーを放置しているようだった。というよりも、自身も困惑しているようにも見て取れた。
ある時、思い切ってハリーに尋ねてみるとこんな言葉が返ってきた。
「何でシリウスとは仲良くなれたの?」
……そういう事か。
なるほど、これはでもお手上げだと思わざるを得ない。
にとっても、おれにとっても、仲が悪かった時期の記憶は辛いものでしかない。傷つけたり、傷つけ合ったりが日常でそれが日々エスカレートしていく。
彼の体や心に酷い傷を負わせた過去の自分を、今でも戒めたくなる。
だって、あんな事をしたくはなかっただろう。
「……そっか。その事で最近妙にとシリウスに気を使ってたんだ」
リーマスが会話を繋げれるように言葉を紡いでくれた。
当時とあまり変化のない立ち位置のこいつがいる事で気が楽になったんだろう、戸惑いながら、だけどすぐに言葉を返してくる。
「うん、は気にするなって言ってたけど……」
そう言われて「はいそうですか」と素直に納得できないのはよくわかる。けれど、そう言うしかないだろう。他に、手なんて思いつかないんだ、彼も、そしておれも。
ハリーは不必要に詮索をしない。おれはともかく、酷く心の脆いは傷つくかもしれないと思っているから。
反面、情報不足で精神的に不安定になってしまう事もある。だからはハリーの必要としている事は大抵教えている。その彼が、今回ばかりは戸惑っていた。
彼自身、何故おれがここまで慕うようになったのか詳しく理解していないのも理由の一つだろう。記憶が断片化して不確かな物だから。
あの時、は……
「まあ、ね。あの頃のは……何て言うか、荒んでいてね。誰も寄せ付けようとしなかったし、自分から寄っていく事にも抵抗があったんだろう。そうだろ?」
リーマスの言葉で、ようやくおれはリビングの入り口でティーセットを持ったまま突っ立っているに気付いた。
考えが横に飛んでいた所為もあるだろうが、全然気付かなかった。
「まあな」
いとも簡単に、他人と距離を置いていた事を肯定してお茶をいれ始める。
隣で、ハリーが申し訳なさそうに彼を見上げていた。を傷つけたかもしれないと、心配そうに見上げている。
そんなハリーの様子を見て、はまだ小さな子供に接するように微笑した。
「ハリーが気に病む事でもない。それに……あの頃のおれたちを見てその疑問が浮かばない方がおかしいだろう」
少し、自分に言い聞かせるような口調。
その空気にハリーがまた申し訳なさそうにして、しばらくは考え込み意を決したように告げた。
「話そうか」
「……?」
「少し、話そうか。おれとブラックに何があったのかを」
「……いいの?」
困惑する姿に、大丈夫だと彼の瞳が笑った。
は、ハリーの想像以上に、彼自身が思っているよりもずっと脆いが、それでも強い。ただハリーも含め二人とも思考がネガティブな分、自身を過小評価する。
それを隠す為にわざと強い演技をして、また傷ついての悪循環だ。
「おれが、話したいんだ」
それでも今は、いい方向へと向かっていると思う。
は守れる存在を見つけて、やっと自分の価値を見出だせて。ハリーは守られる存在と出会えて、自分は一人じゃない事を知って。
「長い、どうしようもない話になる。それでも聞いてくれるか?」
ハリーが頷くと、も安心したように少しだけ肩の力を抜いてソファに深く腰を掛けた。
おれがリーマスと視線を合わせると、あいつも微かに笑って頷く。
「あれは2年生の……丁度ハリーが行った世界から少し後の、11月の終わりの頃だった」
の声が耳に届き始める。
その言葉を聞きながら、おれもあの冬の日を思い出し始めた。