曖昧トルマリン

graytourmaline

黒い青年と快活な少年

「意外だなあ、未来のってシリウスの好みの凄く美人」
「……」
「すみません、睨まないで下さい、やっぱりでした」
 そう言いながら、彼は笑った。
 多分、それは罪悪感だろうとは考えている。
 隣に立つ、まだ小さなジェームズ・ポッターにこれ以上にない暗いものがあった。自分の所為で死んでしまった彼に対して、とても暗いものが。
「最初はさ」
「……ん?」
「ハリーの事が心配で来たんだ。ほら、ハリーって貴方の事が好きみたいで、最初ずっとと付き合ってたし。なのに喧嘩して、うまく未来でやってけるのかなって」
 眼鏡越しに少年の瞳がを見上げ、まるで同い年の少年を見るような目で話を続けてきた。
「でもいらない心配だったみたい、ハリーがの事気にかけるのわかった気がする」
「おれは大した人間ではない、あの子が強くて優しいだけだ」
「……貴方だって優しい人だと思うけど。だって、本当は」
 互いに廊下の向こうの闇を眺めながら、それから一言も喋らなくなった。
 夕方だというのに夜明け前のように薄暗いそこは溺れてしまいそうで、言葉を探すようにして天を仰ぐと目眩がする。
がさ、ダンブルドアに会いに行かなかったのには理由があるんだと思うんだけど、どうせ忘れちゃうから教えてくれない?」
「なぜ、理由があると思うんだ?」
「だから言ってるじゃん、は優しいと思うって。まあ、極度に不器用な上、警戒心強くてあんな感じだから、迂闊に手が出せないタイプなんだけど。でも今の貴方が本当のなら、好きになれるよ。ちゃんと」
 子供っぽくない笑みを見せるジェームズに、は自分の方が子供ではないかと錯覚させられる。
 もしかして、本当にそうなのかもしれない。
 ジェームズは昔から大人びているのではなく、大人のような考え方を時々していた。深くは考えなかったから当時はよくわからないままだったけれど、今ならほんの少しだけわかる気がする。
「あとは、アレかな。ってさ、理不尽な癇癪起こさないんだよ。怒る時は絶対に理由がある。と言うより、彼の行動には必ず理由があるんだ、行動しないという行動をしているって理屈も含めてね。なら、会えなかった理由もあるんじゃない?」
 互いに視線を合わせないまま青年の方が少しだけ肩を反応させ、やがて溜め息に近いものをついた。
「……なぜ理由を知りたいんだ?」
「答えたら教えてくれる?」
「内容によっては」
 短く、そう答えたの瞳を見てジェームズは少しだけ真剣な表情をする。
「見てて痛いから。諦め切れないというか……ダンブルドアを拒絶してるのに、強烈に何かを求めてる気がした」
「……何を?」
「『愛』」
 たったその一言。
 心臓の血液が凍り、全身を循環していく感覚が指先に伝わってきた。以前の自分なら、きっとこの場にいる少年を叩き伏せてもその言葉を否定しただろう。
 けれど今なら、それを受け入れられる。
「別にそういうのに敏感なわけじゃないんだけど、なんとなくそう思ったんだ」
「そうか」
 コツ、と靴を床に鳴らし仕方がなさそうに微笑ったはクシャクシャの髪をした少年を撫でてその体温を掌に感じた。
「わかった……すべてを忘れる覚悟があるなら、おれがダンブルドアに会いに行かなかった理由を話そう」
「今更だよ。それを覚悟で聞いてるんだし」
 そう言って、ジェームズは少年っぽく笑った。