傲慢な午後
過去の世界に来て三日、と別れて二日経った。
あのすぐ後、談話室で一人悶々と悩んでいる所にシリウスたちがやってきてから意気投合して、今は一緒に行動している。
とはいってもシリウスやジェームズの一日の大半は授業で潰れるので、実際ハリーが自由な行動を取れるのは放課後以降だが。
そして三日目の夕方、相変わらず見掛けないリーマスとを探すわけでもなくふとシリウスが言葉を零した。
「本当にシリウスはの事が嫌いだねえ」
「そういうジェームズ、お前はどうなんだよ」
「ぼくは君と違って、付き合おうと思えばそれなりに付き合える自信はあるよ」
指を組んで顎を乗せる形を取ったジェームズはどこか暗い顔をしているハリーをチラと見て、そう言えばと今思い出したような口振りで質問を投げ掛ける。
「結局何が原因で彼と喧嘩したの?」
「……ちょっと、ダンブルドアの事で」
「ああ、ってダンブルドアと不仲だからね。家族なのに」
「何で、家族なのにあんな」
死ねばいい、そう彼は言った。
家族のいなかったハリーには、それは許せない事だったから、思わず殴ってしまった。それでも、後悔はしていない。
そういえば、あの時もはダンブルドアを酷く憎んでいるようだった。けれど、人殺しをさせていたのは彼の祖国で、ダンブルドアは彼に死ねばいいと言われる程の事はしていない。
「あ、でも随分前にぼくリーマスとの会話きいた事あるんだけど」
今まで気付かなかったが、シリウスの隣に座っていたピーターが終わらないレポートと教科書を見比べながら三人に話しかけた。
できる事ならば、ハリーはピーターの存在もこの場、この時代でどうにかしてやりたいと思った、けれど、記憶はすべて消されてしまうのだ。
ダンブルドアに言っても、きっと、歴史を変えてはならないと咎められそうで、それはハリーとしても避けたかった。
第一、変わった歴史が今よりよくなる保証はない。もしかしたら、バックビークが存在していなかったり、ハリーが守護霊を獲得できずにシリウスが死んでしまう未来だって、十分ありえた。
そんなものを抱えながら、できるだけ他と違うような接し方にならないよう気を付けながら、ハリーは耳を傾ける。
「とダンブルドアってホグワーツで会うまで一度も顔合わせた事なかったらしいよ」
「それは初耳だなあ、他に情報はないの?」
「うーん、ぼくもすぐ離れたから、あ。そうそう、ダンブルドアが一度も会いに来なかったからとか何とか」
首を傾げながらあやふやな記憶を語ったピーターに三人は顔を見合わせて、それぞれの姿勢で考え込んだ。
はそれ程心の狭い人間だったのかどうなのかも、今のハリーにはわからなくなっている。その間にシリウスの方は結論が出たのか、少々呆れたように口を開いた。
「会いに来てくれなかったからって……ただの逆恨みじゃねえか。会いに行かなかったにだって責任あるだろうが。自分の事棚に上げてよく言うよ」
「別に棚になど上げてはいないが?」
背後から聞こえた声にぎょっとして振り向くと、長い髪の間から漆黒の瞳を覗かせてピーターを睨んでいる。
「……何の用だよ、」
「校長がハリーを呼んでいる、マクゴナガル教授からそう言伝を頼まれただけだ」
凍て付いた視線を伏せて踵を返したを、ジェームズの声が呼び止める。
ピーターは怯え、シリウスが心底嫌そうな顔をしたがそれに構う様子もなく彼は薄いレンズの入った眼鏡をかけ直すようにして笑いながらいった。
「棚に上げていないってどういう事なのか興味あるんだけど、その辺よければ話してくれない? 一緒にお茶でも飲みながらさ」
「断る」
「即断するねえ」
困ったようにクセだらけの髪をかいたジェームズは不機嫌そうにを睨んでいる相棒に肩を竦め、ハリーに校長室に行こうかと話しかけた。
「……」
「ハリー?」
「、もし今の事が本当なら、ダンブルドアのところに行って謝れ。君はダンブルドアの気持ちを考えてない、ただのわがままな人間だ」
「否定はしない、けれど貴様の命令に従う気はない」
いともたやすく肯定され、肩越しに冷たく放たれた言葉。
一瞬、ハリー自身も何が起こったのか理解できなかった。
カッとなって手が出てしまったと感じたのにそれを頭で理解した時には視界の天地は逆転していて、肺が軋むような背中への衝撃。
「……!」
「! お前いい加減に」
「耳障りな声だ。手加減はした」
床を伝ってシリウスが倒される音を感じた。
視界に入ってきた細い足首を掴み、緑の双眸が涼しげなの顔を見上げる。
「家族を蔑ろにするなんて……絶対に許せない」
昏い光が満ちたような泥色の瞳で、微かにその少年が笑った気がした。
その笑いがあの壊れそうな時のの浮かべた笑いとよく似ていて、その表情のまま感情のない声が視線と共に降ってきた。
「ハリー、おれはお前に許されなければならないのか?」