在りし日の短い告白
もう一度、リーマスが言った。
「軽蔑するかい?」
「いいえ」
はっきりと、ハリーは答えた。
「いいえ。だって、リーマスはリーマスだから」
「……そう言ってくれたのは、ハリーで二人目だ」
リーマスは儚く笑ったその姿は、ハリーが言えるものではないのだけれど、あまりにも少年に似つかわしくない姿だった。
「でも、その言葉にきちんと反応出来たのは、やっぱりのおかげだ。以前のぼくなら更に反抗していたかもしれないね」
薄く目を閉じたリーマスは記憶の糸を辿るように何も言わずに唇だけを少し動かす。
ハリーは黙っていた。
「入学したばかりの時のぼくは、が嫌いだったんだ。何故こんなに腹が立つのか判らないくらい、大嫌いだった」
突然の告白に緑色の双眸が僅かに見開かれ、鳶色の視線が開き、伏せられる。
「シリウスが、を嫌いなように?」
「ちょっと違う、と思う。あいつはを嫌いになった過程があるけど、以前のぼくは本能的に嫌いだったんだ……いや、側にいて欲しくないと感じた。怖かったんだ」
「……」
それはきっと、どこか、リーマスとが似ているからだと、ハリーは思った。
確証はない。ただ彼もそう感じただけだから、声に出すほどの、言葉に出すほどのものでもないけれど、深くも浅くもない、どこか別の部分で二人は似通っている。
それは形にするには曖昧過ぎるもので、捉えどころのない、もう一人の自分の影を間近で見るような、奇妙な感覚。
「出会ったのは組分けが済んだすぐ後。隣の席だったんだ。ぼくは彼の国をよく知らないから、名前からだと性別が判らないし、顔を見ようにも髪が長かったから。ずっと下を向いていて、気分が悪いのかって訊いたら睨まれた……その時かな、駄目だって思ったんだ」
「駄目?」
「の瞳を見て嫌だと感じた。一緒に居ると何も彼も見透かされて、嘲笑されて、最後には食い殺されるような感覚に襲われたよ。人狼であるはずのぼくが」
最後の部分を感情のない声で言い放ち、リーマスが続ける。
「だから同室だって事を知った時は絶望した、シリウスみたいに口には出さなかったけど。それでそのうち疑心暗鬼になった。は校長の孫だし、ひょっとしてぼくが人狼である事を知っているんじゃないかって」
「知っていたの?」
「まさか、ぼくが自意識過剰だっただけだよ。それにはダンブルドアと不仲だ」
ベッドに座り直し、新しいチョコレートの銀色の紙を剥がす少年に、目の前の少年が少し驚いたように唇を動かす。
リーマスが軽く差し出すと、ハリーは丁重に辞退した。今だって口の中は甘かった。
「まあ、この辺が前回までのあらすじ、ってヤツかな。それで、ぼくの正体がバレたのは入学してすぐ後、2回目の満月の夜だった」
「そんなにすぐ?」
苦く笑ったリーマスは腕時計を眺めて時間を確認しながら、更に話を続ける。
「そんなにすぐ、さ。確か秋の中頃、丁度今の季節。10月の、まだ夜が明けきっていない肌寒い朝だった」