デルタ
「……」
「……え!?」
「……厄介なのに見つかった」
「ス、スネイプッ!?」
「おはよう、ハリー。サンドイッチはベーグルとクロワッサンが……おいスネイプ、ハリーが来たからといって逃げようとするな」
はハリーに暖かいスープを差し出しながら、暖炉の方へと帰って行こうとするスネイプを睨み付ける。
たったそれだけの行動なのに、スネイプは顔を含む全身の筋肉を強張らせ身動きが取れなくなる。シリウスやリーマスもには頭が上がらないようだったけれど、スネイプはそれ以上のようにも思えた。
「に、逃げる訳ではない」
「腰が引けているのはおれの見間違いか?」
「妙な威圧感を出しながら仁王立ちをするな!」
一体二人の過去に何があったのか判らないが、ハリーは深く探ろうとせず差し出されたスープを静かに飲み始めた。
「私は脱狼薬を届に来ただけだ!」
「お前の事だから、どうせロクな食生活を送っていないんだろう。朝食でも食べていけ」
「ポッターと共に食べる食事など食べた気になれん!」
「学校の大広間で常に一緒に食べているのにか?」
既にスープを注ぎ、二人分の食事を用意し始めたには流石のハリーも内心勘弁して欲しいと強く思った。何が悲しくて長期休暇にも関わらずスネイプを食事をしなければならないのかと抗議したかったが、にとってみればスネイプと居候二人には何の違いもないらしい。
更にこの家にはフルーパウダーが常備していなければ、姿現しも不可能だという。そんな完全一方通行宣言を今更告げられたスネイプが声を上げて抗議するが、そんな事で怯むようなではない。
「大体その二つが不可能で今までどうやって暮らしてきたんだ!」
「ホグワーツの結界を破れる程度の力があれば、姿現しも姿晦ましも出来る。ハリー、さっき聞きそびれたんだが、サンドイッチはベーグルとクロワッサンがあるんだが、両方食べるか?」
「あ、うん。一個ずつ食べる」
「相変わらず食が細いな。スネイプはクロワッサン一籠くらい食べられるだろう?」
「無茶を言うな! 勝手に決めるな! 用意もするな! 大体お前は昔からそうやって人の話も聞かずに自分だけで何でも勝手に納得して」
「ハリー。スープのお代わりは居るか?」
「人の話を聞かんか!」
「聞いている。返事をしなかっただけだ」
「なお悪いわ馬鹿者が!」
二人のやり取りと見て、ハリーはどこかにビデオかハンディカムがないか探してみたが、残念ながらなにもないので仕方なく脳内の記憶領域に今のスネイプを刷り込む。そのスネイプはというと、どうにかしてに今の状況がおかしい事に気付いて欲しいのか必死に説教じみた説得を試みていた。
そしてそんなはというと、三人分の朝食を用意してまずハリーが手を付けないかとじっと観察する。
スネイプが説教を止めるか、ハリーがその記録に飽きるか、もしくは朝食が冷める事を危惧したが何らかのアクションを起こすか、奇妙な三つ巴だか三竦みの中で平和な朝の時間はゆるりゆるりと過ぎていく。
しかし結局、その奇妙とも言える空気を打ち破ったのは朝食と脱狼薬を求めてダイニングに顔を出した残りの同居人たちで、しかもその反応を懐かしがったとリーマスがスネイプにこの家に住むよう強制するのはあと数分後の話。