髪結の亭主
ある日、ハリーは悪気なく二人に訊いてみた。
「二人って、の『ヒモ』なの?」
「「……ハリー?」」
友人の息子の恐るべき発言に、狼人間と脱獄犯はなんとも言いがたい表情を作った。
遠くで一人、預かった猫のブラッシングをしていたもしばし呆然とした後に、何も聞かなかったかのように紙上にペンを走らせる。
「ハ、ハリー、別におれたちは……」
「うん。ヒモってわけでは、似てるかもしれないけど」
別に貢がせているわけでもないのだが、如何せん無職の二人組。確かにのヒモと感じられるかもしれない。
「ハリー、ヒモなんて言葉どこで覚えてきたんだ」
別にどうでもいいけれど、と付け加え羊皮紙の束をハリーに差し出す。
「印付けた所はもう一度やり直しだ」
「えー」
「間違ったまま覚えると後が大変だぞ、そんなに数はない。午前中に蜂蜜のパウンドケーキを焼いたから、終わったらお茶にしよう」
「……がんばる」
再び羊皮紙と教科書を見比べて間違い探しを始めたハリーの頭を撫でると、今度はその手で固まっていた二人の大人の頭を軽く殴る。
「……どうでもいいって」
「どうでもいい事じゃないだろう?」
「いいだろう。今まで一杯一杯だったのだから、少しくらい休んでも」
言い切ると、二人は顔を見合わせて次の言葉を探した。
その間に小さくされバックビークがつい、と三人の前に現れ、シリウスのローブを果敢に引っ張り始める。遊び相手を探しているらしく、シリウスが犬の姿になると喜んで裏庭まで連行していってしまった。
「シリウス、完全に人間外の扱い受けてるよね」
「別に貴様も一緒に走ってきてもいいんだぞ、ルーピン」
「遠慮しておくよ」
喜びのあまりバックビークどつき倒され、じゃれられ、つつかれるシリウスを見ながらリーマスは笑って答えた。
ハリーはというと訂正の終わった紙をに押し付けて、痛々しい名付け親の声がした庭のほうに慌てて駆けて行く。
リビングに残された二人はなんともいえない笑みを浮かべ、一息つくとガラス越しに見える一人と二匹の追いかけっこをしばらく無言で眺めていた。
「休んでも、いいのかな」
「過労死したいならそうしろ。おれは付き合わんし、ついでにお前の分のパウンドケーキも捨てておいてやる」
「……ごめん、ちゃんと休むよ。君の作ったパウンドケーキも食べたい」
庭の芝生に寝そべった一同を見て、二人は微笑のようなものを浮かべる。
窓辺から離れたにリーマスはどこへ行くのかと尋ねた。
「今日は天気がいいから、外で食べようかと思って」
「それいいね。ついでだからシリウスに紅茶でも淹れさせよう」
「なら、先に庭へ行って必要なものを用意しておけ。ケーキを持っていく」
キッチンの方へと消えていくの言葉を受け取って、リーマスは相変わらず芝生に寝転がって空を見上げている二人と一匹の元へと歩いて行く。
その背中を見て、明日はチョコレートと紅茶のケーキを作ろうと、は密かに決めた。