コンビニおにぎり
「今はこんな田舎にもコンビニなんて便利なものがあるんだな」
「普通、それはぼくの台詞だと思うんだが……」
コンビニのロゴマークがプリントされている袋を台の上に置き、かったるそうに首の関節を鳴らすにスネイプが散らばった羊皮紙を眺めながらそう言った。
「仕方ないだろう、普段まったく使わないんだから」
麦茶を用意してビニール袋の中のものを取り出すと、杖を一振りして台の上を片付ける。
スネイプは複雑そうな顔つきでを睨んでいたが、何等困った様子もなく座布団に座るはしばらくしてからようやく納得した顔で杖を畳の上に置いた。
「ここは魔法を使っても問題ないぞ、バレないから」
「……本当にいいのか?」
「元々この土地は特別だからな。余程高等な魔術でも使わない限り魔法省に絶対にバレることはない、バレたとしても日本は規制が緩い。街中で魔法を使っても咎められない」
その代わり面倒ごとが起きた場合は自己責任だが、そう言ってカラカラと硝子のコップの中の氷を鳴らすは悪戯っぽく笑っておにぎりに手を伸ばす。
「ああ、ポッターたちには言うなよ。そんなこと知ったらこの家も跡形なく吹き飛びそうだ」
「言えといわれても絶対に言わないから安心しておけ」
スネイプも見よう見まねでコンビニで買ったおにぎりのフィルムを剥がすが、どこをどうやったのか海苔と御飯が分裂してしまっていてそれを面白そうに眺めているだけのにどうにかして欲しそうに視線を送った。
見てみるとのおにぎりは文句の言い様のない黒い正三角形をしていて、コンビニ慣れしていないと言った割にはきちんと作れている。
大体数字通りにフィルムを剥がしていけば普通に食べれるはずなのに、スネイプは一体どこで何を間違えたのだろうか。
「……やる」
「は?」
悪戦苦闘しているスネイプを見て耐え兼ねたのか、は綺麗に整ったおにぎりをスネイプに差し出してお茶を一口含んだ。
「意外に不器用なお前に見兼ねた」
「……そこまでハッキリ言われるのも結構傷つくぞ」
そう言いながらも手の中にはしっかりと完成されたおにぎりがおさまっている辺り、スネイプも素直ではない。
はスネイプの失敗した方のオニギリの海苔を丁寧にフィルムから取り出して、先程と同じような形で完成させたのだが、
「あー、何か二人だけでいいもの食べてるし」
「オニギリだっけ? 酷いよ、ぼくたちに内緒にしてさぁ、スネイプと二人だけで」
「スネイプ、これ貰ってくぞ」
鹿とか犬とか狼とかがバタバタと廊下を走ってきて夜食の現場を取り押さえたのだから、急に部屋の中は騒がしくなってしまった。
シリウスはスネイプの、リーマスはのおにぎりをかっさらいジェームズは一人袋の中を漁って新たな獲物を捕獲する。スネイプはそんな三人の行動に何か言おうとしたがの瞳に何か引っ掛かるのを感じたので、放っておいてみた。
そして数秒後、何の説明も受けずにオニギリを横取りした二人組は、口を押さえて真っ青になっていたりした。
「「……?」」
「なんだ?」
「「毒でも仕込んだ(のか)?」」
「まさか」
しかしこの二人の青ざめようはただ事ではない。
一体何があったのか……ジェームズにもスネイプにもそれはわからない。
「ただ当たった具が悪かったんだろうな」
イギリスにはないからな、と言って笑っているは二人にお茶を用意してやり、相変わらず不思議そうな顔つきでその二人を眺めている他の二人に種明かしでもするかのようにひたすら言葉を待っていた。
「……っ! なにこれ?! このショッパイの!!」
「なんでオニギリが甘辛いんだよっ?!」
「それが普通なんだ」
微妙にカルチャーショックを受けているリーマスとシリウスを面白がるようには口を開いてお茶を一口啜った。
そしてその顔は、明らかに二人の不幸を喜んでいる。
「『うめ』と『しぐれ』だな。人のものを無断でとるからそういう事になるんだ」
「へー、俗に言うゲテモノ?」
「いや、ゲテモノではない。寧ろメジャーだが、ポッターがそういった物を食べたいのなら特別に蝗で作ってやろうか」
「イナゴってあのバッタだよね? ぜーったい嫌だよ」
そんなことを言いながら無難にシャケなんかを食べているジェームズは快活に笑いながら「ご愁傷様ー」と友人の不幸を心から喜んでいる。
スネイプはというと非常に複雑な表情をしているが内心はこの二人を罵りたくて仕方がないらしい。もっとも、魔王の復讐を恐れ口には一切出してはいないが。
「」
「なんだ?」
「あの二人のこと、狙っていただろう」
「まさかここまで引っ掛かるとは思わなかったがな。おにぎりはサンドイッチと違って具か見えないから」
夜空に向かって叫ぶ二人をハリセンでぶっ叩きながらニヤリと笑ったに、残された二人の学友は今度からは具が一体何なのかをきちんと聞いてから買い求めるようにしようと心の中で誓ったりしたのだった。