ハーモニカ
もう一度吹いてみると、また変な音が鳴る。
彼が玩具箱から見つけたハーモニカ。玩具箱の中にあったけれど、どうみても子供用のものではなく少し値の張る大人用のものであった。
実は一度も吹けた事がないし吹いた記憶もない。何故玩具箱の中にあるのか謎の物体だったが、他にも使用用途が謎の物体は沢山あったのでその辺りは気に留めていない。
「、なにやってるんだ?」
「ブラックか」
ひたすら扇子で自身を扇いでいたシリウスは、の持っていたハーモニカを見つめ嬉しそうに隣に座ってきた。
「、それマグルのハーモニカ?」
「ああ」
「吹いてみせて!」
「吹けん」
スッパリとが言うと、シリウスが「えー」と不満そうに言った。
彼が「吹けるのに吹かない」と勘違いをしているらしいことは、にもすぐにわかった。
「一曲だけ!」
「吹けないと言っているんだ。吹きたくない、じゃなくて吹けないんだ」
「……え? 吹けないの?」
驚いたようにを見るシリウスに「だからさっきからそう言っているだろう」と言う。
「そっか。じゃあ吹かせて」
「ああ、それならいい」
は持っていたハーモニカを持って、シリウスは子供みたいにそれを吹き始めた。すぐに音階を掴んで演奏し始めた時にはさすがにも驚いた。
その音につられてか、いつの間にか部屋には座敷童たちも見え隠れしている。これでしばらくは、シリウスはまた座敷童たちに構われるだろうなとは思った。
「な、! おれもいい線いってるだろ?」
「訊かれても、おれは全く吹けんからコメントのしようがない」
シリウスからハーモニカを渡されながらは言った。
今度はそのハーモニカを座敷童たちが争って取り合う。押し潰されそうになったは、手近にいた座敷童にハーモニカを渡して難を逃れ、そこを中心に群れ集う子供の塊を見て、微笑みを浮かべた。
「って何でも出来る人間のような気がするんだけど」
「まさか」
はシリウスの意見を笑い飛ばした。
「……いい線なのかは判らないが、少なくとも演奏中のお前は格好良かった」
「え?」
「迷惑じゃなければ貰って欲しい、弾けないおれが何時までも持っているのは可哀想だ」
珍しく褒められ、顔面から火を吹きそうなくらい赤くなりながらシリウスはようやく去っていくの背中を見て、ズルズルと畳の上に寝そべった。
「練習、するかな」
ヒヤリとした風を感じながら、シリウスは緩くなった拳をもう一度握る。
「格好いいって、言ってくれたしなあ」
シリウスの言葉は、に届くことはなかった。