パチンコ
床一面に転がっているや銀色の玉にスネイプは呆れがちにを見た。
「ぶちまけたから拾っている」
手の中一杯に銀の玉を握っているは、小さな巾着にそれらを転がしてまだ床に広がっている同じ玉を拾いだした。
床板に沿ってコロコロカラカラと転がるその玉を一つずつ摘んでいくをスネイプは眺めていたが、すぐに自分も屈んでその玉を拾いはじめる。
思ったよりもその玉は手の中でずっしりとしていて、重かった。
「、こんな物いったい何に使うんだ」
「……パチンコ」
「は?」
コロン、とスネイプの手から銀の玉が一つ転がり落ちた。
は巾着の中を探ってY字型に削られた木に強そうなゴムが張ってあるパチンコを取り出して、手の開いたスネイプに手渡してやる。
「随分古そうな物だな」
「ああ、古い」
スネイプはすぐにそれをに返して、残り少なくなった玉をまた拾いはじめる。
「それで何をするつもりなんだ?」
「なにって」
「まさか悪戯をする気ではないだろう?」
その言葉に、は悪戯っぽい笑みを漏らした。
「昔使っていたはずなんだが……何に使っていたんだろうな。山で木の実でも打ち落としていたのかもしれない」
「あいつらに見つかったらまた面倒が起こるぞ?」
クスリ、と笑うにスネイプは「笑い事じゃないぞ」とパチンコ玉を巾着の中に入れる。
「まあ、いざとなったらこれで黙らせればいい」
パチンコ玉の入ったずっしりと重い巾着を持ち上げては笑う。間違いなく、これで黙らせたら頭蓋骨が陥没する。
「本気か?」
「冗談だ。さすがに殺人犯にはなりたくないからな」
すべてのパチンコ玉を巾着にしまうと、はそれを持って歩きだした。スネイプも、特に行くあてもないのでついて行ってみる。
他愛のない話をしながら(主に夏休みのレポートに関してだったが)廊下を歩んでいると、何度目かの角で、シリウスに出くわした。
こんな素敵な状況での出会いは、きっと神の思し召しに違いない。
スネイプは信じてもいない神を呪った。
例に漏れず、シリウスは愛情表現としてに抱き付こうとする。
「! 会いたかっ……ぐはぁっ!」
「……」
しかし、手持ちの武器ではそれを撃退。
ぎっしりとパチンコ玉の入った巾着は、遠心力を大いにかけられシリウスの顎にクリティカル・ヒットしたようだ。
ついさっき「冗談だ」とか言って笑っていた気がするのは、果たして自分の見間違い聞き違いだっただろうか、スネイプはそう自問した。
「……」
「なんだ?」
何くわぬ顔で、というより元より始めから何もなかったかのように振り向いたにスネイプは次の言葉を探した。
「……なんでもない」
「そうか」
スネイプは自分の記憶の一部を色々抹消した。それが今の時分に出来る最善の方法だと思ったのだろう。
「そういえば、は占い学を取っていたんだな」
「ああ、あまり性には合っていないが、仕方ない。取ってしまったものは」
などと、先程の会話の続きをしながら、二人は廊下の隅でイッている黒髪の少年をそこら辺に生えている雑草のように無視をした。
その後、家の中を遊び回っていた座敷童たちにシリウスは無事発見されたが、彼等が救助を呼ぶことはなかった。