はさみ
「どうした」
「って髪切れるのか?」
「ああ、よく座敷童の髪を切っているからな」
シリウスは内心かなり焦っていた。
と言うのも、原因は上記の会話。
ふと視線を逸らしてみると、そこには癒しの空間、元気に遊んでいる座敷童の姿がちょこちょことある。が、問題点が一つ発見された。
彼らの髪型が皆パッツンなのである。いや、一部違うものも見受けられるが、だいたいそれが全体の8割を占めている。
こんなもので不安にならぬ男はいない。
「……」
「ブラック、まさかお前……その年であの髪型にして欲しいのか?」
「普通でお願い致しますっ!」
シリウスの心からの注文をはそうだろうなと言いながら引き受けた。
少し鋭いが、どこにでもありそうなハサミを取り出したは少し湿らせたシリウスの髪を丁寧に切っていく。
一方、庭の隅の方でその様子を眺めているのはジェームズ、リーマス、スネイプの三人。ちょっと奇妙な組み合わせではある。が、なぜか文句の一つも無く事の行く末を見守っている。
見守っているのには、様々な原因があった。例えば、今の目の前の光景もその一つである。
「……なんであそこの子、刀なんて持ってるのかな?」
「あっちの子は包丁……で、向こうの子はガスバーナー。あの子たちはどこかへリンチしに行くのだろうか?」
『……』
「二人とも、見なかった事にしない?」
『勿論』
は彼等が手出しをすれば本気でヤル気満々のようだった。
しかしシリウスはそんなことを知る由もなく、ひたすらに任せて髪を切られていく……もう既に、ガムテープははがれたようで黒い髪ばかりがぱらぱらと落ちてくる。
しかしこの暑さの中、庭でやるのはさくがにシリウスにこたえたらしく、程なくしてシリウスは夢の世界へと現実逃避を図り、見事成功した。
シャンシャンと鳴るハサミの音が心地いい、の細い手が自分の頭に置かれたりするもの気持ちいい、そして胸踊らされるバリカンの音……バリカン?
まさかが事細かにサービスるはずなんてないと確信していたシリウスは、眠い目を開いて、鏡に写った自分をみて驚愕した。
そこにいたのは、以前の自分とはまったく似ても似つかない酷い姿。
「どうだ、自信作のモヒカンアフロ」
色々間違っている! シリウスは心の底からそうツッコんだ。いや、というかこれはさすがに聞いていない。ここまでくるともうパッツンですらまともな髪型に見えてくる!
シリウスはせめてスキンヘッドの方がよかったと、ひたすら泣いていた。
「どうした、ブラック」
「……酷い、いくらなんでも酷い」
「似合っていると思うんだが」
シリウスはのセンスを心の底から疑った。
「そこまで嫌がるとは思わなかったな、だったら望み通り頭を丸めてやろう」
「それっておれの望みじゃなくての望みだよな!?」
.
.
.
「ハッ!」
「……ようやく起きたか、ブラック」
「?! いや、それよか鏡! 鏡がどこだ!?」
「はい」
接続語が間違っているシリウスに落ち着いた様子で手鏡を渡すに、シリウスは一抹の不安を抱えながらそーっと鏡を覗き見て、深く深く安堵の息を吐いた。
「よかった……夢だ、モヒカンアフロは夢なんだ……っ!」
「途中で熱中症にかかりそうになったから慌てて終わらせたぞ」
モヒカンアフロという珍妙な髪型にされる夢でも見たのだろうか、そんな大当たりの事を予想しつつ、は寝汗をかいているシリウスに冷たいお茶を差し出すのだった。