携帯電話
「なんだ」
「あれ、なんだろう」
「……なんだろうな」
相手は日本語かどうなのかも判らないような言語を連ねる、同い年くらいの少女たち。
夏なので露出の高い服を着て、化粧と呼べるかどうか怪しい化粧をしている、そんな彼女達にナンパされた。ジェームズとシリウスが。
同時通訳なんて毛頭やる気のないと、その隣に非難しているリーマスにすっかりいい気分の鹿と犬が女性を引き連れ絡んでくる。
「あれ? 、どうしたの?」
「そうそう、リーマスお前もそんな顔してないでさ」
別に酒に酔っているわけでもないが、なんか絡んでくる二人組に二人はいい加減愛想を尽かし始めていた。
「ポッターの奴、エバンズがいるのにな」
「そうだね。シリウスもに付き纏ってるくせに他の子に手出すって信じられない」
「いや、そこは別に」
「ぼくは一筋だから安心してね」
「空高く飛ばされたいか? 別に花火大会は余所でもやっているんだぞ?」
黄色い声を上げる女性を見て、二人は溜め息混じりに言語も通じないのに異文化コミュニケーションをしている二人組を気怠そうに眺めた。
と、何を思ったのかはポケットから『何か』を取り出してジェームズに向ける。
「それなに?」
「カメラ付携帯電話」
「へえ、マグルも色々考えるねえ。電話にカメラを付けるなんて」
の手にも収まる小さな電話にリーマスは興味あるのかないのか首を傾げる。ストラップ等が一切付いていないのは、所以であろう。
リーマスは不慣れな様子で携帯をいじるを横目で見て、阿呆どもを確認する。
そして静かに言い放った。
「この国ってさ、確か写真の真ん中に映ったら死ぬって迷信あるんだよね」
「休暇中にこの国で死ぬのは面倒だな、葬儀とかで色々モメるだろうし」
そう言いつつ二人の画像を納めるの瞳は、微妙に据わっていた。
涼しげな顔をして不快度指数87%は越えているだろう。
数枚写真を撮ると満足したのかかなりヤバイ笑みを浮かべ、は携帯をたたむ。心を読んだ訳ではないが、後々これがVSジェームズの熾烈な戦いの勝敗を分けるであろう事はリーマスは目に見えていた。
これをリリーの前に突き出すと一言言えばは無敵なのである。
尤も彼は最初から無敵っぽいが。
「。それ貸して?」
「は?」
「いいから、いいから」
見よう見まねでカメラをに合わせ、シャッターを切ろうとしたリーマスに容赦のない一撃(下駄)が左足小指に炸裂した。
「おれの写真を撮るな、おれを写真に写すな」
「っ! ……ちょっ、イっ」
「手加減はした」
「……本っ当には写真嫌いだよね」
涙をこらえながらを見上げたリーマスはブチブチと呟いた。
「仕方ないだろう、写真は生理的に嫌なんだ」
あまり仕方なく言っている様子ではないが、リーマスはの手を握った。
「……?」
「足痛い」
「自業自得だ」
そう言いつつも気遣うように手を引き始めるに「素直じゃないなぁ」と惚気半分に言うリーマスは、一度だけ後ろを振り返ってこちらに走ってくる友人たちを確認する。
もとっくに気付いているのか、その声を無視して歩き始めた。
「なんかさ」
「なんだ?」
「こうやってると、恋人みたいだよね」
「……そうか、あそこの川に突き落として欲しいのか」
冗談に聞こえない声でが言う。
リーマスはというと都合よく聞こえない振りをして、走ってやってきたシリウスに見せつけるようにと腕を組む。
「君が他の子にデレデレしてるから悪いんだろ?」
「だからってなんでお前がと腕組んで歩くんだよ!」
「ぼくは君と違って一筋なの」
そんな様子を眺めながら、ジェームズは愛しのリリーよりプレゼントされたカメラ付き携帯を三人に向けて、シャッターを切っていくのだった。
余談だが、後日この画像がに見つかり、ジェームズとリリーの愛の携帯はリリーの承諾を得て分解された。