ビデオショップ
「街の方、ポイントカードの更新に」
そんな会話が、本日彼等の行くべき場所を決定した。
涼しい店内で、この四人のグループはやたらと目立っていた。
に、ジェームズに、シリウスに、リーマス。
白人3名、日本人1名で美形集団とこれば、そうなるのも仕方ない。
ちなみに残りの一人はというと、魔法薬学の宿題に追われていた。レポートに懲り過ぎているためお留守番中。
スネイプの事は心配していない、寧ろ後ろの三人を家に残すよりはよっぽど安心だ、とは思っている。
「ねえ、。好きなマグルのDVD選んでいいって本当?」
「一本だけだぞ、三人で」
「わかってるって」
「ねえ、のお勧めとかある?」
「ずっとイギリスの、しかも魔法界にいたおれに訊くのか。店員に訊け阿呆」
「ちゃんと会話出来るかなあ? ぼく日本語なんて出来ないよ?」
「おれを見るな、通訳などせんぞ」
はしゃぐ三人組に、はつまらなそうに別のコーナーへと足を運んでいく。
「あと騒ぎは起こすなよ、って……もういない」
言っても無駄な事を言い忘れ、振り返ったがもう既にそこに悪戯三人組の姿はない。仕方無くは時間を潰すために買う気もないCDの新譜を眺めては、つまらなそうに溜め息を付く。
大体こんなものに全く興味はないだ。カードの更新だって祖母の代わりに来たのだし……まあ(心底嫌なのだが)普通の格好をしていても女性に見えるので、店員に咎められることはないだろう。咎められたらそれはそれで「なるようにしちゃいなさい」というのが祖母の言葉だった。
『ねえねえ、彼女。一人でどうしたの?』
掛けられたその声には危うく売り物のCDを握り潰してしまいそうになった。
一応祖国の言葉を喋る赤の他人の声が、少し上の方からする。
10代半ばから後半に見える男三人が声を掛けてきたが、は何の反応も返さずシカトを決め込む。往々にして、初見でを女扱いする野郎はどれもこれも碌でもない男ばかりだったということもある。
『この歌手好きなんだ、最近よく聞くようになったよね』
『近くに住んでるの? おれ達学校帰りなんだけど、時間あるなら一緒に遊ばない?』
『その前に飯だろ。あ、よかったら君も一緒に食事しようよ、奢るからさ』
幾ら田舎だからってこんな場所で女漁るなよとは返答出来ず、黙々とCDを眺め続けるに、男は構わずに馴々しく腕を回して肩を叩いてきた。
脳内でのみ男三人を捻り殺し、震える拳を沈めながらCDを元の場所に戻す。
そこまでして、ようやくは顔を上げた。
当たり前だが、まず三人全員が同性。茶髪に、ピアスに、似たようなだらしない服装。顔立ちはまあまあだが、学校一美形と誰もが認めるシリウスの求愛を拳で拒否しているにとっては別に格好いいとか、思わなかった。
『触るな』
『……え?』
『おれに触るなと言っているのが聞こえんのか。わざわざ貴様等が聞き取れるように日本語で言ってやっているというのに、それすら理解出来ないとはな』
不機嫌を露骨に顔に出したは、顔を赤くする三人組に対し緩く構えを取る。
袖に隠した杖をいつでも取り出せるようにして、相手の出方を探ろうとしたと同時に知っている三人組の声が背後からした。
「見つけた……って、コイツ等何してんだよ?」
「あー、シリウス。あれだよ、『カツアゲ』だっけ『ナンパ』だっけ? そういうの。に因縁付けてアンナコトやソンナコトしようとしてる奴等」
「なんだって? こんな見るからにアホな連中が?」
「を選ぶ辺り、目は腐ってなさそうだけど脳が腐ってるみたいだね」
ジェームズの言葉には何事か突っ込もうとしたが、珍しくシリウスとリーマスがブチキレているようなので下手に口出しするのを止めて、周囲のものが破損しないか気を配らせる。
『なんだよ。こいつら』
『英語? おれ全然わかんね』
『つーか、大した事なさそうだけど』
「、こいつらに何もされなかったか?」
「というかさ、ぼく等こいつ等に馬鹿にされているような気がするんだけど」
「あ、それぼくも思った。、こっちにおいでよ、馬鹿はうつるんだよ?」
「全員で喋るな。こんな奴等相手に……」
する必要なんてない、と言おうとしたの口が止まった。三人の中の一人が、よりにもよってシリウスに中指を立てて威嚇している。
「ブラック、好きにしろ。おれが許可してやる」
言いかけていた言葉を反転させ、後ろ手に監視カメラに細工をする。ジェームズが少し驚いた表情をしていたがなんでもないように振舞う。
「本当に好きにさせるつもりなんだ?」
「殺しはしないだろう。じゃあ、おれはカードの更新行ってくるからそれまでに済ませておけと伝えろ。一応ブレーキ役を頼んでいく」
はそう言うと振り替える事もせずにここから死角になっているレジの方へと歩いて行く。
ジェームズはというと、に命じられた役を適当にこなすため、二人を眺めながら大きな欠伸をした。
「が半殺しまでは揉み消してくれるってさ」
「おれたちがの手なんて煩わせるはずないだろ、ジェームズ」
「そうそう、ぼくらを何だと思ってるの?」
背中でそんな言葉を聞きながら、は首の関節を鳴らして会計を済ませていくのだった。
「こういう時は、あいつら便利かも知れないな」
そんな事をボソッと呟きながら。
余談だが、店を出た後「消毒」と称して抱き付いてきた狼と犬を、は拳で静めた。