ガードレール
逢魔が時、二人は家路についた。
「いや、別に……お前には散々世話になっているし」
買い物袋を片手に、スネイプは首を横に振る。
「あの三人、お祖母様を困らせてないといいんだが」
まだ熱い熱風が微かに二人を吹き付けた。
「どうだろうな」
スネイプは再び首を横に振る。
「暑くないか?」
は長い髪を上に束ねて、草履でアスファルトを踏んだ。
「暑くないといえば嘘になる……」
スネイプは中途半端に長い髪を振る。
「今度切ってやろうか」
ちょうど、車が来たので二人はガードレールに寄った。
「何だって?」
音が飛んでしまって、もう一度聞き返す。
「髪を切ってやろうか、と言った」
スネイプは複雑そうな表情を浮かべた。
「ポッターたちがいない時にやってくれ」
は笑った。
「でも、こっちに合わせて切ると、イギリスは寒くなるのが早いからな。寒いかもしれない」
スネイプは不機嫌になったようだった。
「こちらはどうなんだ?」
そう聞かれ、は首を傾げる。
「残暑がある、しばらくは暑いが、秋が来ると急に冷える」
再び、熱風が微かに髪を動かした。
「大変だな」
はまた笑った。
「そうでもない。一気に紅葉するんだ、山が染まるくらい」
ガードレールの向こうの、
「そういったものが好きなのか?」
崖の下の、
「全ての山が染まるんだ。青空は高くなって、秋の花が一斉に咲き出す」
沢を、は見た。
「……ぼくにはよく分からない」
スネイプの言葉には疑問でなく首を傾げた。
「無理に分かる必要はない」
視線はその沢から外れない。
「そうか」
ガードレールを見つめ、スネイプはすぐに視線を戻した。
「……」
彼は何も話さなかった。
「、どうした?」
スネイプの言葉に、は十分に間を置いてから
「なあ、スネイプ」
流れを止めるように立ち止まった。
「なんだ?」
彼の視線はまた、ガードレール。
「あそこに突っ込んだら、どうなると思う」
彼の視線はその下の沢。
「下は崖だぞ? 死ぬに決まっている」
は苦笑した。
「死ぬのか」
買い物袋のないほうの手で指折り数えてみる。
「……」
はまた歩き始めた。
「そうか、死ぬのか」
スネイプはそれに黙々と付いて行った。
「何を考えている?」
一言だけ、そう言った。
「血は赤いな」
は答えなかった。
「だから、どうした」
日は沈んで、辺りは暗くなった。
「秋は綺麗だ」
スネイプは少し肌寒くなった。
「春だってそうだろう」
すぐスネイプは答えた。
「春は眠たい」
黄金色の闇の中に、白いガードレールが不気味に浮かび上がってきた。
「、会話する気はあるのか?」
目の前に、目の前の随分遠くにの家の明かりが見えた。
「夏は鮮やかで、秋は綺麗。冬は静かだ」
スネイプは空いているの手を握って早足に歩き出した。
「、いい加減にしろ」
腕を引かれながら、はガードレールの先を視線で辿ってみた。
「黒と赤が欲しい」
灰色の石と碧色の沢を見下ろし、はそう呟いた。