深夜番組
畳に障子の部屋にドンと置かれた薄くて巨大な黒い板。なんとなく違和感がありまくりであったその板はテレビ受信機と呼ばれている物だった。
当たり前だが、ホグワーツにテレビなんて物はない、という事になっている。実はが持ち込んだりしているのだが、しかしそのテレビは持ち込まれたテレビとも違っていた。
「なんだ、この板。これ本当にテレビか?」
「今はブラウン管の時代じゃないんだよ。ブラック君」
「それよりジェームズ、の許可なく弄っていいのかな?」
リーマスの言葉にジェームズとシリウスは聞く耳を持たなかった。手当たり次第ボタンを押すと画面が明るくなる。
「砂嵐と日本語の放送ばっかりだ。あ、これケーブル番組かな……って、アメリカの番組ばっかりじゃないか。極端過ぎるよ」
リモコンで次々と番組を変えていく悪戯仲間に、狼は一人眠い目を擦り、そのまま寝てしまった。明日の朝は顔に畳の後がバッチリついていること請け合いだろう。
「おい、ジェームズ。ちょっと戻せ」
何か発見したのか、シリウスは慌ててジェームズの肩を掴んだ。ちょっと面倒臭そうな顔でジェームズが覚えたばかりのチャンネル操作を披露すると……一瞬固まった。
画面内で喘ぐ女性と、その上で動く男性。何を言っているのか理解出来ないが、言語が違っていようが何をしているくらいする判る。
普通ここからはエロトークに突入するものなのだが、たまに周囲から変人扱いされる二人は、今日もきちんと変人であった。
「演技だね」
「ああ、演技だ」
ブチ、と電源を切った二人は、興味なさそうに溜息を吐く。いくらリリー一筋、一筋でももう少し反応があってもいいが、重ねて言う、彼等は変人だった。
が、同時に、矢張り普通の少年でもあるわけで。
「いいなあ、ぼくもリリーとやりたいなあ」
「お前はその気になればいつだって出来るだろ」
「君はぼくが強引に事を運ぶような男だと!? 否! そんなことは天地がひっくり返ろうともシリウスが金髪になろうともリーマスの腹が白くなろうともありえない!」
基準がよくわからないが、シリウスはとりあえず叫び続ける友人を止めに入ろうとした、が、それより早くジェームズは口を開く。
「確かにぼくだって男だ! 何度リリーを我が物にしたいと願ったか! しかし強引に行けばリリーに嫌われる、それ以前に殺されるっ!」
「ああ、そう……だろうな」
リーマス以上に黒い微笑みを浮かべるリリーの姿を想像して、シリウスは寒気がした。寝苦しい熱帯夜には丁度いいかもしれない。
「君はコトの重大さをわかっていない! まったくもって理解していない!」
「なあ、おれも寝ていいか?」
「好きな人に誘われたいと思うのは男として当然の欲だろう!?」
「そうか?」
「そうか? だと!? そうに決まっているじゃないか!」
「おれ別に相手に不自由した事ないし」
「それは本命ではないからだ! よく考えろ! だからお前はヘタレ犬なんだ! というかの事好きとか言ってるくせに女抱いてる君の神経が判らない!」
何故シリウスが女を抱く事に対して自分が口出しをするんだ、となら言いそうだが、そんな彼は此処には居ない。
暴走するジェームズにヘタレ犬宣言を食らったシリウス。彼等の後ろで爆睡するリーマス。今更ながら、止める者は誰もない。
「君だってにメイド、裸エプロン、ネコ耳ウサ耳看護婦スッチー婦人警官! この際日本風にあの寝間着姿の上目遣いでチラリズム披露しながら「来て……シリウス」なんて言われたら天にも昇ると思わないのか!?」
ジェームズが言い切った後、しばらく間が空いたと思いきや……シリウスがボソリと呟いた。
鼻を押さえながら。
「……いい、それスッゲいい」
「そうだろう! そうだろう! ぼくも何度リリーに頼んでその度に殺されかけたことか!」
悦っているところ申し訳ないが、それを世間一般では学習能力がないという。
「おっと、どこに行くんだいパッドフット。我が盟友」
「いや、ちょっとの寝室に」
相変わらず鼻を押さえながら、よろよろと立ち上がったシリウスはそのままの寝室へ……
「おれの寝室に来てなにをする気なんだ?」
しかしそれより先に、リリー様も比にならないほどにドス黒い笑みを口許にだけ浮かべたが部屋の入り口で仁王立ちしていた。
月の逆光でどんな表情をしているのかは全くわからなかったが、その光さえ殺気に似た冷気によって遮られてもよかった。
「……そ、その、いつから、いたんだい?」
引きつった笑いを浮かべて話しかけたのは鹿の方で、犬は既に真っ青な顔をして冷や汗をダラダラ流していた。冗談抜きで命の危機。
けれど、それでもリーマスやスネイプに殺されるくらいなら彼の方がマシではないか、と、心の片隅で思っていたりもした。
「ポッターがエバンズに殺されると怯えていた所からだ」
「「(ヤバイ、冗談抜きにヤバイッ!)」」
話の内容をほとんど聞かれている。
「あは、あはははは、そ、それじゃあぼくらはそろそろ寝ようかな……ね、シリウス」
「あ、ああ! そうだな! おやすみ!」
「おれにとってはおはよう、だ。逃がすか阿呆共」
ビーチフラッガーも真っ青なダッシュ力でその場を逃げ出そうと目論んだ二人だったが。当然の如く失敗した。
は床に落ちていた狼を拾い上げ、振りかぶって、おもいっきり、投げた。
「「「うわぁあぁぁああぁあぁああ!!!」」」
夢から醒めた者一名、夢に墜ちた者約二名。
夢から覚めた少年、リーマスが現在の状況を把握出来ずにあたふたしているとがニッコリと黒く微笑みかけ一言。
「退け」
ハートマーク付でそう言った。
さすがのリーマスも眠気も一気にふっ飛び、無言で頷くしかない。それ程までに怖かった、恐ろしかったのだ、が。
こうしては夢の世界へ旅立った黒髪の少年二人を担ぎ、どこぞへ消えて行った。
リーマスは二人の行方が気になったが、自分の命の方が大事と判断したので、何事もなかったかのように寝室へと本能で戻り、そのまま現実で何が起こったのかを忘れた。
翌日、朝から機嫌の良いにスネイプが馬鹿二匹が見当たらない、と言った所。
「二人とも枯れ井戸で貞子ゴッコしている」
と笑顔で返されたらしい。
貞子ゴッコとは一体なに? と尋ねようものなら死ぬより辛い目に合わされそうだったので、スネイプはその日、何事もなかったの如く平和に過ごしたとか。
リーマスは二人を心配したが、恋敵は少ない方がいいから、と捜そうとしなかったとか。
ジェームズとシリウスが命からがらホコリ塗れで戻ってきたのはその日の夕方だったとか。
ジェームズがヤらしい番組を日本に来てから見ているという報告をから受けたリリーは大層ご立腹だったとか。
そんな様子をの祖母は微笑ましげに見ていたとか。