曖昧トルマリン

graytourmaline

踏切

「長いね、なかなか上がらない」
 いつまでも鳴り響く踏切の警鐘にリーマスは溜め息をついた。
「そんなものさ」
 は空を仰いだ。
「なんかシリウスだったら怒って潜っていきそう」
 黄色と黒の棒を眺めて、花火の入った袋を持ち直す。
「それは止めた方がいい」
 は苦笑した。
「ここはよく死人が出る」
 油断すると縛られて電車にはねられるぞ、そう言う。
「こっちのゴーストはタチ悪いの?」
 何もいない踏切の中を眺めながら目を細めてみる。何も見えない。
「霊というより、怨念だな」
 それは、とリーマスは感心する。
「怖いね」
 ぽつり、と呟いた。
「ああ、怖い」
 も無表情のまま同意した。
「そろそろ耳、痛いかも」
 電気仕掛けの箱が此方に来ると警告音が響く。
「もうすぐ終わる」
 届いた声が掠れた。
「参ったな」
 そのことに気付いて今度はリーマスが苦笑する。
「なんでだ?」
 は彼を見上げる。
「こんなに煩いんじゃ、の声が聞き取れない」
 何を言っている、はそんな表情をした。
「聞き取っているじゃないか」
 会話は成り立っていると言う。
「綺麗に聞こえないんだよ。もっと、ちゃんと聞きたい?」
 よくわからない、とルーピンは自分の言葉を評価する。
「疑問系か」
 では普段はどうなんだろう、はすこし考えたが。やめた。
「……うん」
 今度はルーピンが儚げに笑った。
「ねえ、
 その微笑のまま彼は続けた。
「なんだ」
 さほど興味なさそうにが見上げる。
「ぼくは君のことが好きだよ」
 確認のようにルーピンは言う。今更だった。
「そうか」
 は気のない返事をした。
「とても好き。愛してる」
 耳元で囁くような真似はしない。はっきりと言わないと警鐘に消されてしまうから。
「そうか」
 けれどは、やはり気のない返事。
「本当だよ?」
 確認するようにリーマスは言う。
「知っている。今までの行動が冗談だったら殴り殺す」
 の表情が少し動いた。
「あはは、そうだね。はぼくのこと、好き?」
 友人としてなら、言おうとして、は止めた。
「ああ。ずっとこうして、傍に居たい」
 そっけない態度で返された言葉にルーピンは呆然としていた。
「ルーピン?」
 急に動きが止まった友人が、少し心配になった。
「……っはは、参ったな」
 うん、そうだね。昔から君はぼくを好きだと言ってくれていた、ルーピンは言う。
「今でも、好きだ」
 はただそれだけ言った。
「うん、ありがとう。
 笑うルーピンと、呆れ顔の
「礼を言われるような事ではない」
 また、そっけなく応答する。
「うん、でも、ありがとう。本当はぼく一人に振り向いて欲しいんだけどね」
 ほらまたそんなことを言う。は内心呆れ返った。
「それは無理だ」
 そして、言葉にも出した。
「うん、そうかもしれないね」
 また袋を持ち直す。電車が通り過ぎた。
「帰るぞ」
 踏切が開く。
「あ、待ってよ。
 二人は並んで家に帰った。