グランドキャニオン
後ろは崖、目の前には鹿とか狼とかとかがいる。
そしてそのうちの二人の手にはなぜか麺類が握られているように見えた。
いや、握られているのだ。
そしてなにやら相談している。
「だからバンジーをやるには饂飩なんだよ! うどん!」
「絶対縮れ麺の方が伸縮しやすいって!」
友よ、うどんだろうと縮れ麺だろうと麺は食材であって決してバンジージャンプに使用するものではないことをおれは今、この場で心から叫びたい。
シリウスはそう思った。
「リーマス! バンジーはうどんだって昔から言われてるんだよ!」
「機能性を考えたら絶対に縮れ麺!!」
目の前で麺について論争する親友たちには悪いが、真剣な割にかなりアホに見える。
ただ一人、黙ってシリウスを睨んでいるを除いては。
「なあ、……あいつら一体」
「まったく、わざわざこんな所まで来たのにもう何年論争しているんだ」
何単位!?
たかがバンジーと麺について奴らはどれくらいの時間を費やしているんだ?!
というかココはドコ??!
「は? 今ごろ何を言っているんだ。グランドキャニオンでバンジーをしてみたいと言ったエバンズの要望に沿ってお前が実験体になったんじゃないか、忘れたのか?」
忘れたも何も言っている事が理解できないんですがっ?!
「ねえ! ! はうどんと縮れ麺のどっちがよりスリルを楽しめると思う?!」
「やっぱり脚攣る程うどんで痛く締め付けて突き落とすべきだよね!」
「絶対縮れ麺のほうが面白いって!」
必死にに迫る二人にシリウスは頭を抱えたくなった。
というか、抱えた。
「「!」」
「……なあ」
呆れたようには口を開き三人をじっと眺めた後に、溜息交じりでこう言った。
「あのさ、いっそのこと紐無しバンジーで何等問題ない気がするぞ?」
「「……そうか! さすが、名案だ!」」
「いや! 違げーよお前ら!」
シリウスは久々に心の底から深く突っ込んだ。
イロイロと。
「よし! シリウス! パッドフット! レッツ紐なしバンジージャンプ!」
「この上から清々しいまでにかっこよく死んで来い!」
「お前らワっケわかんねえってっ!」
叫びツッコむシリウス、笑い叫ぶ鹿と狼。
そして沈黙する。
「! 助けてくれ!」
「……ブラック」
ぽん、とシリウスの肩を叩いたは弱々しく首を振って顔を上げた。
いつもの真面目な表情で。
「大丈夫だ。おれはお前の肩を押すだけだから……生きるか死ぬかはお前が決めろ」
「へっ?! いや、! そういう事じゃないんだって!」
の手の平が、シリウスの肩を押す。
ひゅぅ、と下から風が吹き付け…ああ、落ちたんだな、と理解した時に……目が覚めた。
その時既に起きていたの言葉を、シリウスは忘れない。
「寝言大き過ぎるぞ……というか、お前の脳は欠陥品か?」
その日の朝、ベッドの上で、ひんやりとした視線を浴びながらシリウスは己の頭の馬鹿さ加減にハラハラと涙を流したのであった。