電光掲示板
「ああ」
平穏ではないけれどいつも通りの生活が戻ってくるまで残り1時間。チカチカと光っているライトの文字を眺めながら、二人は疲れたように溜め息をした。
ようやく、この騒々しい一日が終わる(と言っても午後はほとんど二人だけで時間を潰せたのだが)ことを考えると、少々、いや、かなり嬉しい。
「長い一日だったな…」
「ああ、長かった……本当に長かった」
途中、何度も見つかりそうになっては様々なところに隠れたものだ。
そのすべてを難なくやり過ごして、二人はここで一生のうちの半分くらいの運を使った気もしなくもなかったが。
「しかし帰ったら、エバンズが恐ろしい」
重大な命令違反を犯してしまったスネイプは、この後……明日の授業か、今日の就寝前あたりをかなり警戒しなくてはいけない事を思い出して少し気が重かった。
「その辺はおれからも言っておく……」
「ああ、よろしく頼む」
大体先にを放り出して待たせた揚げ句キレさせたのはグリフィンドールのあの連中なのだから、本来スネイプに罪はない。とはいっても連帯責任という非常に非情な民主主義を掲げられているため、そうも言ってはいられない。
ここは一つ、の行動に頼るしかない。もともとのガードでやってきたのだから、本当に何とかフォローをして貰いたいものだ。
目の前のオレンジ色の光を放つ電光時計が時を刻む。
「後一時間か」
「一時間も前から集合場所にいるのは元々来る気のなかったおれたちくらいだろうな」
「違いない」
キリのよい時間をその時計が告げると二人の背後で軽快な音楽が鳴り響き始めた。電飾に彩られたパレードの軍団が向こうの方からやってくる。
目の前の掲示板には相変わらず時を知らせる機能が働いたり、この遊園地の広告がチカチカと点滅したりしていた。
「……」
「なんだ」
「寒くはないか?」
しかしは首を横に振り、大丈夫とだけ言う。
やはり、すこし肌寒いようだ。
「……」
「スネイプ?」
黙って上着を脱ぐスネイプは押しつけるようにそれをの肩に羽織らせて、むすっとした表情で腕を組んだ。
暗くてあまり表情は分からなかったが、オレンジ色の光を受けて顔は赤く見える。
「……いいから着ていろ」
「本当に、いいのか?」
「袖のない服なんか着ていると体を冷やしやすい、風邪でもひいては困るだろう」
薄手の上着に袖を通すを眺めながらスネイプは突き放すように言うが、どう取ったって相手の体を心配しているようにしか思えない。
スネイプに心配されるほど体は弱くない、寧ろかけ離れて強いくらいのも、その言葉に甘えてきちんとその上着を着込んだ。
「ありがとう」
「別に。ただ、アレに今の気温や……湿度が表示されてたから。何よりお前に風邪をひかれたら間違いなくエバンズの罰が下る」
目の前のオレンジの文字の流れる掲示板を顎で差しながら「それにも肌寒そうだった」と口ごもる。
「……っ、いいから着ていろ! ぼくに説明を求めるな!」
何も問いただしていないのにそう言って視線を逸らしてしまったスネイプの背後で、はおかしそうに笑った。
オレンジの文字がゆっくりと時を刻み、強い風が吹いた。
この夢の世界よりもより現実味を帯びた魔法の世界へ帰る時間が迫ってゆく……。
蛇足だが、その後集合場所へやってきた犬や狼がスネイプの上着を羽織っているを発見して激しく彼を問い詰めたらしい。