ラッカー
「……なあ、スネイプ。おれの周囲の阿呆どもは五感を完全麻痺にまで追い込みたいのか?」
視覚(嫉妬の視線)、聴覚(犬科の鳴き声)、触覚(熱風)を現在不快にさせている上に、シーズンオフもあって塗り替え作業が堂々と行われている遊園地のアトラクションから漂ってくるシンナーのキツイにおい。
嗅覚まで駄目にされたは残る味覚すらもう捨てていて、第六感なんてモノまでこの人ごみの中で封じられたも同然であった。
確かに、ここまで来ると、キレる以外方法がないように思えてくる。
「撒くぞ」
「え? 、ちょっ!」
ヒールで走り出したにスネイプも慌てて走り出す。
当然後ろのシリウスやリーマスも走り出すし、更に後ろのストーカーまがいも走り出す。
ちょっと、いや、大分恐い。
「! 捻挫するぞ?!」
「この際構わん」
しかし、こんななれない靴を履いているとは思えないくらいの速さで走るはスネイプを引き連れて逃げる逃げる。
「こっちだ」
どこか隠れる場所はないかと探しつつ、走り続けるの腕をスネイプは半ば強引に引っ張り完全に死角になる所へ逃げ込みその狭いスペースの中で小さな身体を抱きこむ。
しばらくするとバタバタと随分な人数の足音が聞こえ、二言三言話したかと思うとどこかへと消えていく。
誰も来ないようなので二人はそっと影から顔を出し、見慣れた顔が誰もいないことを確認するとようやく日の下に戻ってきた。
「助かった、スネイプ」
「ぼくは構わない。足、大丈夫か?」
「問題ない」
まだ風に乗ってやってくるラッカーの不快なにおいには眉をしかめながら、風上の方へと歩き出した。
「それで振り切ったのはいいんだが、これからどうするんだ?」
「……どうする、と言われても。スネイプはスネイプの好きに行動すればいい」
「お前が引っ張って来たんだろう。第一、エバンズとの約束もある」
「そうか」
「そういうは何処か行きたい所はないのか? 遊園地に多少なり興味があるんだろう」
じっとスネイプを見上げたは小さく頷いて視線を逸らすと、無駄にでかく胡散臭い白亜の城をぼうっと眺める。
「城が気になるのか?」
「いや、パンフレットに」
「パンフレットに?」
「硝子細工の展示があると書いてあった、から」
見てみたい、と消えそうな声で呟いたの手を取り、仕方のない奴だと言いながら城へ引っ張っていく。
背後から抗議の声が聞こえても無視をして一直線に城へ向かうスネイプは、普段とは比べ物にならないほど穏やかな表情をしている自分に気付き、肩を竦めた。