曖昧トルマリン

graytourmaline

アスファルト

「もう30分になるな」
「ああ、暇だな」
「買い物一つに奴らはどれだけ時間をかけているんだ」
「全くだ」
 目の前の土産物屋にシリウスとリーマスが消えてもう30分近くになる。
 果たして商品を選ぶのに時間がかかっているのか、それとも例のストーカーまがい達に捕まったのかは知らないがとりあえず早く出てきて欲しい。
 木陰のベンチに座っているとはいえ、暑い。
「スネイプ。凄い汗だが、大丈夫か?」
「ああ、なんとかな……は、何でそう涼しい顔で過ごせるんだ?」
「そうか? 結構暑いんだが」
 それでも涼しげに汗を拭くは少なくともスネイプには常人に見えなかった。
 行き交う人々も、暑そうに濡れたタオルを首に巻いたり、飲料水を片手にしているというのに、まるでの周囲だけはまるで秋口の少し涼しい季節にでもなっているようだ。
「……少し待っていろ」
「え、…?」
 そういって立ち上がったは少し離れたところにある給水場まで走っていって、すぐに戻ってきた。
 真っ白な濡れたタオルをスネイプの首筋に当てて汗を拭う。
「コレで少しは楽になるだろう」
 首筋から肩にかけられたタオルが冷やりとして心地よかった。
「すまないな、
「熱中症になられたら後々面倒だからな、気休めにはなるだろう。水分補給もしておけ」
 吹き付けた熱せられた風がの髪を揺らした。
「……せめて土や砂利だったらな」
「……?」
「アスファルトは熱が篭るんだ、打ち水をしても熱いし」
「打ち水?」
 聞いたことのない言葉にスネイプは首を傾げた。
 はそれを見て笑い、濡れた薄いハンカチを額に当てる。
「涼を取る為に水を撒く事だ、何もしないよりは随分涼しいぞ」
「……そうなのか?」
「気化熱ってあるだろう、原理はあれだ」
 怪訝そうな顔をするスネイプに、はしばらく遠くを見つめるように考え込みながら肌に張り付いた髪を剥がしていた。
 一滴、汗が肌を伝い黒い服にしみを作って、すぐ消えた。
「いや……それよりも城の地下室に篭っている方がよっぽど涼しいな」
「それはぼくに対する皮肉か?」
「事実だ」
 不健康な肌の色をしたスネイプは、対照的に健康的に白いの肌を見た。
 彼のシミ一つない肌は女子の憧れらしい。
 かつ癖のない真っすぐな深緑を帯びた艶のある黒髪など、正に東洋の神秘だろう。
「どうした」
「いや、暑いな……」
「そうだな…」
 じっと下を見たにスネイプは何も言わずに阿呆みたいに青い空を見上げた。
 眩しい。
「こんなものがあるから、暑いんだ」
「アスファルト?」
「ああ」
「そうだな」
 それだけいうとはダルそうにスネイプの肩に頭を乗せ、ぼんやりと店の方へと視線を向け続ける。
?」
「だからこういう場所は嫌いなんだ。人は多いし、環境は最悪だし……」
 ようやく店から出てきたシリウスとリーマスを確認すると気だるそうに立ち上がり、今朝の如く不機嫌全開で二人を睨み付けるとスネイプと腕を組んで無言で歩き始めた。
 何事か背後で叫ぶイヌ科どもをスネイプも無視してに引かれるまま困ったように足を動かしていく。
「人は多い、環境は最悪、地面は熱い、おまけに耳障りな声に鬱陶しい視線……いい加減ストレスも溜まってきておかしくないとは思わんのか、あの阿呆どもが」
 ブチブチと不満を漏らすにスネイプはなんと応えればいいのか戸惑い、無言で引きずられていく方法を選ぶのだった。
 がいつかキレないことを祈りつつ。