年中無休
「今日一日が思いやられるな……後ろの二人もだが」
「リリーの命令とはいえ、なんでお前なんかと一緒に行動しなきゃいけないんだ」
「それはこっちの台詞だ」
妙な空気を纏っている四人の後ろを、更に取り囲む空気。
本人たちは尾行して、隙あらばに闇打ちでもするつもりだろうが生憎気配で丸わかりだった。寧ろ何しに遊園地に来たのかと小一時間問いただしたい。
誰もが異様な雰囲気に気付いているのに、この悪戯仕掛け人(仕掛けられ人)たちが気付かないはずもない。
「はいはい、二人とも喧嘩は止めようね。仲間内で分裂したらリリーに殺られるよ?」
「「………」」
「はい、よくできました」
リリーの名前を出すだけ黙る二人にリーマスは満足そうに頷いてを見る。
しかし彼の顔には「もう帰りたい」というのがありありと出ていた。
これでもかってくらいに。
「って、もしかして遊園地嫌い?」
「だから人の多いところは嫌いだと言っているだろう」
「じゃなくて、遊園地は嫌い?」
「……嫌いじゃない、興味はあった」
「あ、よかった。この上遊園地まで嫌いなんて言われたらまるっきり嫌がらせだからね」
「今でも充分嫌がらせの領域に達している」
ストリートファイトという名の大虐殺でもしでかしそうなにリーマスは困ったように眉を寄せて、ぽんと手を打った。
「じゃあお昼にしようか。ってお腹空くとイライラしやすくなるしね」
「昼って、リーマス。早過ぎじゃないか?」
「まだ10時を回ったばかりだろう」
に負けず劣らず不機嫌全開の二人の同級生相手に一人のリーマスは外見美少女の肩に手を置いて「だってさ」と笑う。
「昼近くに行くとお店いっぱいになるし。まあ、ぼくらがその時間帯に行ったら特にね」
見えない誰かに向かってそう言うリーマスの笑みは、今更だが明らかに魔王だった。
まあ、好きな人の機嫌が第三者のせいで最高潮に悪いのに機嫌がいいはずはないが。
「という事で今からここまで行こうと思います。、どう?」
パンフレットに載っている地図を指すリーマスにはやっと少しだけ笑って言った。
「好きにすればいい」
「はい、決定。あ、二人とも、文句ナシだよ。今日はぼくらはの騎士なんだから」
何か言おうとしたスネイプとシリウスにそう言って、機嫌を少し取り戻したにウインクする。
「でもぼくは騎士じゃなくてもの傍に居たいけど」
「リーマス、お前言ってるんだよ!?」
「うるさいよ、シリウスのくせに」
叫んで文句を言うシリウスを眼光のみで黙殺し、の頭を撫でてからぎゅっと抱く。
針のような、そんな視線が更に強くなった気がした。
「リリーにはああ言われたけど、やっぱり騎士が一人につき姫一人の方がいいよね。もそう思わない?」
「一応言っておく。誰が姫だ、殺すぞ」
物騒な台詞を吐き捨て、暑苦しそうに眉をしかめたはそれでもリーマスの腕の中で半ば以上は呆れている。
どうやら先ほどに比べれば少しだけ機嫌が戻ったようだ(スネイプ談)
「え? は姫だよ、昔からそう言ってるよね」
「そうそう。あ、でも守られるだけの存在じゃないんだよな」
「ぼくらより強いしね。セブルスもそう思うよね?」
「なんでぼくに……確かには騎士というよりは姫という雰囲気かもしれないが」
「おい、スネイプ」
恨めしげな声を上げてスネイプを見上げるはようやくいつもの表情に戻ってきて、周囲の雰囲気も学校生活のそれに似てきた。
相変わらずを抱えているリーマスと、それを本当は邪魔したいが恐くて出来ず傍観するシリウス、そうしていつかの鉄拳が二人に飛んでくる。
「スネイプにもそう思われてるんだからは姫決定だな」
「当たり前だよ、こんな可愛らしいが姫以外のなんだって言うのさ」
「……いい加減離さんかっ!」
しつこく抱いているリーマスに、やがての(いつもより控えめな)鉄拳が飛んで更にシリウスにも愛のローキック(シリウス命名)がお見舞いされる。
さすがにスカートなのでハイキックはないが、まさか下着まで女物ということはないだろう。スネイプはあの女帝の高笑う姿を思い出しながらそう願う。
「の力加減がいつもより弱い?!」
「ようやくぼくらを愛してくれたんだねっ!」
「貴様ら脳味噌腐れ!」
「……、文法が狂ってきたぞ?」
相変わらず抱きついてくる狼や犬を追い払おうとする姫に、やっぱり傍観するスネイプ。
なんか背中が痛いが気にしないことにした。
「やだ」
「ヤダじゃない」
べったりとにくっついているリーマスは二人に見せびらかすようにニッコリと笑った。
なんだか抱えられたがお人形みたいに見えて、しかも人形っぽいを抱えているリーマスにまったく違和感がない。
羨ましくもあるが、少々恐ろしい。
これはこの顔を持ったリーマスだからこそ見れる行為であって、これがシリウスやスネイプだったりしたら……ちょっと怖い。
「せめてお昼食べる店まで一緒にこうやって居たい」
「……」
「ねえ、いいでしょ?」
「……」
「やった! が許可してくれた!」
「「どこがだっ?!」」
沈黙を肯定に取ったリーマスはぎゅっとを抱きしめたままあまりにも嬉しそうにするのでも何も言わずに溜息だけついて好きにさせておいた。
なんだか犬とスネイプが吠えてはいるが。
「。あのね、あそこのデザートでカップルが挑戦できる巨大サンデーあるんだけど、一緒にやらない?」
「……本当の目的はサンデーか?」
「あはははっ」
ニッコリと笑うリーマスには腕の中で仕方なさそうに空を仰いだ。
「まさか、サンデーよりもの方が断然好きだよ」
「はいはい」
「本当だよ?」
なんだか二人の世界を作り上げようとするリーマスに、そうはさせまいと横から口出しをしてくるシリウスとスネイプ。
首筋の辺りが痛い、とか思いつつ当事者のはこの年中行事を最早第三者目線として傍観するのだった。