曖昧トルマリン

graytourmaline

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「絶対に嫌だ! 何故自分から人の集まる所に行かなければならないんだ?!」
「あー、でもどうしようね。もう登録しちゃったし」
 事の発端は、ホグワーツ生がマグルの社会見学と称して大型遊園地という所にいくという校長の話からはじまった。
 勿論全ての生徒が行けるはずもなく、成績はある程度優秀、当日の杖の携帯は禁止、魔法を使うのは当たり前だが厳禁、そして素行も安定している生徒が行ける、という事なのだが。
 あきらかに目の前の連中は一番最後尾の「素行安定」から逸脱しているのではないか、とかは思っている。無論、自分を含めて。
 しかし、彼の期待を裏切ったのはそこへ甘党腹黒大魔王リーマスのこの一言だ。
「リリーとが一緒に着いてくならってマクゴナガル先生も承知してくれたし」
「エバンズは兎も角何故おれなんだ!?」
「シリウス止める事が出来るのは君くらいだからね」
「何の話をしているの? ジェームズ」
 そこへやってきたのがホグワーツを支配する女帝、リリー・エバンズその御方だ。
「やあ、リリー! 今度行く事になったマグルの遊園地というものなんだけどねっ」
「あら? 私は一言も行くなんて言ってないわよ? だいたいその日は用事があるし」
「「「えぇー?!」」」
 突然のリリーの発言に、鹿とか狼とか犬とかは驚いた様子で顔を見合わせた。
「……ジェームズ? まさか私に黙って勝手に名前入れてないでしょうねえ?」
「あ、あははははは」
「なにかしらっ、その乾いた笑いは?」
「……リリーっ! ゴメンなさいっ!」
 グリフィンドールキングは敢え無く女帝に敗北した。
 しかしリリーの興味はそんな事よりも、路頭に迷った猫のような表情をして彼女を見上げているに向けられている。
? まさかも勝手に登録されていたの?」
「……ああ」
「ちょっと三人ともなに考えてるのよ?!」
 談話室に雷が落ちる。
が人酔いしやすい体質だって知らなかったの?! まったく、信じられない! 何年と付き合ってるのよ!」
「「「…………」」」
「可哀相な、こんな阿呆で馬鹿で救い様もない野郎共のいいようにされて……」
 結構酷い言われようだがこの三人の従者的存在の野郎共が女帝に適うはずもなく、ただ沈黙して事の成り行きを見守っていた。
「きっとこのナマモノ共のお目付け役にされたのね、でも私は行けないの……ああ、なんて不憫な子。大丈夫よ、離れていても私がちゃんと根回ししてあなたの安全だけは守ってあげるわ」
「いや、今から登録を解除しに行けばいい話なんだが」
「大丈夫! 要は人酔いしない様にガードを付ければいいのよね。それこそ周囲の人間全てが避けて通るほどの!」
「いや、だから」
「私が信用できないわけないわよね?」
「……はい」
 さすがにもそれは別の意味で嫌だったが、そこは所詮女帝とだ。
 強気に微笑む女帝に、も為す術などなかった。
 おそるべし女帝。
 しかしそこに口出しした怖い物知らずがいた。言わずと知れたシリウス・ブラック、またの名をヘタレ犬。場の空気を掴んでいても失言の多い男だ。
「そんな! を他の男に任せるなんておれは絶対嫌だぞ!」
「へえ、私の意見に反対するの? たかがシリウスの癖に。たかが肉球の癖に?」
 いまにも凍え死にそうな冷気を一方的に放つリリーは遠巻きに眺めながら、とリーマスはジェームズにアイコンタクトを試みた。お前の彼女だろう、どうにかしろよ、と。
 しかし所詮は鹿と女帝だ。勝率が皆無なのに勝負しようとする方がおかしい。
「ふふっ、そこまで言われたら私にだって考えがあるんだから……」
 ソコマデがドコマデなのかはともかく、リリーはを抱擁しながらにっこりと笑った。
 その笑みは、まるで悪魔の様だった。
「ちょっ、待ってよリリー。ぼくたちは……」
「ちょっと黙ってなさい?」
「……はい、黙ります」
 もはやこの女帝に適う男はこの談話室に、否、このホグワーツにいなかった。
「この世にはね、連帯責任という非常に似非民主主義的な責任の取り方があるの。一人のミスは皆のミスよ、一人の悪戯仕掛人のミスは悪戯仕掛人全体のミス」
 哀れピーター。
 彼は本当に何もやっていないのに、この後彼はこの女帝から手痛い御仕置をされる事だろう。
 ああ、悲しきかな連帯責任。
 おれは何もやってないのに何で怒られなきゃいけねーんだよ畜生な学校生活は全世界共通なのだ。多分。
「うふふふふ。ダイジョーブよ、。可愛い可愛いあなたの身の安全だけは保証するわ」
 その安全という範囲は一体どこからどこらへんなのか……とか思いつつ、別に皆でホグワーツに残ればすべての問題を解決できるのではないのだろうかとか強く思いつつ、は悪魔よりも恐ろしく妖艶に笑うリリーにただ頷くしかなかった。