曖昧トルマリン

graytourmaline

INSOMNIA

、大丈夫か?」
「だいじょうぶじゃない」
 大きな欠伸をしてごしごしと目を擦るを観察していたスネイプは、ほとんど手のつけられていない食事を横に退ける。
 体力的に限界が近いは、用意されたスープの中に顔面からツッコミそうになったり、握っていたスプーンをことごとく取り落としたりして、スネイプは大いに世話を焼いていた。
「その様子だと、もう食事は無理だな」
「……ふろ」
「溺死する気か、今日はもう寝ろ」
 船を漕ぎながらもシャワーを浴びようとするにそう言って、地下の一角に勝手に作った仮眠室のベッドに叩き込む。
 下僕妖精に取り替えられていた毛布はふかふか、おまけにルシウスに用意された服も上等、これで睡魔が襲っているのだから眠らない要素は何処にもないのだが、は据わった目を閉じようとしない。
「ねむれない」
「何故だ、眠いんだろう」
「ねむい。でもねむれない」
 何度も寝返りを打ってむずかるを見てスネイプは困惑する。これが他所から預かったただの子供であれば薬や呪文で眠らせるのだが、そうもいかない相手なのだ
 絵本の読み聞かせ、子守唄、浮かんだ案は即座に廃棄される。そんな事はやられたくないだろうし、第一自分のキャラではない。
 仕方なくベッドの上で転がっては唸っている髪を撫で、毛布の上から腹部を叩くと何故か大人しくなる。試しにそれを止めてみると、途端に再びむずかった。
「……こんな事で安心するものなのか」
 まっるきり幼児ではないかと呟くがその言葉は耳に入らなかったようで、軽く身動ぎすると小さなくしゃみをしてむくりと起き上がる。
?」
「さむい」
「寒いって……おい!」
 小さな二つのてのひらがスネイプの服を掴み、そのままベッドの中に体半分を引きずり込む。何故幼児にここまでの力があるのか問い質したくなったが、だからという事が理由となってしまう辺りが恐ろしい。
 その幼児の姿をした少年はというと、スネイプの低い体温でも満足したのか、気持ち良さそうにが頬を緩めて数秒後には目を瞑ってしまう。
「……それで、ぼくはどうしろと?」
 スネイプをあくまで友人としてしか見ていないは安心しきってすぐに眠りの国へと旅立ってしまったが、一応に対して恋愛感情のようなものを抱いているスネイプに取って、この環境は蛇の生殺しもいいところだ。
 だからと言って、隣の存在に手を出せるかどうかと問われれば返答に詰まってしまう。その辺りがスネイプが安全牌と見なされている理由でもあるのがもの悲しい。
 片付けられなかった食器も元に戻る為の薬も気にはならなかったが、明日までに眠れるのか、スネイプはそれだけをほんの少し心配した。