喫水線
「あ、ぼくも、ぼくも」
「おれも絶対してるだろうなあ」
「……お前ら、一体何の話をしているんだ」
「ぼくらがどのくらいが好きなのかを」
「邪魔したな」
「! ストップストップ!」
ニッコリ笑ってほざくリーマスには踵を返してその場を去ろうとした。それを引き止めるシリウスはどさくさに紛れての手を握ったため、後ろから狼に肘でどつかれた。
「つまりね、ぼくらは好きな人にどのくらいドップリはまっているかと船に例えていたんだよ」
ジェームズが器用に眼鏡を全反射させながら人差し指を立てた。
「ふうん」
「興味なさそうだね」
「他人の好きな奴など興味ない」
「うん、ぼくもないよ」
笑顔で放たれたジェームズの発言に、はちょっとだけ、毛の先程度に一緒にいる二人を不憫に思った。
「ちなみにぼくのリリーへの愛は、そう、あのタイタニック号が沈没するくらいさ!」
それって海に浮かんでいた巨大な障害物、もとい氷山だったかで沈没したんじゃなかったか? とつっこもうとしたが、ジェームズがその知識を持ち合わせていないはずないので敢えて何も言わない事にした。後が面倒臭いので。
「はぼくの事どれくらい好き?」
横からしゃしゃり出て来たリーマスに、はシカトを決め込んだ。
一応どれくらい好きと尋ねられて秒以下で嫌いという選択をしない程度には好きであったので返事をしないでいると、その思考を読んでいるリーマスが食い下がる。
「、教えてよ」
「比喩は嫌いだ」
「自分に対しての、でしょ。ぼくたちは気にしないから、ね?」
上目遣いに子供っぽい口調をするリーマスには仕方なさそうに答えてやった。
「笹船が転覆しないように使わない消しゴムを乗せたくらい」
「うわ! スケール小っさ!」
笑いながらつっこむジェームズに、それでもリーマスはほんの少しでもぼくのことを愛してくれたんだね! と感動している辺り、もう何も言わない方がいいかもとか彼は思った。
そしてまた、は気付いた。
物凄い熱い視線で自分を見上げているもう一匹のイヌ科。
もう何でもいいから言ってほしそうだ。尻尾がぱたぱたと振られているのがよく分かる。
「……プールに漂うビート板」
「!?」
シリウスは明らかにショックを受けた。
その言葉に、ジェームズとリーマスは大爆笑している。
「ビ、ビートバンって! ! 最高! 漂ってるって!」
「っていうか!それもう船ですらないし!」
「「沈んでないし!」」
声を揃えて爆笑する鹿と狼に、犬は壁に向かって「の」の字を書いていた。
「あら、楽しそうね。何しているのかしら?」
「リッリィー! ぼくがどのくらい君に対してメロメロ(死語)なのか話していたところだよっ」
あながち嘘ではない。
「まあ嬉しいわ、ジェームズ。それで、あなたは私にどのくらいメロメロ(死語)なの?」
「スペインの無敵艦隊が一隻残らず沈没するくらいさ!」
明らかに質量が多くなっている。しかもそれを沈めたのは彼らの母国だ。
しかし二人にとってそんな事は関係ない。
「でもそんな愛じゃ足りないわ!」
これで足りないというホグワーツの女帝。さすがである。
「せめてイギリスが沈没するくらい愛してっ!」
「ユーラシア大陸が沈没するくらい愛するよ!」
「ジェームズ!」
「リリー!」
部屋に帰ろうかな、とかは本気で思った。
「ところで、この二人の事はどう思っているの?」
砂浜で追いかけ合いそうな展開になっていた所を強制転換させ(ジェームズはリリーに足払いをかけられ顔面から床につんのめった)を振り返った。
「ぼくは笹船が転覆しない程度、シリウスは漂うビート板程度だって」
「あら、一人忘れていないかしら?」
リーマスの言葉に、リリーは悪女の顔で微笑んだ。
「、セブルスの事はどう思ってるの?」
「スネイプ?」
リリーの質問に、はほんの少し考えた後、真面目な顔をして言葉を放った。
「二人乗りボートに三人で乗っている位」
完全に負けたっ! リーマスとシリウスは心の中で思いっ切り叫んだ。しかし勝った負けたというレベルの問題でもない気がしなくもない。
「……それって、友人として? 恋人として?」
「友人に決まっている」
リリーの問いに即答するに後ろのイヌ科約二匹は密かにガッツポーズをした。友人として見られて平均値より重く見られるか、恋人として0に近く見られるか、彼等は後者を選んだ。
きっとこの二人、前者を選んだならもう少しまともな返答があっただろうに。
「君達見ていると本当飽きないよ」
そんな二人とを見て、ジェームズは鼻を押さえながらそう呟いたのだった。