見果てぬ夢
それ見て面白そうに笑う眼鏡の少年、隣で、その少年も呆れたような目つきをして、それでも微かに口元は笑っていた。
それを見逃さず彼をからかった眼鏡の少年は、次の瞬間窓の向こうへと放り投げられる。1人、巻き込まれて一緒に落ちていった。
最初に5人の少年が写っていた写真は、4人がフレームアウトして残りは1人となった。
同い年の子供よりも頭一つ背の低い少年。写真の中央で、彼以外だれも見ていないところで、とても静かに、幸せそうに笑みを零す。
「……」
杖を一振りすると灰になる手元の写真。
それでも、現実の彼は今もどこかでこうやって笑い続けている。
自分の、知らないところで。
「、お前は何故……笑っていられるんだ?」
答えが返ってくるはずもない問い。
それでも、問わずには居られなかった。
「何故、私と共に来てくれなかったんだ?」
手を差し伸べるには、遅すぎたのだろうか。
彼にとって自分は「リドル」ではなく「ヴォルデモート」だったのだろうか。
仮に、もしも自分が「リドル」であったのなら、は私の手を取って共に同じ道を歩んでくれただろうか。
「何故お前は私を独りにするんだ?」
彼は孤独の恐ろしさを理解しているのに。
誰かが居ないと生きていけないのを知っているのに。知らないはずはないのに。全ての記憶を思い出したはずなのに。
「お前は私を愛すると言ったのに!」
彼は言った。確かに、そう言った。
離別する際に、泣きながら、彼はそう言った。
愛すると。愛してくれると。
それだけを、何年も前に囁かれたその言葉だけを頼りに生きてきたのに。
それは自分に残された希望だったのに。
「私は……」
項垂れて、それでも自分自身をリドルと言えずにいた。
「リドルを返せ」と強い口調で言い放った。
幼い頃と寸分違わぬあの強い意志を秘めた瞳を向けて、今ここに居る、リドルともヴォルデモートともつかない自身の存在を否定した彼。
ヴォルデモートとリドル双方に対する「リドル」という存在の否定。
それは、自分にとってとても重要な柱を失った瞬間だった。
「気付いてくれ」
祈るように言葉を紡ぐ。
叶えられることはないと判っていても、それでも。
「私を、私を孤独に晒さないでくれ」
そして世界は色褪せる。
空が暗い灰色に見え始めた。
「……」
それでも心の奥底に残るのは彼に対する想い。
自分には彼が必要だ。水や空気や生や死の如く、当たり前のように彼の周囲に存在するものとして、は必要な存在だ。
どんな形でもよかった。それこそ憎悪でも、悲哀でも、なんでもいい。強い絆で雁字搦めに縛り付けて彼を傍に置いておきたい。
壊してでも、構わない。彼以外必要としない。だからこそ彼だけは、必要だった。
彼が傍に存在しなければ、全てに意味はなくなる。例え、それが世界であろうとも。いや、自分自身の命ですらも。
「私はお前を手に入れる」
絶望を見た人間の言葉、それはとても昏い誓いだった。