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リーマスの言葉に、は珍しく驚いた顔をしたが、すぐにもとの表情に戻った。
しんしんと振る雪は特に珍しくも無く、見つめるものは少ない。暖炉の前は騒がしく窓際にはぼんやりと窓の外に降り積もる雪を見つめている二人しかいなかった。
「綺麗に割り切れるのは、物質的なものだけだろう」
「うん、そうだね……」
窓に張り付いた雪の結晶が、内の暖かい空気に触れて一瞬で溶けた。
「でもはさ、結構、物事割り切る人間だよね」
「そうか?」
「うん、そう」
リーマスもも空を見上げたまま、白い息を何度か吐いた。
窓ガラスが白く曇って、なかなか元に戻らなかった。
「シリウスは優柔不断だよね」
「割とな」
はシリウスの顔を思い浮かべて、すぐに消した。
「ペティグリューも優柔不断だな」
「うん、それっぽいね」
リーマスはいつも落ち着きのないピーターの顔を思い浮かべて、微笑んだ。
「ジェームズはもう、リリー一直線だから除外」
「エバンズは割り切る人間だがな」
二人の言葉が、普段のジェームズとリリーを現している。
「ルーピンは……」
主語だけで、はそのあとの言葉を探してみた。ふと視線を横に逸らしてみると、リーマスがを見て、少し悲しげに笑っていた。
は肺から空気を追い出して、別の空気を取り入れる。
「割り切る前に、求めてもいいんじゃないか」
今度は、リーマスが驚いた表情をした。
「駄目だよ、ぼくは」
「ルーピン」
たしなめるように、はリーマスを正面から見た。
「どんなに少ないものでも割り切ろうと思えば割れるが」
は窓ガラスに指先を当てた。
「物を割り切るのは、自分のためだけじゃないだろう」
ひやりと冷たい指先を窓ガラスから離し、はポケットから小さなチョコレートを取り出して、綺麗に二つに割り切った。
紙に包まれた片方をリーマスに差し出して、もう片方を口にくわえる。
「残った分は、誰かに分け与えるためだと、おれは思うが」
「……うん」
チョコレートを口の中に放り込み、じんわりと溶けていくチョコレートを口の中で感じながら、リーマスは首を縦に振った。
甘い息を吐いてはガラスを曇らせると、そこに小さな平方根を一つ、落書きをした。
「ね、」
「なんだ?」
「そういえば、ぼくも求めてたよ」
「何を?」
「を」
くすり、と笑うリーマスをは一度見開いた瞳を戻し適当に相槌を打っておいた。
「でもさ、この気持ちは、割り切れなくても、割切れても、どっちでもいいや」
「そうか」
「うん。でも、そんな心配ないから、求めるけど」
の描いた平方根の中にハートマークを描いて、中を塗りつぶした。興味が湧いたのか、彼はそのハートの中を覗き込んでみる。
はというと、そんなリーマスの様子を少々呆れがちに見ている。
「あ、」
「どうした?」
「雪が止んでるよ」
リーマスの言葉に、まだ灰色の空を見上げてみる。
「……本当だな」
「結構積もったね」
「ああ」
窓から視線を外し、リーマスもそれに習うようにルートの中の、ハートの中の、外の風景を見るのを止めた。
「。この雪は割り切れるかな?」
はすぐに首を横に振る。
「まず無理だろう。出来てもやりたくない」
そう言うと、リーマスは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「じゃあぼくのへの気持ちもきっと割り切れないね」
「……?」
「ルートの中のハートの中にあるもん」
「……もうそういう事にしておけ」
呆れたようにいうに、リーマスは「うん、じゃあそうしておく」と答えた。
窓ガラスの、二人の落書きは、消えていた。