曖昧トルマリン

graytourmaline

のどあめ

「ジェームズ……おれ、に嫌われたかもしれない」
「なんだ、今更じゃないか。寧ろこの日が来るのが想像以上に遅かったよ、パッドフット」
 ある日の事、珍しくじめっとした空気で現れた黒犬に、親友の牡鹿は爽快なまでに笑いながら肯定してやった
「ちょっとは否定してくれたって良いじゃねえかっ!」
 力一杯そう叫ぶシリウス。
 それをあっさり聞き流すジェームズ。
 こんな二人のやり取りを、グリフィンドール生はことごとく無視した。ホグワーツキングの異名を取るジェームズはともかく、の事になったシリウスはそれはもう普段の五割増しで手の付けられない問題児なのだ。
 触らぬ悪戯仕掛人に祟りなし。
「はいはい、で? 今度はにどんな事をして嫌われたんだ?」
「何もしてないっ! 取りあえず寝起きに愛を語ってみてリーマスにぶっ飛ばされただけだ!」
「ふーん、いつもの事だね……じゃあどんな風に嫌われたんだい?」
「それがさ……」

モーニングコール時
『おはよう、
『……』(溜息)

朝食時
、魔法史の宿題済んだか?』
『……』(睨)

ついさっき
! さっきの授業なんだけど、』
『……』(無視)

「って感じなんだよ……」
「それはそれは」
 ニッコリと笑って、ジェームズはさっぱりと断言した。
「本格的に嫌われたね」
「やっぱりそうなのかな。本当にに嫌われたのかな……おれのこと飽きたのかな」
 キノコでも生やしそうな勢いの不景気なシリウスを見て、ジェームズはちょっとマズそうな顔をしている。
 彼としては、自分の一言に反発して再びのために恋を燃え上がらせる展開を目論んでいたのだが、長時間のシカトはシリウスには相当精神的に追い詰めるらしい。
「でもさ、彼、最近はよくシリウスの言葉にもちゃんと反応してくれるのにね。いきなり無視しだした原因は……やっぱり君が何かしたとしか考えられないよ」
 ほら、ってぼくらと文化が違うし、何か彼の癇に触る事やったとか、とジェームズ。
 しかしそうなると心当たりが曖昧過ぎてわからない。
 やはりここは……
「シリウス、本人に訊いてこよう」
「あら? 誰に何を訊くのかしら?」
「やあ、ぼくの女神様!」
 突如後ろに現れたリリーに、ジェームズはコロッと表情を変えて席を譲った。が、シリウスはそれどころじゃない。なんていうかもう、人生のどん底に突き落とされている。
 おかげでリリーが来たことにも全く反応していない。
「実はシリウスがの仕打ちに耐えられなくなってね、頭からカビやキノコを大量に生やしている最中さ」
「仕打ち?」
「話しかけてもなんの反応も貰えなかったんだって」
「ああ、なんだ。そんな事なの」
 ジェームズの言葉に、リリーはクスクスと笑いながら恋して悩める少年の肩を叩いた。
「はい、これ」
「……キャンディー?」
「ただのキャンディーじゃないわよ。一つ貸しであなたに上げてもいいわ」
 私は高いわよー、と微笑むリリーにシリウスは相変わらず撃沈していて、聞く耳持たない。
「とにかく行ってきなさーい!」
 そんなシリウスを9割方蹴飛ばすように追い払ったリリー様。
 普段と比較にならない程おとなしいシリウスは、吸魂鬼も真っ青な空気を取り巻いて、どこかに飛ばされたのだった。
「……はぁ」
 何だかもう絶望の淵に立たせれているシリウスは、とぼとぼと歩きながらとくに行くあてもなく廊下をうろついていた。
 右手にはリリーに渡されたキャンディー。
 しかも、普通の、どこにでもありそうな、なんの効果もなさそうなキャンディーだ。が食べ物で釣られてくれるとは到底思えない。
 それをじーっと見つめ、また溜め息。
 何となく前方を見て、発見。
 いつもならなんの躊躇もなく走って行くのになぁ……と昨日までの自分を思い返してみて、軽い自己嫌悪。
「あ……
 でも何となく呼び止めてしまう自分。
「……」
 立ち止まるも、やはり無言でシリウスを睨み付ける
、あのさ……コレ」
 取りあえず差し出してみたキャンディーを、は驚いた表情で見つめてシリウスの差し出したキャンディーを口の中に放り込んだ。
 でも、相変わらず無言。
「あー。じゃあ、おれはこれで……」
 気まずい雰囲気の中でシリウスは盛大なる溜め息を付きながら、その場を去ろうとしたが、の手がそれを食い止めた。
「え? ……? 一体」
 驚き戸惑うシリウスの肩を掴んで、強引に引き寄せた。
「アリガトウ」
「は……?」
 掠れた声で耳打ちしたはニコリと笑ってシリウスを見上げる。
 何が起こったのかよくわからなかったが、取りあえず自分を許してくれたようなので、シリウスはリリーに感謝しながらニコニコ笑っているの笑顔に悦っていくのだった。
 一方こちらは、そのころ談話室。
「へえ、じゃあはシリウスを無視してたんじゃなくて、単に喉が痛くて話せなかっただけだったんだ」
「そういう事。ジェームズも同室なんだから気付いてあげなさいよ」
「ぼくは愛しい君以外眼中にないのさ!」
「ありがとうジェームズ。さて、シリウスにはどうやって借りを返させようかしら」
「楽しそうだね、リリー」
「もちろんよ。私は高いからね」
「(頑張れシリウス、リリーは本当に高いぞ……)」
「今から楽しみだわあ」