曖昧トルマリン

graytourmaline

再チャレンジ・アニメーガス

ってさ、アニメーガスなのに何でぼくらと一緒にリーマスに会いに行かないのさ」
 就寝前の部屋で、ジェームズ・ポッターはふとした疑問をに投げ掛けた。
 そうなのだ。アニメーガスになるのに丸々3年を費やしたジェームズたちと違って、は入学当時からアニメーガスになれる登録済みの魔法使いなのだ。
 がいたからこそ、3年という期間でアニメーガスになれたと言っても過言ではない。
「夜更かしは苦手だ」
「いや、君が朝方体質なのは重々承知だけど……それだけの理由?」
「満月のルーピンに会いに行けば、恐らくおれは喰われる」
「え? って何のアニメーガスだっけ?」
 リーマスの言葉にはしばらく考え込んでからおもむろに机の上を漁りだした。取り出したのは、日本で出版されたマグルの動物図鑑。対象年齢が低いのか、カラー写真と丁寧な解説が付いている。
「ああ、これだ」
 ページをめくっていたは自身が変化する動物を指差した。四人はの周囲に集まり、本を覗き込む。
 そこに存在していたのは足がちょっと短い垂れ耳の兎で、ぼんやりとした個体なのか危機感を全く感じさせない円らな瞳を本の外に向けていた。
「ロップイヤーラビットなんて愛し過ぎるぞ! !」
「シリウスうるさい」
 外見から簡単に脳内変換できたのか、感極まってに抱き付こうとしたシリウスだったが、笑顔の大魔人にそれを遮られ、あえなく撃沈した。
「そうか、兎だと食べられちゃうかもしれないよね」
「残念だな、ぼくもと一緒に過ごしたかったのに」
「兎だもんなあ。可愛いけど」
「ねえ、アニメーガスって……その」
 もじもじと切り出したピーターに四人全員が視線を向けた。
「登録した以外の動物って、なれないのかな?」
「……どうなんだろ?」
「いや、出来なかったはずだよ」
「だっておれもジェームズも意識してそうなったわけじゃねえしな」
 口々に言い合っている友人を他所に、は少しの間考えこんでからボソッと呟いた。
「やってみるか」
『!?』
「えっ、ちょ、ちょっと! そんなの危険だよ?!」
「いや、そんなことはないぞペティグリュー。不可能を不可能と思っているから出来ないだけで、実際はやれば出来るのかもしれない」
 慌てるピーターを他所には挑発的な笑みを浮かべる。
 ジェームズは新しい玩具を与えられた子供のように笑い、シリウスとリーマスがピーターとを一気に抱き込んで髪をグシャグシャと撫で回した。
「ちょっとシリウス! どさくさに紛れてにキスしないでよ!」
「いいんだよ、が珍しく積極的だし! それにお前もやっただろ?」
 喜びを表現する仲間たちにジェームズはニッコリと笑ってそれじゃあ、と言葉を放った。
は明日からしばらく練習の日々だね」
「未登録の登録済みアニメーガスなんて史上初だな、きっと!」
「これでもぼくらと一緒にいれるんだよね」
、一日でも早く出来るといいよね」
 口々に言われて、はそうだなと答え、ゆっくりと目を細めた。
「……何だ、四人して固まって」
「そりゃだって、君があんな綺麗に笑うから」
「おれだって偶には笑う」
「あ、。君、人前でそういう拗ねた顔しない方がいいかも」
「……?」
「思わずキスしたくなる」
 ジェームズはそう笑って、の唇を、一瞬だけ奪い、その様子を目撃した犬と狼はトチ狂ったように怒り出し、あまつさえ次の日にはがジェームズにキスされたとリリーに告げ口するという大騒動まで発展した。
 その時に至上主義な二人は思ったそうだ。
 の事になるとリリーは修羅をも秒殺しそうだと。
「ちょっとジェームズ! と何しでかしてくれたのよ!?」
「リ、リリー! 誤解だ! ぼくはいつでもリリーを愛して……」
「そんなのわかってるわよ! 問題はよ!? 浮気は許さないけどに手出したらそれ以上に許さないって何時か言わなかったかしらっ!?」
 を実の妹以上に可愛がっているリリーから繰り出される魔法の数々を眺めながら、当の本人は非常に複雑そうな顔で血達磨になって行くジェームズを黙って見物した。
 これは余談だが、次の満月の日の夜。ホグワーツの校庭に大きな豹の影が現れたという。