灯かりをつけましょ爆弾に
その日、悪戯仕掛人たちは図書室の一画に固まって、何やらよからぬ相談をしている、ように見えるだけだった。
「いいかい、この本によるとの故郷のジャパンという国では明日、3月3日に『ジョウシ-ノ-セック』と呼ばれるパーティーがある」
ジェームズが古びた本の1ページを開いて説明し始めた。
「これによると明日はジャパニーズたちが桃の花と『オヒナサマ』を飾るんだそうだ」
「質問、プロングス教授」
「なんだい、ムーニーくん」
図書室の中だというのにチョコを頬張りながらリーマスは本の中の絵を指して「これがその『オヒナサマ』なの?」と尋ねる。
「どうやらそのようだ」
深く頷くジェームズだったが、そこに描かれていたものは、油灯ことぼんぼり。しかも堤燈並の大きさだった。
何処で何をどう間違ったのか、表面には黒インクでで荒々しく「Thunder Gate」と書いてあるが、他にも突っ込み所が色々と多過ぎるので無視をしておく。
「こんなもの飾ってジャパニーズは何のパーティーをするんだ?」
「いいところに気付いた、パッドフットくん」
パラパラとページを捲るジェームズにシリウスは全く持ってわからないと首を傾げた。隣ではピーターが目を擦っている。あまりに古い本なので埃が入ってしまったらしい。
「さて、このページにはこう書いてある『これは魔除けのためのものである』と、しかしぼくは思った。の国は魔法使いもマグルも関係なく魔除けの行事が多い。この日はきっと誰かに限定して行う行事なのだ、と」
流石主席と言うべきか、妙に鋭い所を付くジェームズに三人は神妙に聞き入った。
「そしてぼくは憶測と推測により結論を導き出した。そう、『ジョウシ-ノ-セック』とは少年限定の魔除けパーティーなのだと!」
憶測と推測、早い話が勘でしかない。しかもいい線まで行っているのに最後の最後で綺麗に滑っている。
「ぼくがその結論を導いたのには理由がある……」
「さっき『憶測と推測』って言ったばっか」
「うるさい! にうつつを抜かす癖にの国の文化もろくに調べてないくせに!」
「うっ」
ジェームズの言葉にシリウスは反論出来ず汗を流した。
今のあのがホームシックなどにはならないとは思うが、やはり自国の年中行事を誰とも祝えないのは、とか思ったりするのだ。
「さて、今頃その事に気付いた馬鹿は放っておいて次行くよ。ここだ……『この日に食べられるのがヒナアラレといい、シロキとクロキを飲む』」
「何それ?」
「ワームテール、これもいい質問だ。次に書いてあるが『シロキはアマザケといい、クロキはシロキに黒胡麻のペーストを入れたものである』そしてぼくは調べた『アマザケ』についてだ。そしてなんと……それはワインだった」
勢いよくジェームズが机に上に一枚のマグル製の写真を出した。
「ジャパンの胡麻ワインの代表がこれだ」
「このタヌキが?」
「違う、タヌキのぶら下げている奇妙な形の物だ。ジャパニーズの男たちは夜な夜なこの『オードックリ』とよばれる瓶を持ち歩いては酔って帰って奥さんに叱られる生活をしているらしい……そしてまた、このタヌキの置物を雄だ」
『成る程』
感心する三人に、この場にがいたら自国の文化を正しく伝える為に親切に突っ込んでやるだろう「根本的な部分が間違っている」と。そもそも3月3日は雛人形を飾るのではなく仕舞う日だという事から始まる全てを。
「さて、本題はここからだ。ぼくらはに、あの妙に勘の鋭いに気付かれないよう明日の計画を実行しなければならない」
額を合わせてヒソヒソと話をし始めた悪戯仕掛け人たちに周囲にいた生徒は少し距離を置く。巻き込まれては大変だという心情の表れだったが、それでも制止しないのは彼らの起こす騒動を望んでいるからであった。
「ピーターは囮に向いてない、はすぐぼくらが何かをやるって感付いてしまう」
「でも言い出したのは君なんだからジェームズも抜けられないだろ?」
「そうなると、おれかリーマスか」
「……ぼくはシリウスが行った方がいいと思うな」
「何だって?」
「だっ、だって、はリーマスに対して凄く鋭いし……」
「ああ、成る程。君はよく見てるね、ピーター」
「ジェームズ、同意してんじゃねえ」
「でも事実だよ。ね、リーマス」
「をシリウスと二人きりにさせるのは悔しいけど、確かにそうだね」
「お、おい。ちょっと……」
「ねえ、シリウス。このぼくがの相手役を譲ったのに何が不満なのかな?」
「喜んでお相手させていただきます!」
嬉しさ半分脅迫八割、はみ出た嬉しさは無残にも切り捨てられて詰まる所、脅迫まがいの恐怖九割嬉しさ五分。残りはそっとどこかに留めておく。
「よし、じゃあ決定だね。パッドフット、間違ってもに気付かれちゃ駄目だよ? 気付かれたらぼく等から手痛いお仕置きが待ってるから」
後日のシリウス・ブラック氏によれば、この時ニッコリと笑った眼鏡の主席の瞳は本気と書いてマジだったという。