曖昧トルマリン

graytourmaline

いろんな生命が生きているこの星で

「……最近思うんだが」
「何が?」
 窓の外の遥か下方で誰かの猫が誰かの梟を仕留めようとしている様子を眺めながら、は自分の手をせっせと動かしながら呟いた。
「ブラックとピ●ミンが、どことなく似ている気がする」
『は?』
 部屋に鎮座するの私物である改造テレビで、これもまたの私物である某ゲーム会社提供の乱闘ゲームを操作しながら牡鹿、狼、鼠の三人は、常に何を考えているのか理解出来ない少年の顔を見た。
 四人の間に流れる数秒の沈黙を破ったのは、画面の中のキャラクターが場外へ吹き飛ばされる悲鳴だった。
「ああっ! 酷いよジェームズ! リーマス! ぼくばっかり!」
「ははははっ! 何を言うピーター」
「『ジャクニクキョウショク』が世の掟だってが言っていたじゃない」
「おれは別に弱い者苛めをしろとは言っていない」
 カタコトの日本の四字熟語を言うリーマスには冷めた反応を見せる。
「尤も、やたらと弱いペティグリューも悪いが」
「ひ、ひどい……」
 の言葉とほぼ同時に、ピーターの操作するピンク色の悪魔がリンチに耐え切れず再び場外に吹っ飛んだ。
 ちなみに今ここにシリウスの台詞がないのは、彼がこの場に存在していないというわけでもなく、物理的に、所謂暴力で夢を見させられているからである。
 頭は良いはずなのに学習能力が著しく低いのか、殴られると判っていてに迫ったシリウスが悪いので、誰も何も言わないのが慣例となっているのだが。
「それで。、君はこのパットフットくんが、かの二足歩行動植物と似ているという結論に至ったのは一体どういう経緯を辿ってだね? まあ確かに、君が笛やラッパを吹いたら喜んで反応しそうではあるけど」
「……何となく、全体的に。こう、ふよふよしてピコピコしてるから」
『ふよふよピコピコ?』
 ってどんな例えだよ、と三人の心境が重なる。
 参考までの身長比、シリウス>ジェームズ>リーマス>ピーター≧
 明らかにこの面子中で最も身長の低いがシリウス相手に言う台詞とは思えない。
「うーん……もしかして、あの歌の歌詞?」
 ジェームスの言葉にはやや考えてから無言で頷く。
「ああ、確かにこの肉球。にだけは異常にノロケてるよね」
「男同士なのにね……」
 しみじみと語るリーマスとピーターに、はなにやら弄っていたシリウスの髪から手を離し、緑の油性マジックの蓋を外した。
 リーマスは例の動物性植物の歌を口ずさんでいる。
「(リーマスって思ってたより音痴だよね……)」
「ピーター? 今何か言ったかい?」
「あああああ! 何も! ぼく何も言っていないよ!?」
 冷や汗を流しているピーターと今にも鼠を喰わんとする狼をベッドの上から見下ろしつつは歌の続きを歌った。
「今日もー運ぶー戦うー増えるーそしてー」
「……」
「……」
「……」
『……食べられる?』
 なんとも表現し難い沈黙が部屋の中に降り、タイムアップを告げたゲーム画面の中だけが妙に騒がしい空間が出来上がる。
 ぶつり、とテレビの電源を切り神妙な顔で思案していたジェームズがおもむろに口を開くと、途端に部屋の中で小規模な議論が勃発した。
「シリウスって何を運ぶのかな? やっぱり?」
「ペティグリュー、おれは常にこいつに運ばれる程ヤワじゃない」
「じゃあへの愛情って事でファイナルアンサー」
「重いのか軽いのか微妙なチョイスだね、ジェームズ」
「ぼく、それ、ある意味凄く重いような気がするなあ」
「……ブラックごと一緒に海に沈めたい」
「青くないから確実に溺れ死ぬだろうけど、さらっと犯罪予告しないようにね」
「話戻すけどさ、そうなると戦うってことは敵だよね。だったらぼくが恋敵になって適当に抹殺してあげようかな、いい加減邪魔だし」
「リーマスも犯罪予告と本音を語尾にあっさり混ぜるのを自重しようね」
「(怖いなあ、この二人……)」
「ああでも、歌の通りコイツが増えるのは正直邪魔だよね」
「(違った、三人だった)」
「ジェームズ、君も本音を自重すべきじゃないかい?」
「増殖する前に巣ごと塵も残さず殺してやる……」
「はい、から二度目の死体消失系完全犯罪予告戴きましたー」
 冗談らしく聞こえて実は割と本気な三人の言葉にピーターは心理的に一歩引き、リーマスとジェームズはそれぞれの表情で笑う。
 一人、だけが少し真面目に見える顔で思案して、気絶している、というより気絶させたシリウスを眺めぽつりと呟いた。
「第一、おれの恋愛対象は3歳以上年下だからな。ブラックは圏外だ」
『……』
 真顔で言い切ったにジェームズとピーターが顔を見合わせる。
「ジェームズ。この場合ってロリコンになるのかな?」
「彼の場合ロリータ・コンプレックスと呼ぶよりは類友って表現した方がいいような気がしないでもないような……っていうか、そういう系の犯罪にも走らないでね?」
 ちょっとだけの好みを疑ったピーターとジェームズは、ほんの少しだけ顔色を悪くさせながら引き攣った笑みを浮かべた。
「……しばらく出る」
 冗談を言ったのに真に受けられているぞエバンズ……と誰にも聞こえないくらい小さな声でボヤきながら部屋を出て行ったを二人は見送り、まだベッドで爆睡しているシリウスをいい加減起こそうかと顔を覗き込んだ。そして、ほぼ同時に噴出する。
「「あははははははは!」」
 にも歳相応の悪戯心があったのか、女性から羨まれる黒髪は可愛らしくお団子に纏められ、額には「meat」瞼の上には気持ちの悪い目玉を書かれたシリウスを二人は目撃し、爆笑のツボにはまった。
「ムーニー! ムーニー! ちょっとコレ見てよ!」
「うわあ、シリウスどうするのかな? が書いた何て言ったら絶対隠さないよ!?」
「痛い愛だね」
「痛いのはシリウスだけどね!」
「……」
「「リーマス?」」
 無反応で教科書を読んでいるリーマス少年に二人は笑うのを止めて声を掛けた。怒っている訳ではない、けれど、何故かその背中は恐い。
「……ねえ。ジェームズ」
「い、いきなりそんな真面目になって、どうしたんだい?」
「魔法薬学だったか呪文学で若返る方法ってあったよね? どうやるんだっけ?」
 かなり真剣な言葉に、二人がドン引きしたのは言うまでもなく、その後、さほど長くない髪をポニーテールに結んで帰ってきたが現れるまで、このリーマス少年の犯罪計画を牡鹿と鼠は必死にとどめたという。