曖昧トルマリン

graytourmaline

かみなり

 畳の上にぐったりと体を預けたは、翳り一つもない黒い瞳をリドルに向けた。
 その瞳は、痴態を演じられる前と何ら変わりなく黒水晶よりも透き通ったまま目の前の男をじっと見据える。まだ、神鳴りは低く、うめくように灰色の空を走りの小さな声などそれに掻き消されてしまうのではないかと思うくらいか弱かった。
「リ……ドル……」
、そんな目で私を見ないでくれ」
「ごめん、ね……」
 振り切れそうな程弱く腕を掴まれ、リドルはそっとを抱き起こす。
「ごめ、ね……わたしが、もっと……強かったら……リドルが、こんな」
 閃光が届かなくなり、次第に消えていく空からの音の中では目の周りに涙を溜めながら呼吸を整えた。
「こんな事、しなくて、いいくらい、強かったら……」
、私は……違うんだ。私はもう、お前とは会わない」
「リドルが……人殺し、だから?」
「違う。私は……が、お前が、愛しい反面、恐ろしかった」
「……」
「お前は私を堕とす……私を堕落させる。容易く、道を誤らせる」
 今はまだ、幸せになってはいけない。リドルは自分にそう言い聞かせを突き放し、瞼の上に手の平をかぶせる。
「お前の存在が、邪魔だったんだ」
「……判ったよ、リドル」
 柔らかい声でリドルに話し掛けたは、隠された表情の下で微笑み言葉を続けた。
「わたしは、リドルを嫌えない。だから、ヴォルデモート卿を嫌わせて……憎ませて。リドルにこんな事をさせたヴォルデモート卿を殺したいほど、憎ませて」
?」
「だから……お願い、いま此処にいる、わたしの知ってるリドルは……消えないで」
 小さなの手がリドルの大きな手の甲に乗せたれた。月明かりが、ぼんやりと二人の手の平を照らしている。
 もう一方の手で杖を握ったリドルは手の平をどけ、それを小さな手を絡ませながらやんわりとした微笑を称えた。
「全てを手に入れて、私にヴォルデモート卿が必要なくなったら、迎えに来る。約束だ」
 記憶を封じる為の呪文を唱え始めたリドルに、はほっとした表情で最後の言の葉を紡いだ。
「待つのは、慣れてる。貴方を久遠に想い続けているから……迎えに来てねリドル」
 すべての記憶を封じてなお、最後に笑いながら流したの涙が、リドルの胸に焼け付いて離れなかった。