曖昧トルマリン

graytourmaline

呉竹

 名前を呼ばれ、伏せられていた少年の瞳が声のした方へと開かれた。
 濃藍色の夜空から降る星明りに背の高い男の輪郭がぼんやりと見て取れる。足音が近づく度にキシキシと廊下は音を奏で、夜空を見上げ縁側に座った少年の前で彼は立ち止まった。
 何をしているんだと紅の瞳が優しげに尋ねると、黒い瞳は無邪気に笑い意思の疎通を図ったようだった。
 しかし生憎、男はそれを理解する方法を持ち合わせてはおらず、困惑した様子で同年代の少年に比べて細く小さな体を抱き上げた。
、もう寝る時間だろう」
「うん、もう寝るよ。今はね、ちょっと」
「ちょっと、どうした?」
「……秘密」
 誤魔化すように笑い、青年の額にコツンと小さな額を合わせて腕の中から飛び降りる。
「おやすみなさい、リドル」
「ああ、おやすみ」
 夜空を見上げて、少年はその場を離れた。
 の去り際、リドルの指先が無意識に絡め取った一房の黒髪がスルリと音もなく流れ落ち、少年の背中に広がる。
 髪の落ちる感覚に気付いたのか、少年は足を止め一瞬考えた後、振り返って冷えた体で青年に抱きついた。
?」
「おやすみなさい。リドル」
 腰にしがみつく様な形で同じ台詞を言って、驚くリドルにはクスクスと笑う。
「やっとも年相応に甘えるようになったか。背は相変わらず小さいが」
「私昔から甘えただと思うんだけど。それに身長はこれから伸びるの、寝る子は育つって言うんだから!」
「それなら尚更早く寝なさい。あと興奮すると寝付けなくなるぞ」
 一気に気が抜けたのか、呆れがちに言うリドルに少年は素直に頷いて自分の部屋へと歩き出した。
 途中、一度だけ振り返ると、青年は表情には穏やかなものが浮かんでいたので、はそれだけ確認すると何も言わずに彼の死角から星空を見上げた。
 自分のしていたことを彼に一切言わないのは、言ってはいけないと自分で決めたから。
 常に傍には居ない彼がどうか無事笑顔でいられるようにと、毎夜交わす自分自身との秘密の約束。
 それはまだ幼い少年のささやかかな験担ぎ。