みたらし川
ぱしゃん、と一瞬より長く水滴の落ちる音が聞こえ、また川の流れる音に溶けていく。
「ねえ、リドル」
「ん?」
しばらくして、ようやく口を開いたの呼びかけに、リドルは腰をかけていた大石から身を乗り出した。
眼下には何をするでもなくただ清流の中に佇む子供。
「恋って、神様に祈るものなのかな?」
「……いや、私は違うと思うが」
突然の問いかけに、たっぷり間を置いて答えるリドル。
若干口元が引き攣っていたが、の視線は下を向いたままリドルを見ようとしていなかったので彼の姿を見るものは誰も居なかった。
「神に祈ったところで相手が振り向くはずもない」
「ううん、そうじゃなくて」
背伸びをするように視線を上に向けて、は大きく息を吸う。
「恋を断ち切る為に神様に祈るの」
「ならば、尚更無理だな」
即答したリドルと視線が重なり合う。
彼が続けた。
「自分自身の心の問題だ。祈る祈らない以前の問題だろう」
「リドルは、どうだったの?」
「私か?」
問われて、彼が声に出して笑う。
「生憎だが、私にそういう経験はない」
真紅の瞳が和らぎ清流から上がる少年の姿を捉える。
両足を拭い着物の裾から水を滴らせながら岩を登ってくるに手を貸し、引き上げる。
そのまま互いに無言で見つめあい、やがてそれに耐え切れなくなった少年が顔を真っ赤にしてその手を振り払うと今登って来た道を勢いよく下りて行ってしまった。
そして再びリドルを見上げ、は言った。
「私はリドルに恋なんてしてないんだからね!」
照れ隠し経由で脳内暴走を果たしたを見つめ、リドルは面白そうに笑う。
その笑みを別の意味に取ったのかは不明だが、は更に顔を赤くしならが魚のように口だけをぱくぱくさせ次の言葉をどうしようかと迷いだす。
しばらくして、彼の脳みそは沸点を通り越してショートしたのか、彼は眼下の少年から機械が煙を上げて破裂したような音を耳にした。
多分、幻聴だろう。
「」
名前を呼ぶと、いつもは上げられるはずの視線が伏せられた。
「こ、恋なんて、してないっ!」
彼がなにか言う前にもう一度叫ぶと、は逃げるように屋敷まで走って行く。
「……私は何も言っていないんだがな」
後を追うリドルの口元は微かに綻び、顔は紅潮していた。