曖昧トルマリン

graytourmaline

天の橋立

 小川に小さな顔を覗き込ませていたが、ふと呟いた。
「ねえ、リドーさん。クラムボンって、なんだろーね」
 深い緑の林の間から差し込む陽光に目を細めながらそう尋ねてきたにリドルは首を横に振って判らないと短く言った。
 クラムボンという生物など見た事も聞いた事もないと言うと、はそっかと小さく呟いて苔がびっしりと生えた丸い岩の上に腰を下ろす。
も見たことないの」
「クラムボンとは一体何なんだ?」
「わらうの」
「……?」
「本に出てきたの、跳ねて笑ったりするの」
 懸命に説明しようとするに益々判らないというように首を傾げるとリドルはその隣に座って小さな頭をぽんぽんと撫でた。樺桜の蘇芳と赤色が小さな体を森の中で華やかにさせ橙のリボンが風に揺れる。
 沢蟹が足元の小さな岩を登り、それをじっと見つめていた少年は笑った。
「見てみたいのか? そのクラムボンという生き物を」
「ううん、ちょっと気になっただけ。リドーさんなら、見た事あるのかなって」
 枝の上からじっと水面を眺めている青い鳥を手招きして肩に招くと黒く細い嘴が白い樺の花を銜え、の膝の上にぽとりと落とす。
 小さな手がそれを拾い上げてリドルに見せると、彼は微笑んでそれを髪に飾ってやった。
「でも、いつかも見れるといいなって」
「もしかしたら、もう見ているのかもしれないな。の知らないところで」
 冷たい風がまた足元を吹き抜けると鳥がどこかへ羽ばたいていってしまった。それを少し残念そうにした少年は青の柔らかい羽を指先で包み込む。
「そーだったら、素敵ね」
 やんわりと微笑むにリドルは頷き、小さな体を抱え上げた。
「そろそろ帰ろうか」
「うん」
 柔らかい体を抱きしめ歩き出したリドルには笑いながら短い腕で抱きついた。
「リドーさん、リドーさん。クラムボンはね、かぷかぷ笑うんだよ」
 何か楽しそうにリドルにそう言った少年に頷いてやりながら彼は家路へとつく。
「もしがクラムボン見つけれたらリドーさんに一番に教えるの!」
「楽しみにしているよ」
 樺の香りを纏ったようなの、その額に口付けをしながら微笑むと、二人はまた笑いながら他愛ない話をして家へと歩いていくのだった。