ナンバリング
客人も滅多にいないので、呼び鈴すらない家の中には若い男性の声が響いた。
は箒を持ったまま男性の前に現れて不安そうにその人物を見上げる。郵便局の職員のようにも見えたが、いつも家に来る年を召した男性ではない。
「こんにちは」
「……こんにちは」
「さんのお宅、でよかったよね?」
「はい」
竹ぼうきを持ったままのに微笑んで一通の手紙を差し出した。
「じゃあ、お家の人にこれを渡してくれるかな?」
「お手紙? お兄ちゃん、ゆーびんやさん?」
「うん、そうだよ」
「いつもと、ちがうひと」
「ああ、そうか。そうだね、いつもの人は今日はお休みなんだ。しばらくはお兄ちゃんが来るからよろしくね」
「……はい」
きゅっと箒の柄を持ったはその手紙を受け取ると明るく去っていく青年にバイバイをして、家の中に帰って行く。
たちまち至る所から座敷童や妖怪がやってきて、今のは何だったのか、その手紙はなんなのかと尋ねてきた。
「待って、さきにお掃除しなきゃ」
それは自分達がやるから、とにかく手紙が見たいと伝える周囲のものには困ったように差出人の名前を見て思わずその人物の名前を出してしまう。
「リドーさんからだ」
あて名は祖母ではなく自分だという事を年長の座敷童に指摘され、は箒を手渡し慌てて封を切った。
白い便箋に青いインクで書かれた文字には、リドルが今居る国の事やの事を気遣った文章が美しい曲線で綴られている。
久し振りにリドルの声を聞いた気がして、は自分の表情が綻ぶのが分かった。
手紙を縁側に置きいて箒を受け取り、上機嫌に庭の掃き掃除をやっているとよりも小さな座敷童が遠慮がちに裾を引く。
「どうしたの?」
『これ、きれい』
指されたその先には確かに綺麗な風景が描かれた切手が封筒に貼ってあった。
きちんと現地の消印が押されたその封筒を手に取り、も静かに同意する。
『でも、ざんねん。ハンコが押してある』
「これはね、消印ってゆーの。キッテには絶対に押さなきゃいけないんだよ」
封筒を手に持ってが言うと、座敷童はやっぱり残念そうにそっかと呟いた。
それだけ言うとその座敷童はどこかへ行ってしまい、残されたは一人でその手紙をじっと見つめる。
「……海のお外の国って、とっても遠いね」
リドルが遠く感じるが、それでも産まれて始めての手紙はとても嬉しいものだった。
海の向こうでは、やたらとカードを送り合うのも納得出来る。
「好きな人から貰うと、とっても嬉しいもんね」
は手紙を懐に入れ、再び掃除をするために庭の奥の方へと走っていくのだった。