雲井の月
「約束をするときはこーするの」
まだまだ小さい小指をリドルの指と結び、歌うように言葉を口ずさんだは笑う。
「そうか。それで、は私となにを約束したんだ?」
「リドーさんがシアワセになりますよーにって」
「……それは約束じゃないくて、お願いだな」
くすくすと笑いながら膝の上に小さな体を乗せたリドルは困ったように首を傾げた子供を抱きしめて、柔らかい髪に唇を寄せた。
くすぐったいのか、が笑うとリドルも微笑う。
「でも私はもう幸せだから、お願いをするならが幸せになるようにで構わないよ」
「だっても、もうシアワセだもん。リドーさんがいてくれるからお願いしなくてもいーの」
無邪気で屈託なく笑うにリドルは困ったように髪を掻いて、ふと以前交わした会話を思い出した。
その程度の小さな幸せで満足している少年に胸が痛い。
「でも他にもっとやりたい事とか、欲しいものがあるんじゃないのか?」
「ううん。リドーさんがと一緒にいてくれるのが一番タイセツだから」
「そうか」
膝の上で器用に方向転換したは出会った頃から全く変わっていない小動物のような大きな瞳を向けて笑った。
「だからリドーさんがシアワセならもシアワセなの」
多くは望まないその姿は、少年が自分とは全く違う人間なのだと理解させられた。
自分が子供なのか、それともが子供ではないのか。
「でも……」
「ん?」
「……ううん、なんでもない。お茶とお菓子持ってくるね」
膝から降りて部屋から出て行ってしまったの消えそうに囁いた言葉が耳に残る。
「お父さん、か」
彼自身はあの愚かな父親を憎んでいた。父という立場すら、憎くなっていた。
誰も愛さないし、子供が出来ても躊躇うことなく殺すだろうと思っていたのに。
「血が繋がらなければ、手に入れられるかもしれないのに」
本音を言えば、他人から見れば異常なのかもしれないが、血を繋ぎたいとは思っている。けれど、それは不可能だし、繋いではいけない事を知らされた。
「まったく……私がこんな事に悩むなんて思わなかった」
口には出さないが、一人きりの契りを胸に秘めよう。
せめてがもう少し大きく育つまでは、彼を息子として見てみるのもいいかもしれない。
この家にきたその時では予想できなかったなかった出来事だけれど、決して嫌というわけでも、嫌悪することでもないのだから。
「リドーさん、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。それより今日のお茶菓子はなにかな」
そんな二人の会話に、平凡な昼下がりはのんびりと過ぎていく。