歴史は夜にもつくられる
開発と埋め立てが進む中央区新川の一角、倉庫をそのまま持ち上げたような建物のロフトに目的の店はあった。外壁は飾り気のないコンクリートが剥き出しで、年月の薄い傷を幾つも抱えたまま黙って立っている。通り過ぎる人間の多くはそこにレストランがあるとは思わず、仮に思ったとしても扉を開ける勇気を持てない。
だが、一歩足を踏み入れると、空気はまるで別の生き物のように変わる。
光量を抑えられた照明は光そのものよりも影を丁寧に扱っており、腰を据えた静けさで来店を歓迎していた。オーク材の壁面は長い時間をかけて深い色に沈み、その上をなぞるように水晶のようなボヘミアン・グラスのコレクションが並んでいる。緻密で繊細な技法が施されているガラスは光が当たる度に色彩が小さく震え、客の視線を密かに奪っていく。
グラス達は、ただの装飾ではなかった。其々が個別の記憶を閉じ込めているかのように、静かに、しかし確かに存在を主張している。ワインの香りや交わされた言葉、飲み干されなかった夜の続きを、どこかで知っているような顔をして。
少なくとも今はまだ、嫌な感じはしない。背丈も歩幅もそれぞれが別のリズムを刻む弟達に囲まれながらはそう判断して、外の湿った空気から涼しげな屋内の空気の包容を素直に受け取った。
「良い店ね」
主催が叔父でなければ、という言葉を彼女は飲み込む。品の良さそうなウェイターがすぐに彼等の来店に気付き、次いで叔父の靖一郎が普段よりも足早にやって来たからだった。叔父は兎も角、ただ真面目に働いているだけのウェイターを不快にするような言葉を慎む程度にはにも良識がある。
「やあ、よく来てくれた、何ヶ月振りかねえ、いや、皆元気そうで何よりだ」
靖一郎の表情だけは既に宴の終盤に差し掛かっているような妙な軽やかさを帯びていた。動きに無駄な勢いがあって、声は店の静けさを壊さない程度に弾み、それでいて抑えきれない嬉しさが端々からこぼれている。
走馬看花の四文字がの脳裏によぎり、双子の弟も似たような故事成語を思い出したのだろう、招かれた側の態度こそ崩さなかったものの叔父の言葉については8割程度希釈して受け取っていた。
皆を代表した始がひとまず上辺だけの挨拶を済ませると、その横で年少組がアイコンタクトで会話をしている様子がの目に入る。余に対して片目を瞑ってみせた終は奢らせ甲斐がありそうだとでも言いたげで、その横で続が表情に出さず苦笑していた。
「さあさあ、座りなさい。たまには年長者らしい事もしないとならないからね、茉理も、こちらに来なさい」
若干窮屈そうな面持ちでブルーのカクテルドレスを着ていた茉理を招いた靖一郎は大げさな身振り手振りを交えてウェイターを呼び、店の奥まった場所に予約されていた8人掛けの大きなテーブルの上座へ座る。その間、茉理に対して気さくな称賛すらも伝える気概を見せない双子の弟をは視線でのみ非難していた。しかし、更に姉の態度を観察していた3人の弟はというと、長兄にそんな甲斐性を求めるのはいい加減不毛なのにとでも言いたげな目をしており、との間に温度差を生み出していた。
「さて、皆揃った事だ。乾杯しようか」
靖一郎の言葉を合図にウェイターがグラスに飲み物を注いで回ると、その流れのまま乾杯の音頭を取る。ワインやジュースが注がれたグラスが緩やかに掲げられると表面上は穏やかな宴が始まった。
モラビア風ローストポーク、チェスキー・クルムロフ風合鴨の蒸焼、カルルシュテイン城風牛頬肉の赤ワイン煮込み、クトナー・ホラ風キノコのクリーム煮、テルチ風根菜のグリルに蜂蜜と黒胡椒のソース、リトミシュル城風チーズのパイ包み焼き。運ばれてくる皿のひとつひとつが地図の上を旅しているような錯覚を誘い、テーブルの上に遠い異国の地名が静かに刻まれている。
それらは単なる料理名に留まらず、どこか旅程表のようでもあった。知らない街、見た事のない石畳、誰も歩いたことのない時間。それらが皿の上に凝縮され、色と香り、何よりも味となって立ち上る。
「いいだろう? 料理というのはね、名前から始まるんだよ。土地の匂いも、歴史も、全部そこに詰まっている」
主催の靖一郎は上機嫌でグラスを傾けながら軽薄な台詞をしみじみと口にした。彼は既に2杯目の白ワインを飲み干しており、その頬はアルコールの影響で赤らんでいる。
年少組は叔父の言葉に一切の興味を示さないまま嬉々として料理を堪能し、続は何の感慨も抱いていない様子で粛々とカトラリーを進めており、始と茉理はとりあえず視線を交わしていた。
消去法で相槌を打つ係りとなったは、碌な給金も出ない故に仕事で相対する同伴客に差し出す愛想を極限まで削ぎ落としたおざなりな返事を義務的に行う。傍から見るとの返事は理解というよりは通過儀礼に近く、言葉は置かれているのに温度も湿度もごっそり抜け落ちていた。
靖一郎が放つ軽口の隙間を縫うように、皿は次々と空になっていく。カルルシュテイン城風の煮込みはすでに面影もなく、テルチ風の根菜は終の前でだけ妙に減りが早い。
パン屑が残り僅かとなり、グラスの中の液体もさっきよりずっと穏やかな高さに落ち着いている。そんな中で、靖一郎は満足げに背もたれへ身を預け大きく息を吐いた。その傍らではウェイターが静かに空いた皿を手際よく下げていき、その動きに合わせて空間の密度が少しだけ軽くなる。
「食後のお飲み物はいかがなさいますか」
落ち着いた声が宴の終わりをやんわりと告げた。マリガンや四人姉妹どころか共和学院の事すら話題には挙がらず、平和に終わりそうな食事会の空気に年長組はそれぞれ視線を合わせて長女の懸念は杞憂だったかと判断を下す。
「コーヒーを……ああ、せっかくだから場所も変えようか。少しだけ、席を移して」
靖一郎が即座に応じる。待っていましたと言わんばかりの滑らかさで店員に案内されるままテーブルを離れ、奥へと進んで行った。
食後の時間を楽しむために作られたテーブルに着いた途端、靖一郎がそそくさと化粧室へと退席したが、席を離れるタイミングとしては適切であるので誰も気には留めず座り心地の良い安楽椅子へ身を預ける。ロフトの更に奥、半ば区切られた別席は、先程のテーブルよりも照明が落ち着き外の気配が近く、隅田川の水面が窓越しにゆるやかな光を返していた。食器の音は遠ざかり、代わりにカップの触れ合う静かな気配が満ちてくる。
やがて運ばれて来たコーヒーは深い色を湛え、湯気と共にほのかな苦味を漂わせていた。ボヘミアン・グラスの代わりに、今度は白磁のカップが控えめに光を受けている。
「さて」
化粧室から戻って来た靖一郎がカップを手に取り、ゆっくりと一口含む。
仕草こそ落ち着いている風に取り繕っていたが、声は自慢したくて堪らないと言った様子が手に取るように分かった。
「ここからは、少しだけ真面目な話をしようか。実はな、今度、アメリカのマリガン国際財団と提携する事になったんだ。今夜はそれを君達に知らせておこうと思ってね。共和学院の前途は、極めて明るいよ」
「ええ、叔母様から伺っております」
間髪を入れずに返したの一言は、丁寧な絹で包まれていながら中身にはしっかりと針が仕込まれていた。
得意満面だった靖一郎の手が、ほんの一瞬止まる。自分が最初に語るという高揚が砕かれ静かに行き場を失って行き、カップの縁に触れたままの唇が次の言葉を探すように微妙な間を生んだ。
「……それはそれは。いやあ、女性同士は情報のやりとりが早いねえ」
「性別は関係ありませんわ、叔母様は必要な情報の伝達を漏らさない方ですもの。フライングになってしまいましたが、わたしとしては助かっています」
柔らかい声色のまま、コーヒーの苦味を確かめるようにほんの少しだけ時間をかけてはカップに口を付ける。
対して、靖一郎は一瞬だけ視線に不快感を宿し、それからすぐに軽やかな笑みに戻った。その笑みは場を保つためのものというより保ったかのように見せるためのもので、縁だけが整えられていて内側にはまだ小波のようなものが残っている。
「なら話は早い。いや、本来なら私から順を追って説明したかったんだけどね」
「順序が入れ替わること自体は問題ではありませんわ。問題は、その中身です」
「君は随分核心に寄りたがるようだ」
「弟達の学び舎ですもの、無関係ではいられません。提携とは即ち外と内を繋ぐ門です。開けば人も資金も流れ込む。同時に、内側のものも外へ出ていく」
「喜ばしい事じゃないか。マリガン国際財団の功績は君も知っているだろう」
「ええ、共和学院が太刀打ち出来ない大きな力です。門は一度開けば閉じるのに倍の力が要りますが、マリガン国際財団が相手ともなれば閉じようと手を掛けた瞬間に押し潰される。叔父様には、その覚悟がおありですか」
「覚悟なんて後から付いてくるものだよ。まずは開ける。話はそれからだ」
「順番が逆ですわね」
「成功する人間は、大抵逆からやるものさ」
靖一郎は軽く笑い飛ばす。だがその笑いは空振りした音を含んでいた。
始はというと叔父の態度について言及する気はないものの、前理事そして創立者の孫として聞いておきたい事があるとでも言うように静かにカップを置き、口を開く。
「具体的には、どの分野での提携ですか」
声音は平坦だが関心の焦点は正確だった。雑談の皮を一枚剥がした仕事の問い方に靖一郎は姪との不毛な会話を切り上げて甥に向き直る。
「教育と研究の双方だよ。資金提供だけじゃない。マリガン国際財団は世界90カ国で文化や芸術、学術研究、医療福祉、教育と他分野に影響を与えている。人材の交流、カリキュラムの共同開発……まあ、簡単に言えば国内だけでなく国際的にも共和学院の格が上がる」
「なるほど。格ですか」
「ああ、分かりやすくて結構だろう? いずれ共和学院からノーベル賞受賞者を出す事だって夢ではなくなる。内も勿論大切だが、外から見える価値も大事だからね」
「中身より外装が先に来るタイプのやつですね」
「続君は本当に言葉を選ばないな」
「選んでいますよ。これでもかなり」
会話は軽やかに往復するが、その底にはわずかな緊張が沈んでいた。コーヒーの苦味がちょうどそれを縁取るように舌に残る。
「叔父さん。その提携、条件はどのようなものですか?」
始の問いに靖一郎は一瞬だけ視線を泳がせ、それからすぐに笑みを戻した。
「とはいえ、細かい話はこれから詰める段階だ。だが悪い話ではないよ、むしろ、これを逃す理由がない」
「逃す理由がない話ほど、理由を探したくなるものですけどね」
がぼそりと差し込む。
「君も中々手厳しい」
「可愛げで契約は結べませんから」
短いやり取りの後、ふと静けさが落ちた。窓の外で、水面がわずかに揺れ、さっきよりも夜が近い。
はカップに口を付けず、そのまま正面から靖一郎を見ていた。
その視線を受け止めたまま、靖一郎は一度だけ軽く咳払いをする。場の空気を整えるような、しかしほんの少しだけ逃げ道を探すような間。やがて彼は、ふと思い出したように指先を鳴らした。
「ああ、そうだ、続君。ちょっとこちらの部屋に来てくれんかね」
「ぼくだけですか?」
指名を受けた続は眉を動かしただけで立ち上がらない。無事に終わろうとしていた食事会の空気が張り詰め、続の身の安全の為に行かせるべきではないと他の姉弟達が無言で意見を一致させる。
その空気を感じ取ってはいるものの、引く事は出来ないのだろう。靖一郎はどうにかして続だけをこの場から離したいようで、説得のフェーズに入った。
「そ、そうなんだよ。君に是非引き合わせたい人がいるんだ」
「兄が一緒ではいけないのですか」
叔父の後ろめたさの理由を知っている続は不信感を隠しもせず靖一郎にぶつけ、あからさまな態度を取られた靖一郎はというと不快感を堪えながらも物分りの良い大人を装い若干崩れながらも笑顔を作っていた。
「それが若い御婦人でね、続君のファンだそうだ。始君も、そういうご対面に割り込む程、野暮ではなかろう」
「お断りいたします」
叔父な狡猾な物言いを両断したのはで、良い拒絶に言い訳が思い浮かばず腰を浮かせようとした続を視線で抑え、温度を感じない視線を靖一郎へ向ける。
「叔父様、続はこう見えて未成年です。どれだけその御婦人がお若くても、お嬢様という呼び方でないのなら成人しているのでしょう? 保護者の同伴がない状態で単独で引き合わせる理由にはなりませんわ。続は、わたしと始の庇護下にある少年です」
「ああ、そっか。続兄さんって未成年だったね」
「普段の言動顧みると全然そんな風に思えないけどな」
「思えなくても、現行の日本の法律上ではアンタ達と同じように続は未成年よ。その未成年を単独で成人と引き合わせる? しかも教育関係者が仲介ですって。21世紀なら兎も角、今は20世紀末よ。叔父様、何か一つでも間違って続に害が及べば共和学院の大きな醜聞になる事は理解していまして?」
の言葉の切れ味は刃物に近く言葉の端が一つも揺れない。
靖一郎は一瞬だけ言葉を探すように視線を泳がせ、それでも表面上は笑顔を崩さない。崩さないが、どこかで少しずつ歪み始めている。
仮に醜聞になるような事態に陥った場合、マリガン国際財団は自分を助けるだろうかという答えに、脳裏で否という言葉が点滅したのだろう。の言う何かが起こった場合、トカゲの尻尾にされるのは間違いなく靖一郎であることは彼自身もよく分かっていた。
けれど、それでも彼は引かない。少なくとも、マリガン国際財団は小言と嫌味しか投げ付けてこない甥姪とは違い、靖一郎に巨大な利益を齎すからだった。
「いやいや、そこまで構えなくても……礼儀としてだね、挨拶程度で」
「礼儀は双方に適用されるものです。こちらが不安を覚える状況での挨拶は、礼儀ではなく圧力と呼びます」
「随分と厳しいなあ」
「積み重ねの評価です」
靖一郎への評価はその程度だとが扱き下ろし、更に続けた。
「叔父様。もしも本当に紹介が目的なら、その御婦人をこちらにお呼びいただけますか。続が未成年であることを説明していただければ、良識のある方なら全員が同席しても差し支えないと判断してくださるはずです」
「それは、いや、その……」
のそれは一見すると譲歩の提案だが、実際には逃げ道を塞ぐための整然とした網だった。条件を提示し、その条件に従えば安全は担保される。従えないのであれば何かを隠していると自白するのと同じで、呼べないと言えばそれだけで話の筋が歪む。
姪から突きつけられた2択に靖一郎は言葉を選びかね、視線を泳がせる。先程までの軽やかさはコーヒーの湯気と一緒にどこかへ消えていた。
「……その方がね、あまり人前に出るのを好まないんだ。特に、大人数は」
「それでも紹介したいと?」
の問いは静かだが逃げ場を与えない。
「う、うん。そうだ。むしろ、だからこそ……」
言い淀む靖一郎の様子を続は黙って見ていた。拒絶の姿勢は崩していないが、その目は少しだけ色を変えている。警戒の中に、別の種類の計算が混じり始めていた。
「叔父さん。その方、マリガン国際財団と関係がありますか」
質問よりも確認の言葉に、場の空気が動く。
靖一郎は一瞬だけ間を置き、それから観念したように息を吐いた。
「……ああ。向こうの意向に影響を持つ人物だ」
「ファンというのは?」
「君の論文を読んでいるらしい。正確には、評価している、かな」
姉は一度だけ視線を伏せ、それから靖一郎を見据えた。
「それを先に言わなかった理由は?」
「場を選びたかったんだよ。あの方は気難しい。大勢で押しかける形は、好まない……学校の為にもマリガン国際財団とは良好な関係を結びたいんだ、分かってくれるだろう?」
言い訳にも聞こえるが、完全な虚言でもない。微妙なところで現実に触れている。
続はカップに視線を落とす。コーヒーの表面に映る彼の顔は、先ほどよりも少しだけ考えている顔をしていた。
「兄さん。話を聞くだけなら、行ってもいいと思います」
「ちょっと、続。さっきまでの流れで行くの? わたしは反対するわ」
「姉さんが何と言おうと行きますよ。ここで断っても、叔父さんは後日、別の形で接点を作るでしょう。だったら情報を持って帰った方が合理的です」
「……ああ、もう頑固者。仕方ないわね、始はどう?」
続の決意との問い掛けに、始はすぐには答えない。数秒だけ続の目を見て、それからゆっくりと口を開く。
「単独行動はリスクだぞ」
「はい。けど、ぼく1人の方が向こうの警戒も解けるでしょうし、長くても15分で戻って来ますよ。それで戻らなければ探しに来てください」
軽く言うが冗談ではない温度があり、始がゆっくりと頷いた。
「叔父さん、10分でいいですね。それが守られないなら今回は見送ります」
靖一郎は一瞬だけ渋い顔をしたがすぐに頷いた。
「分かった、それで結構」
「じゃあ、行ってきます」
椅子の脚が静かに床を擦り、先程とは違う意味で場の均衡が揺れる。情報を取りに行く人間のそれなりに乾いた足取りだった。
続が靖一郎に連れられて入口へ向かうと、が化粧室に行くと告げて席を離れる。続を追うつもりである事は全員が分かっており、彼女を制する者は一人としていなかった。
「お姉ちゃん。乱入するつもりかしら」
「心配しなくても大丈夫だって、茉理ちゃん。その辺、姉貴は上手くやるからさ。それよりさ、始兄貴、ロフトの屋上にテラスがあるらしいんだ、余と見に行っていいか?」
弟や従妹の会話を背中で聞きながら早足で場を辞したは宣言通り化粧室へ赴き、小さな内窓を開けるとその身を甲虫に変化させ夜空に飛び立つ。黒地に赤い斑点を持つナミテントウは夜の路地裏を迷うことなく飛んで最短経路で店の前まで移動し、白い麻のスーツの肩に留まると以降の移動は人間に任せるかのように動かなくなった。
隅田川の向こう、佃の造船工場跡地には大型旅客機の3倍はあろうかという巨大な飛行船が係留されており、20万平方メートルを超す巨大な空き地に白い影を作り出している。静止しているにも関わらずどこか呼吸をしているように見え、係留ロープが軋む音が空気の重みを如実に表していた。
食事会の最中に音もなく現れた飛行船のあまりの大きさに、続の肩で文字通り羽を休めていたナミテントウは先日途中乗船した飛行船とはまったくの別物だと感想を抱いたが、その表情と感情が誰かに悟られる事はなく、合図とも単なる調整とも取れる微かな動きで翅を震わせるに留まった。
金属のタラップは2人分の硬質な足音を響かせる。しかし、実際にキャビンへ入り込んだのは3人である事を知るのは、人の指先ほどの大きさもないナミテントウだけだった。